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吉凶は夢に萌す  作者: 邑 紫貴
必ず奪還しますから!
12/55

・・


「これはね、“君の”悪夢だよ。俺はばく……悪夢を喰らう。」


私の悪夢。私に生じた感情が一瞬にして奪われたのは、その為。

“彼”の未来に私がいる。


吉凶の萌しで見たものは、私の悪夢。

彼の不吉が、あまりにも残酷だった?そうだとしても……


「返して欲しい。」


悪夢を喰らう獏。

彼の役目ゆえ、絶対に取り戻せはしないと思っていたのに。


「……いいぜ、取り返せるものなら。覚悟を見せろよ。」


私の役目を知っているからなのか、探る様な言葉と視線が突き刺さる。

彼は私に歩を進め、目の前で止まった。


萌しと同じ位置。彼は口を動かして以前と同様、風船ガムのように膨らませた。

それを口の中に戻しては、膨らませてを繰り返す。


『覚悟を見せろ』


感情の見えない眼。


私の覚悟が、萌した未来を変えるかもしれない。

それは、“彼”の吉凶なのか私の未来なのか……それとも…………


私は迷わず突き進む。

一翔の頬に両手を当て、背伸びをして彼の口に唇を重ねた。


閉じ気味の視界に入るのは、見開いた目。

彼の口内は熱い。夢なのに、体温を感じるなんて。


違う。これは…………


一瞬だけ視えた映像と、音声。

『君が“僕”に惹かれたのは当然だよ。だって、それは……』


顔の部分が霞んで、“彼”の表情は視えない。

これだけの情報では、私の悪夢にはならなかったはずだ。


一翔から離れて私は目を大きく開き、更に距離を取った。


「ふ。くくく……不満気だね。俺は、十二分に楽しんだぜ?食んでいたら消化しちまったよ。お前の悪夢は、俺を虜にするほど美味い。……告美……。あいつには近づくな。頼むから。もう、俺と係わりたくなどないだろう?」


彼の感情の変化に胸が痛む。


「一翔、あなたは何を恐れているの?」


多分、その悪夢にあなたが居た。

私の見つめる視線に、彼は苦笑する。


「恐れは未来に対して生じるもの。そうだ、先を視るお前が怖い。」


私の知りたかった答えではないけれど、全く関係のない言葉ではない気がする。


「残念ね。私の初めてのキスを奪った罪は、償ってもらうわ。覚悟を決めた女から逃れられると思わない事よ。私は一翔の萌しも視たのだから。」


私の言葉に驚いた表情をしてから、一翔は視線を慌てて逸らした。


「この悪夢も、お前から奪えば済む話さ。」


言い逃げのように姿を消して、説得力などない。

もしこれが、私の中で“悪夢”だと言うなら記憶からは拭われるだろう。


けれど、私が萌したのは『後戻りできない』状況。

しかも一翔から奪還できたのは…………






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