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交差の魔導士  作者: オズ
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第3部 交差の魔導士 外伝(因果を超えて) ep.2 陽の王都

「陽の王都」

エレオスは王都での警護任務に就きながら、密かに魔力の探求を続けていた。

そんな折、一つの情報が舞い込む。


――陰の国との国境付近で発見された古代遺跡から、不穏な魔力が漏れ出しているという。

その遺跡は、陰と陽の魔力だけでなく、未知の魔力をも放っているというのだ。

また負の魔力も漏れ広がっており、周辺に負の災魔の被害が多発していた。


陽王トランセスはこの事態を重く受け止め、遺跡の調査と防衛体制の強化に乗り出す。


陽王トランセスは、当代随一の魔導士と称される人物である。

しかし、その力を振りかざすことはなく、自ら筆頭魔導士の地位には就いていない。

自ら筆頭魔導士の地位に就かないのは、魔力の力だけで物事を解決しようとしない姿勢と言われている。


近ごろ、陰の国から遺跡への不審な潜入事件が相次いでおり、国境地帯の緊張は日に日に高まっていた。

そしてついに、時空の魔女自らが遺跡へ侵入するという事件が起こる。

その時、折しも王トランセスは遺跡を視察していた。

時空の魔女は警備の魔導士や封印を蹴散らし、奥へと進もうとする。

トランセスはすぐさま後を追い、古代遺跡の深部で彼女に追いついた。

激しい戦いが始まる。

時空の魔女は時空魔術を使おうとするが、陰の国からの魔力供給線は既に限界に達していた。

さらに遺跡深部に蔓延る“負の魔力”がその供給を妨げ、魔術は精度を欠いていた。

その不完全な時空魔術では、王の隙を突くことはできなかった。


戦況を悟った魔女は、これ以上の深入りを断念し、遺跡から撤退していった。


時空の魔女が去った後、トランセスは深く思案する。


「陰の国はなぜ、ここまでこの遺跡に執着しているのか……?」


トランセスは自ら、遺跡に封印魔術を施すようになる。


そして、遺跡の守りを統括させている筆頭魔導士ヴァルタスに、それを敢えて破るように挑戦させている。


ヴァルタスは凄腕の魔導士だったが、トランセスの術はあまりにも堅牢で、魔力封印の全てまでは突破出来ていない。

トランセスはヴァルタスの結果に満足していなかった。今のままでは時空の魔女からこの遺跡を守り切れないと。


やがて、王は筆頭魔導士以外の魔導士にも封印突破への挑戦をさせるようになっていく。


期せずして、それは次の筆頭魔導士を選ぶための、王が与えた試練の様相を呈していく。


エレオスは、その挑戦に名乗りを上げることを決意した。

彼の内にある2つの未知なる魔力――

それが、遺跡の魔力と関係しているように思えていたからであった。




「王の試練」

ついに、試練の日がやってきた。

古代遺跡の前に立つエリオス。

その前に立ちはだかるは、陽の王トランセスが自ら施した、幾重もの封印魔術と残存魔力の結界だった。


それは誰一人として最後まで突破できた者のいない、鉄壁の防御結界であった。


エリオスは遺跡に足を踏み入れる。


その瞬間、残存魔力がエリオスに襲い掛かる。


エリオスは数々の残存魔力を撃破しながら、封印魔術を打ち破り続け、遺跡の内部へと突き進む。


その王の試練にエリオスの疲労は限界に達していく。


そしてついに、最後の封印を打ち破る。



その報を受けた王トランセスは、深く目を閉じて呟いた。


「……見事だ」


トランセスは直ちに、エレオスを陽の筆頭魔導士に任命し、古代遺跡の守護と統括の任を授ける。


突然の任命に、前任の筆頭魔導士ヴァルタスは激しく憤った。

名も知れぬ流浪の魔導士に、誇り高き地位を奪われたという屈辱は、容易に消えるものではなかった。

長きに渡り培った王との友情にも近い信頼関係が、糸も簡単に奪われることは彼にとって耐え難いものであった。


エレオスは任に就くと、すぐさま古代遺跡の防御強化に取りかかった。

同時に、遺跡そのものが発する魔力の謎にも心を傾けていく。


やがて彼は、ある仮説にたどり着く。


「この遺跡の地下最深部には、伝承にある“因果の結晶”が眠っているのではないか。

世界の中心にあるとされ、すべての因果を繋ぎ、支えている――その結晶が、何らかの異変に見舞われているのではないか」


エレオスはその考えをトランセスに伝えた。


王は少しの沈思の後、真剣な眼差しで頷く。


「ならば、共に確かめに行こう」


こうしてふたりは、因果の結晶の真偽を確かめるため、遺跡の最深部へと歩を進めるのだった。




『因果の結晶』

遺跡の奥深くには、重苦しい魔力が渦巻いていた。


それは“負の魔力”の濁流。

そして、その中に蠢く“負の災魔”たち――


エレオスはこう考えていた。

この異様な魔力の源は、おそらく地下最深部に眠る“因果の結晶”の異変によるものではないか、と。


これまで陽の王トランセスでさえ、その最深部にたどり着いたことはできていなかった。

だが今、エレオスとトランセスは、負の災魔たちをかいくぐり、魔力の奔流に抗いながら、奥底へと歩を進めていく。


そしてついに、彼らは到達する。


地下最深部――

広く開けた空間の中心に、“因果の結晶”が鎮座していた。


だが結晶は傷ついていた。


深く入った亀裂からは、負の魔力が滲み出しており、その力は周囲を蝕み始めていた。


「……やはり、異変は実在していたか」


事実を前に、ふたりは言葉を失う。

この負の魔力の流出を止める術は、今の彼らにはなかった。


しかし、エレオスは密かに気づいていた。

因果の結晶と、自身の内に眠る未知なる魔力が、微かに共鳴していることを。

それは、何かが目覚め始めているという予感に他ならなかった。


ふたりは一旦この場を離れる決断を下す。

最深部への安全な経路を確保しつつ、遺跡の外へと戻った。


帰還したエレオスは、いつものように古文書の解読に取りかかろうとする。

その瞬間――

彼の内で芽生え始めた力と古文書が共鳴し、封じられていた精霊が目を覚ました。


精霊は、エレオスに宿る未知なる魔力について、静かに語り始める。


――かつての「時空の魔女」との戦い。

自らの死を偽装し、彼女を欺いた魔力の正体。


それは “真” と “虚” の魔力であった。


その日から、精霊との鍛錬の日々が始まった。


世界の理に触れるため、

エレオスは己を、さらに鍛え上げていくのだった。




『陽王の思い』

その姿勢と誠実さに、陽王トランセスはますますエレオスへの信頼を深めていった。


エレオスもまた、王に深い尊敬を抱くようになっていた。


彼が掲げる理念――「寛容」。


かつて流浪の身であった自分を受け入れ、この地で生きる道を与えてくれた、その寛容に対して、エレオスは心からの感謝を抱いていた。


(この王がいなければ、私はもう……この世界に居場所はなかったかもしれない)


一方、トランセスの遺跡の視察の回数が増えていく。それはまるでエレオスに会うことを目的としているかのようでもあった。


王トランセスもまた、エレオスに不思議な親近感を抱いていた。


(この男は、なぜか私と似たような“孤独”を纏っている……)


トランセスは過去の偉大な王たちに倣わんとし、自らの理念「寛容」を掲げ、自らもそれに恥じぬよう厳しく律していた。


同時に家臣たちもそうあるべきと考えていた。家臣たちは表向き、トランセスを称賛しているが、心から賛同している家臣は多くはなかった。

その理念は美しく崇高だが、家臣たちにとっては時に重荷でもあったのだ。

王は、己の信念と現実のはざまで、孤独を抱えて生きていた。


ある日、王はエレオスにこう語りかける。


「私の封印を、君はすべて破った。

それはすなわち、他の者にも破られる可能性があるということだ。

だからこそ、最後の封印は――君に託したい」


それは古代遺跡の最深部、因果の結晶が置かれている場所の封印であった。




「それぞれの思惑」

陽の国では今、かつてないほど魔導士たちが充実していた。

特に、当代随一の魔術の使い手と称される陽王トランセスに迫る実力を持つ、筆頭魔導士エレオスの登場は国を勢いづかせていた。


もはや陽の国は、陰の国を完全に凌駕している――そんな空気が広まりつつあった。


時空の魔女といえども、時空魔術には大量の魔力を要し、多用できるものではない。その事実を、陽の国の中枢は冷静に見抜いていた。


一方の陰の国では、政情不安と過剰な魔力徴収によって国力が目に見えて衰退していた。


今こそ陰の国へ侵攻する好機ととらえ、王宮では陰の国の征服案が提出される。


「陛下の掲げる“寛容”の理念に反するのではないか――」


わずかに反対の声が上がったが、それはすぐにかき消された。


「陛下の理念は英邁で、我が誇りですが、仮に陰と陽の立場が逆なら、我らに未来はあるでしょうか?ここは現実を見るべきです。」


ある重臣が静かにそう切り出す。


その言葉に、多くの重臣たちは深く頷いた。美辞麗句とは裏腹に、内心では征服によって得られる利益を期待していたのだ。


王トランセスは深い孤独を感じていた。その顔には深い陰が差していた。

その言葉に即答することなく、彼は静かに周囲を見渡す。

会議に同席していたエレオスは、沈黙のまま、陰の国の光景を思い起こしていた。


(あの時空の魔女は私より数段見識が高い。陰の国をより良い未来へと導くであろう。

だが、陰の国はいまだ荒廃の中から這い上がれないと聞く。

そして、今まさに次なる不幸が決定されようとしている。)


「……もう、私には関係ないことだ」


しかし、脳裏に浮かぶのは、両親の笑顔、甥インフィニスの無垢な瞳、そしてシルトと過ごした日々――。


そのとき、トランセスが静かに口を開く。


「筆頭魔導士。先ほどから意見がないが、そちの考えは。」


エレオスは我に返り、発言する。

「はっ。確かに、今の陽の国の力を持ってすれば、陰の国の征服は可能でしょう。しかし、今優先すべきことは遺跡の謎の解明と、負の魔力の撲滅です。

他に力を注いで優先課題への力を奪われるようなことがあれば、それは本末転倒と言えるでしょう。寛容、征服、それ以前の問題なのでは。」


その発言に、重臣たちがざわめいた。

場の空気が一瞬、揺らぐ。


王トランセス王はそれまでの深い陰が差した表情から、一転して晴れやかな表情に打って変る。


「筆頭魔導士の意見、誠にもっともである。反論できる者がいなければ、その方針とする!」


エリオスは暗に陰の国を救っていたのだった。


そして陽王トランセスは、その信念と誠実さをもって語った男に、さらなる信頼を寄せていく。


だが、その会議の場に、一言も発しなかった男がいた。

先の筆頭魔導士のヴァルタス。


彼は苦々しく、陰で拳を握り、エリオスへの嫉妬を高めていくのであった。




「陰謀」

ヴァルタスの私邸──。


夜のテラスに佇むヴァルタス。


彼は日を追うごとに距離を縮めていくトランセスとエレオスを苦々しく思っていた。


その彼を後ろから見つめる謎の魔導士。そこにはフードを被った時空の魔女がいた。

時空の魔女はヴァルタスに問いかける。


「決心は着いたか。」


「・・・いいだろう。その計画に、私も乗ろう。」


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