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交差の魔導士  作者: オズ
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第2部 時空の魔導士 外伝(過去の選択) ep.2 古き伝承

『古き伝承』

ある洞窟の中。深い喪失の中で、過去を悔やみ続け、放心状態にあるニース。

うずくまって泣き続けるニースを、スカイ・ドラゴンはただ黙って見続けている。


涙も声も枯れ、しばしの沈黙が続いた後、おもむろにスカイ・ドラゴンは声を発する。


「・・・汝は、過去を変えたいのか。」


小さく無言で頷くニース。


「風の魔術に、いにしえより《時空の風》と呼ばれる伝承がある。

時を操り、過去そのものを変える魔術だ。・・・知りたいか。」


ニースは、はっとして顔を上げ、スカイ・ドラゴンを見つめる。

そして、もう一度、うなずいた。


スカイ・ドラゴンは話を続ける。

「この四つの大地の中心に位置する「中心大地」に、《創造と終焉に至る者》、“創造者” と呼ばれる者がいる。


その者が「時空の魔術」の極意を知っている。過去を変えたくば、その者に会いに行くことだ。


だが、中心大地へ至るには条件がある。光・闇・炎・水の四つの魔力の粒石を手にいれなければならない。

それらが、中心大地への扉を開く鍵となるのだ。


今、それらの粒石は、光・闇・炎・水の王たちが持っている。まずそれらの王たちを倒さなければならない。」


スカイ・ドラゴンはその眼をニースの心へ向けるように、深く、ゆっくりと問いかけた。


「汝、この試練に挑むか」


想像を超える困難が待ち受けている。だが、ニースは我を取り戻し、力強くうなずいた。


「私は……必ず、過去を取り戻す!」


それは、どん底の淵から這い上がろうとする、再出発の言葉だった。


スカイ・ドラゴンはニースに数多の試練を与え、鍛え上げていく。鍛えられ、強くなっていくニース。


その力と意志の存在は、風の大地を越えて伝播し、四つの王国に不安が走る。


スカイ・ドラゴンの覚醒、そしてニースという新たな存在を脅威と見なした四王――光の王エルヴァン、闇の王、炎の王、水の王は、

それぞれの対立を一時棚上げにし、かつてない連合を結ぶ。

そして、彼らもまた、自らの王国に眠る守護竜の覚醒を進めていく。


膨大な魔力を必要とするドラゴンの覚醒は、いずれの国にとっても容易ではなかった。しかしやがて――


光の王国に、** 光竜 "ゴールド・ドラゴン" ** 空に輝きを放ち、

闇の王国に、** 黒竜 "ブラック・ドラゴン" ** が闇に咆哮を轟し、

炎の王国に、** 火竜 "ファイア・ドラゴン" ** 火口より飛翔し、

水の王国に、** 水竜 "ウォーター・ドラゴン" ** 深海の底から浮上する。


運命は再び、大きく動き出そうとしていた。




『因縁の戦い』

光、闇、炎、水の四王国は守護竜を中心に軍勢を整え、ついに連合軍は風の王国への侵攻を開始した。


風の王カイラスは、辛くも一命を取り留めていたが、スカイ・ドラゴンを覚醒させた後遺症が重く、かつての魔力を大きく失っていた。

しかし、ニースはかつてのカイラスを超える天位魔導士となっていた。

ニースは、病床のカイラスからスカイ・ドラゴンを託される。

そして、スカイ・ドラゴンとともに出撃。


戦場で、四体の守護竜を従えた四王と対峙するニース。

ニースとエルヴァンの視線が交差し、エルヴァンが口を開く。


「君との再会は、こんな形では望んでいなかった・・・。」


「エルヴァン。あなたは・・・、変わらないわね・・・。」


交錯する複雑な想いが、互いの胸中に渦巻いていた。


戦いの幕が切って落とされる。


四王すべてが、各国における天位魔導士の頂点に君臨する強者たち。

その魔力は凄まじく、ニースとスカイ・ドラゴンは序盤から危機的な苦戦を強いられる。

絶え間なく続く圧倒的な魔力の猛攻に、ニースとスカイ・ドラゴンは傷付き、後ずさりを余儀なくされる。


だが、彼女の心は折れない。


光、闇、火、水の魔力の同時攻撃を受け続け、堪えるニース。

戦いが続く中、受け続ける4つの魔力の中に、何か感じるものがある。

やがて1つのことを確信した。


「私は風を操っていると思っていた・・・。王たちの魔力、光、闇、火、水、それらは全て空間に存在している。

そして、私の魔術は、――空間そのものを操っていた!」


ニースは空間を反転させ、光、闇、火、水の全ての魔力を跳ね返す。


その瞬間、傷付いていたスカイ・ドラゴンの目が光り、その身を包んでいた鱗が砕ける。


次の瞬間、殻が破れ、中から現れたのは、伝説に語られた幻の巨大な龍――


「……神龍ゴット・ドラゴン……」と、エルヴァンが息を呑んだ。


覚醒した神龍と、空間魔術に目覚めたニース。


その力は、戦場の均衡を一気に崩壊させる。


守護竜たちは次々に倒れ、四王は圧倒されていく。


最後まで立ち尽くしていたエルヴァンも、ついに膝をついた。




『過去を求めて』

四王すべてを屈服させたニースは、静かに言葉を発した。

「魔力の粒石を、私に渡してほしい」


光の王・エルヴァンは、ニースの意図を理解できないでいた。

彼は、ニースが復讐のためにここまで戦ってきたのだと、そう思い込んでいた。


だが、ニースはその問いに静かに首を振る。


「私の戦いは、誰かを恨んだものではない。

……私は、ただ――過去を、取り戻したいだけ。」


亡き先王夫妻の死が事故であったこと。

そして、自分が目指すものが“復讐”ではなく“修復”であることを、彼女は明かした。


(……フィーナの名には、触れずに)


その言葉に、エルヴァンの中の何かが崩れ落ちた。

誤解のまま追い詰めてしまった彼の目には、深い後悔の色が宿る。


四つの魔力の粒石を手にしたニースは、中心大地への扉を開いた。


神龍ゴット・ドラゴンは動きを止め、言葉を発する。


「私は先の覚醒と戦いで、力を使い果たしてしまった。もうここから先は、お前の足手纏いでしかない。

最後の試練だ。さあ、行くのだ。――― そして、お前が求めているものを掴むのだ。」


ニースは力強く頷く。


その先、遥か遠く――天を貫くほどにそびえ立つ巨大な塔が、霞の向こうに見える。


「何だ・・・あの塔は・・・。」


塔を目指して進む彼女の前に、数多の精霊たちが立ち塞がる。

彼らは塔神殿を守護する者たち。だが、ニースの意志と魔術はそれを越えた。

精霊の女王との激戦の中、

風の魔術の真髄に迫る「空間」の理解が、彼女に新たな扉を開かせる。

そして「時空魔術」の一端が開眼し始める。

ニースは精霊の女王を倒す。


「……あなたが、創造者なのか?」


「いいえ、私は創造者ではなく、この中心大地の精霊の女王よ。

創造者は、遠い昔に、この地を離れたまま戻って来ていない。

私は創造者の命によりこの塔を守っている。

そして私は創造者の帰りを、今も待ち続けている。」


「――創造者は、この地を去ってしまったのか・・・。」


ニースは精霊の女王に尋ねる。

「私は過去を変えたいのです。あなたは何か知っていますか。」


「この塔の最上部に "大いなる力" が宿っています。最上部に到達出来なくても、近づくことでその力が得られていくでしょう。

その力を持ってすれば、あるいは。」


塔自体は、なおも何かを動かし続けているようだった。

ニースは塔の上部に蔓延る巨大な負の災魔たちを打ち倒しながら、塔を上へと進む。


最上部に近づくにつれ、彼女の "時空魔術" は力を増していき、あの過去の日々まで遡る力を得ていく。

戦い続けるうちに、ニースの視界に眩い光が現れはじめ、その先に彼女の過去の日々が見えてくる。


その刹那、彼女の脳裏に鮮明な描写が走る――それは未来に起こる、世界の消滅を予知していた。


大きな不安に駆られながらも"時空の魔術"を手に入れたニースは、まず悲願である**「自分自身の過去」**へと向かう。


ニースはあの過去の深い森の道の分岐点に立っていた。

彼女には両方の道を辿った世界線の先を見ることが出来た。彼女は悲劇が起こらないほうの世界線の先―――、幸福な未来をを眺めている。


平和で幸福な生活を送る彼女は確かに彼女であり、その世界線は確かに存在していた。

式典でエルヴァンの隣にいるのはフィーナではなく、彼女だった。

海辺の夕焼けの大空に、ニースが織りなす風の魔術にエルヴァンの光の魔術が融合する。見つめ合うニースとエルヴァン・・・。


――― だが、彼女の心に、ある気持ち芽生え始めていた。


ニースは静かに瞼を閉じる。

彼女の視線の先に広がっていた幸福な光景とは裏腹に、

その心に去来するものは、これまで起こった数々の困難に抗い、立ち向かい続けていた自分の姿だった。


―― 自分が求めているもの ――


「私が、本当に求めているもの・・・。それは・・・」



―― 私は、今ここにいる私を否定できない ――



運命に抗い、幾多の試練を乗り越え、積み重ねてきた今の自分。


それを彼女は否定できなかった。



その時、過去の自分が道に迷い、問いかけてくる。


「道を尋ねたいのですが・・・、海辺への道は、どちらでしょう?」


道を変えさせなければ、悲劇が待っている。

フードを深く被ったニースは、感情を押し殺して不愛想に


「……知らない。」


過去の自分が怪訝そうにこちらを見送る中、彼女は背を向けて歩き出す。




『永劫回帰』

ニースは4人の王たちに告げる。


「神は、この地を去っていた。そして――未来は崩壊する。」


彼女は4人の王たちを従えて、未来の崩壊の謎に迫る時空の戦いに挑む。


フィーナも、その戦いに加わっていた。かつての罪を悔い、自責の念に駆られながら、彼女は無理を重ねていく。

やがて、フィーナは致命傷を負い、命の灯が尽きようとしていた。


「なぜ、あなたは過去に戻り、私の過ちを暴かないの? あなたならできるのに……。」


「――それが、私をここまで導いてきたのよ。」

「過去の罠も、後悔も、悲しみも。全て、私への試練だった・・・。」

「私は、選ばない。取り戻さない。ただ、このまま進むの。この私のままで。」


「・・・本当に、ごめんなさい。私は、あなたになれなかった・・・。」

フィーナは改心し、悔いを残しながらも、静かに息を引き取った。


戦いの末、ニースたちは未来崩壊の一端に触れるものの、すべてを解明するには至らなかった。

戦いの後、ニースは中心大地に留まり、崩壊の謎を追い続ける日々に身を投じる。

その姿に中心大地の精霊たちは、いつしか彼女をこう呼ぶようになる。


―― 創造者 ――


そしてニースは、塔神殿を起点に周辺大地へ命を下す。

未来の崩壊の謎の解明の為、王たちに魔力の供給を命じる。その要求は、時を経るごとに増していくこととなる。

王たちはその命に従いつつも、心中は穏やかではなかった。


塔神殿の地上中心部には、ゴット・ドラゴン(神龍)が座していた。

神龍は他の魔力の守護竜たちを束ね、周辺大地から集まる魔力を塔の上層にいるニースへと送り続け、彼女を見守っている。


光の王エルヴァンは諸問題を話し合う為、ニースのもとを訪れていた。

話し合いを終えた後、エルヴァンはニースに言う。


「世界の未来を変えると決めたのに、なぜ自分の過去を変えようとはしないのか。

私たちはもうあの日々に戻ることは出来ないのか。」


彼女は言う。


「いつもあなたと、あの日々に戻ることが出来たらと思い続けています・・・。

でも、その思いを抱えたまま、今ここにいる私も、――間違いなく私なのです。」


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