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吉凶は夢に萌す  作者: 邑 紫貴
視たのは悪夢だけど!
14/55

・・


「くすくすくす……そう、君が“僕”に惹かれたのは当然だよ。だって、それは“僕”が君の理想の塊だから。」


確認したはずの背後から声が聞こえた。


突き落されるような感覚。

自覚したくなかった事に対する情けなさと、自分の浅はかさを暴露された事への動揺。


生じる震えは、怒りでも恐怖でもない感情が引き起こす。


悪夢。

夢であったなら、どれだけ良かっただろうか。


私は力が抜けて、その場に座り込んでしまった。

視線は目を見開いたまま地面を見つめて、涙で霞む。


“彼”は背後から回り込んで、私の前にしゃがんだ。

その存在に気圧されたのか、身動きが取れないような重みが増し加わり、硬直していく。


「ふふ。鳥生とりゅう 告美つぐみさん。ぬえなんだ。……へぇ。綺麗だね、君。もっと見せて。」


あなたの目は何を視ているの?

不自由さに抗い、徐々に顔を上げていく。


…………言葉を失った。

そこに居たのは。


「どう?君の理想は変わってしまったかな。それとも僕の本性を見ている?」


私の理想とは異なるけれど、整った顔の男子生徒。

切れ長の目は、穏やかに私を見つめる。


「僕は姫鏡ひめあき 暎磨はゆま。……くくくっ。オレが視ている君は儚い鳥……思わず壊してしまいそうだ。」


彼は片膝を地面に付け、両手で私の頬を包み、指で撫でるようにして涙を拭った。

その優しい触れ方や視線にも係わらず、自分の理解できなかった感情は恐怖に染まって震えが治まらない。


「可愛い。もっと見せて。もっと、壊れた所が見たいんだ。どうすればいいか、オレは知っているよ。ふふ……くすくすくす…………」


彼の笑顔に生じたのは嫌悪感。

触れられている部分が拒否反応を示すように痺れる。


「……ゃ……ぃ……嫌……」


私に触らないで。

今すぐ手を離して。

ここから逃げたい。


それなのに体が思う様に動かなくて、怖い……

誰か……助けて。


目をぎゅっと閉じ、背に走る寒気に震えが増していく。


「まずは、その翼を広げてみようか。」


え?

声と同時で急激な痛みが生じて、思わず蹲る。


「……っ……あ、……ぅ……」


広がる翼が、引き抜かれるほどの強い力で更に拡張していくような感覚。


現実で変化をしたのも一度だけ。

けれど、その事がなければ私は……


「綺麗だね、君は本当に……。ねぇ、聞こえているんだろう?告美。君は何故、オレに理想を重ねたの。」


理想を重ねた?

痛みが和らぎ、荒くなった息を整えながら、耳に入った言葉を理解しようとする。


微かな視界には、目前の地面に滴った自分の汗。

今も額を流れ続け、全身に滲む水分が熱を奪っていく。思考が働かない。


「俺は鏡のアヤカシ。俺に映したのは、君の理想の姿だよね。」


私の理想、望む姿……

止めて、言わないで。


「何を見たのか忘れてしまった?教えてあげようか、それとも成ってあげるか。」


止めて、違う。

私の理想だなんて、少しも……


「心配しなくても良い。大丈夫、君の心を全て知る事が出来るから。心変わりなどと、オレは思わないよ。」


心変わり……私の理想は変わってしまった?

止めて、見ないで、まだ私の心は…………


「違う、あなたは何も分かっていない。」


現実いま、一翔が悪夢だと奪った私の未来の萌しに直面して、分かっていないのは自分だったと痛感する。


吉凶を夢で視、それを告げられた者達は運命を受け入れるのか、それとも抗うのか。鵺の役目を新たに意識し、不吉を告げられた者達が何を感じてきたのかも理解した。


「告美!」


現実が悪夢に染まる・・




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