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いつもの起床時間には目覚ましが鳴り響き、気だるさを感じながら手を伸ばした。
アラーム音を止めて身を起こし、ベッドの上で放心状態になる。
目覚めの悪いのは昔から。
だけど夢見が悪いと言うか、吉凶を萌すのを邪魔されたなど今も信じられない。
確かに視たはずだ。黒煙の交じる炎の翼が照らし出した吉凶。
感情が生じた。それも共に一瞬で奪われ、記憶から消えるなんて。
彼は私を仲間だと知らなかったみたいだし、私の翼も見ていないのだろう。
『本当に欲しいの?』
奪っておきながら、欲しいかを問うなんて筋違いも良いところだ。
元々、私の物なのに。
私は鵺。不吉を告げると言われている鳥のアヤカシ。
そう、前途に不吉な事があるなら。告げなければならない。
私の憧れ。想い人。この胸の内を告げる事も願っていないような片想い。
そうよ、この胸の……薄いTシャツでノーブラを触りやがったな、あの野郎。
夢に入って邪魔しただけじゃなく、現実の体にまで触れるなんて、夢魔と呼ばれる類だろう。
あの様子だと、また来るだろうな。それまで夢が無事だと良いけれど。
奴が来るのを待つまでもなかった。
学校の正門を通り、混雑の中心に見つけたけれど……姿の似た別人なのだろうか。
そいつは目の前で、能天気な笑顔を周りに振りまく。
あんなに冷めた視線で、感情のない……いや、悪意はあったな。
その笑みとは似つかない屈託のない笑顔。
足を止め、茫然と見つめる私に気付いたのかな?
笑顔も消えて、表情は見覚えのあるものに変化していく。
冷たく感じるような細めた目が私を捕らえて、口元だけの笑みを見せる。それも一瞬の事。
流し目で通り過ぎるように、ゆっくりと顔の方向を変えて、私を相手にはしなかった。
凍えるような寒気が背筋を通る。
悪意?違う。殺意でもないけれど、存在を否定されたようで怖い。
少しの震えを感じ、手に力を入れて握り締める。
落としそうになった視線を上げて、彼の後姿を睨みつけた。
するとその近くに、あの謎の球体が浮遊しているのが目に入る。
誰もそれを気に留めてはいない。他の人には見えないのだろうか。
やはり、私の夢に侵入したのと同一人物。
裏表が激しいのかな。考えていても夢は戻ってこない。
予知夢を取り戻すため、足を踏み出そうとした私に被さる重み。
「告美、おはよう。」
無表情ながら、見慣れた私には少しご機嫌な天山 光莉。
「おはよう、光莉。」
重みに耐えながら返事を返すと、滅多に見られない最高の微笑み。
そんな漂う色香に惑う男子生徒が多数なのは、いつもの事。
「そうだ、光莉。あれって見える?」
アヤカシなら見えるのか知りたくて、奴の頭上を浮遊する物体を指さして尋ねた。
光莉も私とは違うけれど、アヤカシ。
私の問いに、光莉は視線を移動させて指差した方向に顔を向けて不機嫌に答える。
「あの男がどしたん?ムカつくなら噛むじょ。」
何故、機嫌を損ねたのか分からないけれど、見えていないのだけは分かった。
「ふ。噛んじゃダメよ。」
私が見えるのは、謎の球体の中身が予知夢ではないにしても、私に関係する物が入っているから。
彼自身は見えているのかな。
自分の周りを浮遊する球体を気にすることなく、別人のように振る舞う彼に違和感がする。
吉凶の萌しを失った私が見た夢は……
予知夢を奪った彼の本質、真実の姿だったのかもしれない…………