41話 星屑の賢者
特に問題もなく大森林を抜け帝都に潜入。
そのまま探知魔法により安全なルートを確保し、ラミレス邸内部へ。
後はエリクトルの記憶を頼りに、目的の魔法陣のある部屋へと到達した。
そこには大きな魔法陣とともに、様々な資料が保管されていた。
フレッドはそれらの資料を一瞥すると『アリストア大森林におけるスタンピード誘発計画に係る報告』という文字が目に入った。
やはりクリスティアが関わっていたようだ。
(フレッド、後ろだ)
「あら、こんな所にネズミが紛れ込んでいるようですね」
「しまっ――ああああああああああ」
それは一瞬の出来事であった。
今まで反応を示さなかったリョウヤが声の主を視界に捉えるや否や、意識の表層を奪って少女の首をはね飛ばしたのだ。
フレッドにとっても因縁の相手ではあった。しかし、リョウヤはそれ以上に憎しみを募らせていたらしい。
「ははっ。ざまぁみろ」
それだけ吐き捨てると、リョウヤは倒れてしまった。
「エリクトル? 今はリョウヤか? どっちか知らんが大丈夫か?」
フレッドは混乱している。突然の出来事により思考が停止していた。
「私は大丈夫だ。それよりも……」
(フレッド、ここから離れた方がいい)
(……そうだな)
「逃げるぞ」
今の叫びを聞きつけて誰かがやってくるかも知れない。早くこの場から立ち去るのが先決だ。
(エリク、早く)
アンジェリカの声を聞き振り返ると、エリクトルは資料に手を伸ばしていた。
「早くしろ、エリクトル」
「分かっている」
幾つかの資料を持ち出し部屋を出る。
屋敷の中は静かであったが、外に出ると既に大勢の兵士により包囲されていた。
(フレッド、交代だ)
そしてエリクトルを抱え、アンジェリカは空を駆けた。
帝都の城壁を超えた所でエリクトルを降ろす。
人を抱えた状態で空を走るのは、想定以上に魔力の消耗が激しかったようだ。
フレッドと交代し、エリクトルと共に走り出す。
このまま行けばアリストア大森林までは半日も掛からないだろう。そこまで行けば追手から逃れるのも容易だ。
しかし、後方から騎馬隊が押し寄せていた。
「何やってんだ! 早く来い!」
突然立ち止まったエリクトルを急かすフレッド。
当の本人は焦る様子もなく、両手を広げ高らかに宣言する。
「刮目せよ――【スターダストフォール】」
空から幾重もの火球が地上に降り注ぎ、瞬く間に辺り一帯は火の海と化した。
それは他の追随を許さない多重魔法。詰まる所、ただのファイアボールである。
しかしエリクトルのそれは『あらゆる場所』から『同時』に何度も繰り出しているという点が、他のものとは圧倒的に異なっていた。
まさに無数の流星が降り注ぐかの如き光景が、星屑の賢者と呼ばれる所以である。
「何をしている。早く来い」
フレッドはその光景を呆然と眺めていた。声を掛けられ我に返ると、興奮した面持ちで再び駆けだした。
「お前すげえな」
今日一日でフレッドの心は少しだけ軽くなっていた。
自身が手を下した訳ではないが、諸悪の根源を突き止め、それを倒したのだ。
となればもうここに用は無い。
アリストア大森林に入り、王国へと向かうのであった。




