奪還を試みて・・
学校生活に慣れ、奇妙な雰囲気に誘われて光莉と友達になってみれば、彼女もアヤカシだったとかいうオチ。
どうやら私たちだけではなく、この学校にはかなりの数が潜んでいる様だ。
「恋でもしたん?いつもと違うけん、どうしたらええか分からんわ。」
光莉は徳島県のアヤカシらしい。
どこか関西弁に近く、広島風にも聞こえる方言。
心配そうに私の周りをグルグル回って、無表情に近いのに愛らしさを振りまく。
光莉に、夢を奪われたなどと言えばヤツは一噛みされてしまうかもしれない。
いや、手っ取り早くていいかな。待て待て、下手にアヤカシの力を表沙汰にしない方が……
チラリと光莉に目を向けると、首を傾げて私の反応を待っている。
可愛いなあ。
「恋じゃないよ。彼も仲間みたいなんだよね。私には、彼の周りをフヨフヨと飛ぶ小さなボールみたいなのが見えたから、光莉にも見えるのか知りたかったんだ。」
私の答えに一瞬の間を置き、視線を机の上に落として無言。
ん?不満気な御様子ですか。
「噛んだら一日は思い通りに出来るけん、試そか?」
私の心はお見通しなの?
「光莉、あの人は好みなの?」
「違う。」
ニッコリ笑顔の即答なのね。
始業のチャイム音が鳴り響き、光莉は自分の席に向かう。
気まぐれな性格なのか、どこか冷めているのかな。
何か一言あってもいいんじゃないかと、寂しさが少しだけ生じた。
何というか、得なのか損なのか分からない。
愛着を抱いてしまえば、心を奪われる。
ヒカギリと言うアヤカシ……
彼女の首には黒い輪があって、それは仲間のアヤカシにしか見えないのだけど、何とも言い難い妖艶さを醸し出す。
言伝えでは『山の神か水神の変化で、小柄な蛇。それに噛まれたら、 命はその日限り』。
現代では、そこまでの力があるわけではない。彼女に噛まれれば、“その日限り”の隷属状態だ。
授業中、黒板に向かっている先生の後姿で文字は見えず、教室内に視線を巡らせる。
この中に、どれだけのアヤカシが居るのだろうか。
“彼”の姿はない。
名前もクラスも知らないのに、私の思い描く人物像に最も近い人。
たった一度だけ言葉を交わし、遠目に見つめて片想い。
淡い。声をかける勇気もなく、近づく事も恐れて。
もしかすると“彼”もアヤカシなのかもしれない。
どこかで期待を膨らませ、あまり知らないはずの“彼”を思い描いて更なる理想を抱く。
自分の役目なら、接点を見つけられるかもしれないと浅はかだった。
あの時、何らかの感情が生じた事だけを記憶している。
絶対に取り返すべきだ。
萌した吉凶は、近い未来を示す物だから。
アイツは、学校では人気があるのか周りが華やかだった。
愛敬を振りまいてまで、イメージを保っているのなら邪魔するわけにはいかないかな。
確かに夢を奪われ、私にあんな……
胸を触りやがって、ちくしょう!
むしろ周りに人が居た方が無難な対応をするに違いない。
この考えが甘かったと思うのは、自分に害が及んだ後の事。