表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吉凶は夢に萌す  作者: 邑 紫貴
必ず奪還しますから!
1/55

見た夢は・・

妖怪。怪異。アヤカシと言われる人成らざる存在。区別していたのはいつの時代なのか。

適応なのか人が受け入れたのか、現代にもソレを受け継ぐ子孫がいる。

人と変わらぬ外見で人間社会に混じり、尚も引き継がれる習性。

役目を背負って、其れは夜な夜な活動を粛然と繰り返す。

私、鳥生とりゅう 告美つぐみも其の1人。




私は暗闇に立ちつくし、その慣れた環境に疑問も無く、課せられた使命を探す。

通常にみる夢ではなく、私の中に存在する引き継がれた能力。


日常で私の背にはない黒煙の交じる炎の翼。

闇と同化しそうなそれを徐々に広げ、微かな光源に照らし出される映像。

今回は自分が視る事を望んだ“彼”の未来。


それを視て、私の中に生じたはずの感情が消えるなんて。


ロウソクの炎が消える時のような瞬間で、あっけなく記憶から奪い去られてしまった。

暗黒の闇も真っ白に塗り替えられ、そこに在る者に気付く。


何もない場所に腰掛け、片膝を立てて私を見下ろすような位置にいる男。


「ハジメマシテ。お邪魔させてもらっているよ。」


私の予知夢を奪った張本人。


「何者かは問わない。今すぐに夢を返せ。」


この者の目的は分からないけれど、奪われた夢を取り返さなければいけない。

だってそれは、“彼”の未来だから。


「へぇ。お前は仲間だったんだ。」


何を今更。私の翼を見ていないのか?

予知夢の闇が取り去られた今となっては、あの翼も見えないけれど。


いつから居たんだ。こいつが奪ったのではない?

いや、仲間だと言うなら。


冷静さなどなく、状況の把握で頭はフル回転。


「返せ、かぁ~。ふむ。やった事が無いんだけど、試してみる価値はあるかな。くくく。だって、俺好みの同類なんて喰うっきゃないっしょ。」


腹の内も見えないような笑い方で、私の様子を常に観察するような視線は逸れることが無い。

彼は片膝を下ろし、口は何かを噛む様な仕草。


風船ガムを膨らます様にして口から出したのはピン球の大きさで、白に灰色のマーブリング。

口から離れて空中を漂う球体。


それは私が奪われた夢なのだろうか。

彼自身、それを指で摘まんで興味深そうに見つめる。


「これ、本当に欲しいの?」


私に視線も向けず、力を入れて球体を歪ませていく。

強度も分からない未知の物体に、限界を感じて失う事への恐怖が生じた。


「止めて!」


咄嗟に叫んで距離を縮める私に、彼は満足そうな笑みで球体を空中に離す。

その瞬間、自分の体に違和感。


足を止め、両手を胸元に近づけて思考停止。

そんな私を馬鹿にしたような嘲笑に、恐る恐る目を向けた。


「現実の心配をした方が良くね?」


コイツ、コイツぅ~~!?

寝ている私の身体に直接、触れているだと?そんな馬鹿な!


夢から引き上げられるようにして、目を覚ます。

信じたくないけれど、自分の上に被さる男は夢と同じ人物だった。


目を覚ました私に、両手で胸を覆ったまま悪びれも無い笑顔。


「俺、寝る時にノーブラの女とか初めてだ。」


最低最悪!

手は拳で、未だかつてない程の力を振り絞ったパンチ。


体勢を崩した奴の傍らには、あの球体が浮遊する。

手を伸ばし、それに触れようとした瞬間に留めるような力。

殴られた顔を押さえながら涙目で、空いた方の手が私の手首を掴んでいた。


「痛いなぁ。嫌いじゃないよ、気の強い女の子って。調教し甲斐があるからね。」


背筋を通る寒気。

彼の視線は鋭く、感情も読み取れないような表情。


私の体は震える。

力も入らず、言葉を失った。


もう駄目だ。現実で力のない私は、このまま彼の思い通りにされてしまう。

そんな私から視線を逸らし、彼は捉えていた手を解放した。


「夜明けか。」


彼の向ける視線の先にあるのは窓。

確かに光が徐々に広がっている。


「ふっ。安心しなよ。そろそろ強制的に引き戻される時間だ。」


流し目で見下ろす彼の姿が霞んで、重みも軽減していく。

そして気配まで完全に消え、安堵したけれど、自分の体に重みとは違った力が圧し掛かったように感じる。


疲れ。それも精神的な疲労。

深く息を吐き出し、視線を漂わせて探した。


視ることを望んだ“彼”の未来。奪われた夢。

それが詰まっていたのかも曖昧で奇妙な球体。


混濁する思考は落ちるように、通常の夢へと誘われて。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ