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濡れたから、寒いし温もりたいよね。
……それを、私に言うってことは……あれれ?私、ん?おやぁ??
思考は少しずつ回復。
「上がって。俺も濡れているし、気にしないよ。リビングで待っていて、バスタオルを取って来るから。」
…………。
促されるまま、借りてきた猫のように棒立ちで思考はグルグル。
「入れ始めて間もないから、時間が……」
リビングに入って来た一翔の手には、バスタオル。
自分の表情など、全く分からない。だけど、私の顔を見た一翔は微妙な反応で口を閉ざした。
そっとバスタオルを差し出し、視線をさ迷わせる。
「……あの、ご家族は?」
間が持たなくて、周りを見ながら訊いてみた。
「俺、独り暮らし。」
……え、一人でここに?家族は一緒に住んでいない。
……て、事は二人だけ。
あぁ、会話を気にせずに出来るよね。あれ?一翔の家族のアヤカシ割合って、どれくらいなの。
私の家とは違うよね。それって訊いていいの?
やはり、今まで人と係わってこなかったから、対応に迷う。
「告美、とにかく水気を拭いて。風邪をひくよ?」
バスタオルを受けとり、肩にかけて髪の水けを拭う様に撫でながら、視線はうつむいたまま。
「一翔、私は自分についても分かっていない。そして他のアヤカシの事も。それを訊いていいのかさえ。」
一翔が近づいたのか、自分に影が掛かり目を上げる。
「訊けばいい。他の人にも。答えたくない質問には、答えないだろうけど。」
一翔の表情は沈んでいるように見える。
「それに……もう後戻りは出来ないって言ったよね?」
それは、今後の状況が何も変わらないって事?
一翔の奪った萌しは、未来が変わったと言っていたけれど。
私は今まで、複数の未来を見たことは無い。
変わった未来、萌した内容。
「欠如した夢、変わってしまう前の未来には何が?」
“彼”を好きになって当然だと言われた。私の理想を重ねたからだと。
その未来は変わってしまった。一体、何故?
「告美、お風呂に入って温もれ。それから話をしないと、風邪をひくぞ。」
それは私に限った事じゃない。一翔も同じ。
彼の視線は私の全てを見透かしている……
水に濡れた服が透けるように…………