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吉凶は夢に萌す  作者: 邑 紫貴
必ず奪還しますから!
4/55

・・


お昼休みに人だかりを探し、中心に居る人物に話しかけた。


「あぁ、君か。待っていたよ。」


待っていた?


意味深な言葉と、これまた見たことのない戸惑いの表情を見せる。

そして、周りに小さな声で人払いの言葉。


「ごめん、二人で話がしたいんだ。」


……あれ?自分に突き刺さる女子の視線が痛くて、冷や汗が出る。

ま・さ・か?


遠巻きに去って行く集団から、私に対する不満が聞こえる。


こいつへの怒りと、今後を考えての恐怖が重なり、言い難い悔しさ。

視線を上げて彼を睨みつけると、満足げな笑み。


「二重人格なんて、最低。さっさと私の夢を返してよ!」


奴の周りを浮遊する球体に手を伸ばして触れようとした瞬間に、手首を捕らえられてしまった。

必死で振り払おうとしても力では敵わず、周りから私たちがどう見えるのかも気になる。


私はただ、自分の物を取り戻したい……違う、私のじゃない……

抵抗していたのを止め、滲み出てくる涙を隠そうと、下を向いて声を殺した。


取り乱すのを観察して楽しんでいたのに、私の変化が予測していたものと異なったのだろうか。


「泣くなよ。」


見なくても分かるほど、気遣うような優しい声だ。


「……っ……泣いて、ない。」


誰のせいだと思っているのかな。

捕らわれていた手が解放され、両手で顔を拭うけれど涙が止まらない。


「なぁ、本当に返して欲しいのか?」


今更、その確認をするのは……その夢は吉ではなく凶だから……

なら尚更。


「返して下さい。」


泣き崩れた見っともない顔を上げ、真剣にお願いしたつもりだった。

なのに。


「嫌だね。コレを返すわけにはいかないんだ。」


意地悪ではなく、何か理由があるのだと気付く。

彼の表情は悲しみを伴い、視線が何度かさ迷っては私に戻る。


名乗らなくていいとか、酷い事を言ってしまったな。

今後の女子に対応するにも困るか。


「私は吉凶を萌す鵺。鳥生とりゅう 告美つぐみ。あなたは?」


「俺は、空馬からうま 一翔かずと。……ジンマ……」


あまり聞かないアヤカシ。

人の夢を奪う“”……ジンマ?


「空馬さん、私の視た夢は“私の物”じゃない。アヤカシなら分かるはず。役目の為に……不吉を告げる鳥であるが故、返して欲しい。」


私の願いに彼は口を閉ざして、手を浮遊する球体に近づける。

ほっとしたのも束の間、彼はそれをつぶす様に握り締めた。


信じられない光景に唖然。


「告美、俺の事は一翔で良いよ。また夜に会おうぜ。」


表情は読み取れない程に冷静で、声の低さに静かな怒りを感じる。

彼の広げた手には何もなかった。


きっと球体を吸収したのね。

安堵した私に視線は冷たいまま、流し目で方向を変えて去って行く。


奪還を試み失敗した。

謎は深まるだけ。


空馬一翔……朝は気づかなかったけれど、学年を示す襟のラインの色は2年生。

私より年上。取り巻きの女の子は知らないから、好意を抱けるのだろう。


……一翔で良いって言われても、呼んだ日には血の雨が降りそうだ。

そうね。知らないのに好意を抱ける。恋は盲目……


私は“彼”に不吉を告げなければいけない。

それが鵺としての役目。


吉凶を萌した時点で私は…………この恋を終わらせたかったのかもしれない。

私の理想。淡い想い。


全うするため、一翔から夢を奪還する。

夜、私の視た吉凶の萌しは手に入るだろうか。


彼は……ジンマ…………





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