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吉凶は夢に萌す  作者: 邑 紫貴
必ず奪還しますから!
10/55

・・


この身で不吉を告げ、受けてきた非難や中傷、そして恨み。

誰にも理解されず、それで役目を全う出来ているのだと自己満足。


目的の家を目指す光莉は無心なのかも知れない。

私は、この手に温もりと信頼の情。込み上げる感情に、また涙が出そうになって我慢する。


今は幸せだから。

ありがとう。光莉と出会えて本当に良かった。



歩が止まり、私は目的地に着いたのだと知って目を上げる。

そこには大きな門と、遠く離れた所に建つけど大きいのが分かる家。


入るのは……「無理!」


思わず後ずさり、光莉の手を引き戻す。


「どしたん?気分でも悪いん?」


少し残念そうな表情で、私を覗き込む。


「光莉のお家が、こんな大きいとは知らなくて。私……その。」


戸惑う私に微笑みを向け、手を引いて門を開いた。


「気にせんでもええわ。ほなって昔は、“神”様じゃって言われとったんやけんな。」


……確かに、そんな経歴(と言うのかな?)なら、当然の物なのだろう。

アヤカシの共存って、こんな所にも表れるんだね。思わず納得してしまう自分に苦笑。


私の家うちんくに入ってや。」


敷地は綺麗に整備され、近づいた家は思った以上に大きかった。

中も広々としていて、爽やかな森をイメージできるような良い香りが漂う。


「私の部屋は上の一番手前やけん、先に入っといて。お菓子やお茶を持って後から行くわ。」


「別にいいよ。」


思わず不安になって即答したけど、私の声など届いていないかのような後姿。


渋々と階段を上り、言われたように最初の扉を開く。

しかし、そこはトイレだった。


……光莉の嘘つき。

扉を閉め、反対側の扉を開くと、今度はファンシーな部屋で安心する。

ちょっとワクワクしながら入って、キョロキョロと周りを見渡した。

一通り見た後は、落ち着けるような場所が見当たらず、棒立ちで押し寄せるのは不安。


確かに座れるような場所はあるのだけど、そこに居る自分を想像すると、とても小さくなるような気がして。

落ち着かないのは変わらない、むしろ息が詰まるかも。


待ち望んだ音がして、私はドアに駆け寄って開ける。


「……告美、どしたん?トイレなら前のドアやけど。」


私は光莉が持ったお菓子に手を伸ばしながら苦笑して答える。


「はは。やっぱり、大きな部屋は落ち着かないかな。」


私の返事に光莉は無言で首を傾げ、部屋の中に入って飲み物を机に置いてからドアを閉めに行く。

毎度のことだけど、この無言の間が寂しさを増すのはどうにかならないかな。

もっと時間が経てば慣れるだろうか。


「告美。部屋、くらぁするけん変化へんげしてみ。」


え?今、何て言ったの。聞こえた言葉があまりに意外で、意図を汲み取りたくて確認したくなる。

だって夢ではないこの現実で。


戸惑う私を放置して、光莉は窓に近づいてカーテンを閉めた。

高級なカーテンは一切の光を遮って、そこはまるで夢の中と同様に暗闇と化す。


目は慣れず、光莉の姿も見えない。

不安が増していく。


「光莉、私は萌しに急かされて変化してきた。それは夢の中で……光莉……」


声は小さくなり、彼女の様子を探るが反応はない。

初めての変化は萌しに促され、それは寝ている時の経験だった。


夢の中でしか先を視る事などないと、自己解釈。

今、私が見つめるのも夢と同様の暗闇。


萌し。吉凶を視たいと。

それは私の願いだった。


これから先、私自身の未来なども知る事は可能だろうか。


ぼんやりとした何かが見える。

背に違和感。


暗闇に、淡い光が徐々に広がっていく。

分かる。変化していく自分が。


きっと黒煙の交じる炎の翼が、この光景を照らしているんだ。

意識を集中し、背中と目に力が入る。


これは……

くっきりと浮かび上がったのは、一翔の姿。


彼は私の前に立って、優しい視線を注ぐ。

表情は切なさの伴うような、何と言い表していいのか惑う。


心揺さぶられ、逃げ出したいような衝動。

彼は私の顔に手を近づけてくる。


ゆっくりと頬に触れるかどうかの距離で止まり、悲しい笑顔。

思わず感情が同調したのか、泣きたくなった。


「……もう、後戻りは出来ないからね。」


彼の声に反応して、私の頬に零れる涙。

違う。萌しだから彼の触れている感覚がないんだ。


彼の手は、私の頬に当てているのが分かる仕草。

それは私の涙を拭っているのだろうか。


申し訳ないような苦笑と、潤んでいる目。

どうして一翔が?


これから先、私に待ち受けている未来。

もう後戻りは出来ないのだと言われて…………




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