29話 悪魔の囁き
帝都に戻るとクリスが出迎えてくれた。早速癒されるぞ! って思ってたら――。
「帝国をお助けください」
と、どうやら大変なことになってるらしい。
なんでもファンブル王国が大きな戦争の準備をしているらしく、先制攻撃に打って出ることにしたそうだ。
で、その戦況があんまり良くないみたいで助けて欲しいと。
「任せてください! 俺が行って、やっつけてきます!」
「ありがとうございます。いつも助けてもらってばかりで――」
「いいんですよ! クリスを助けるのは当然なんで!」
こうして馬車に乗り込みすぐに出発した。
北をデミル山脈、南をアリストア大森林で挟まれた道を西へ進む。ファンブル王国へ向かう唯一の道だ。この先の少し開けた場所に陣地を作っているらしい。
着いてみると、陣地というよりは砦だと思った。
「久しぶりだな! リョウヤ!」
そこには熱い男が居た。指揮官とやらはこいつの事なのかよ。
正直こいつの指図は受けたくないけど、クリスの頼みなら仕方ない。
「お前には輸送部隊の襲撃を任せる! 戦況を覆すよい一手である!」
敵兵に見付からないようにアリストア大森林を南下して王国内に侵入し、各地で輸送部隊を襲撃する役目のようだ。
思ったよりも大役だと思うが、クリスのためにも頑張るしかない。
早速アリストア大森林を南下してから王国内の平原に出た。
輸送部隊を捜し歩いて少しした頃、南から北へ走る馬車を見付けた。早速一匹目。
怪しまれないように歩きながら近付く。そろそろ襲撃しようかなって思った時、俺の周囲に巨大な魔法陣が現れた。
その時、俺は全てを理解した。
大森林で聞いた妙な声。あれは正しかった。俺はずっと、騙されていた。
少し考えればおかしな点はいくらでもあった。なのになぜ俺は盲目的にクリスを信じていたのか。
声の言う通り過去の俺、つまり召喚前の俺ならこんな事はしてない。
こんなに働かされて、今まで文句の一つも出て来なかったのはおかしい。
(どうやら魅了は解けたようだな)
魅了……? 俺はクリスに魅了を掛けられていたのか? だから過去の俺ならしなかった選択をしてきたってことか?
人の心を弄びやがって。
――憎いか?――
一体俺が何したって言うんだ。
――復讐したいか?――
あぁ、したいね。三日三晩、説教してやりたいわ。
――殺したい程か?――
そうだな、それくらい恨んでる。
――では、今すぐ殺しに行こうか――
そうするか!
いつの間にか、俺は黒いモヤに包まれていた。
身体から何かが抜けていくような感覚。突然、倦怠感に襲われた。
黒いモヤは頭上に舞い上がり、一つの形を作った。
――負の感情、美味であった――
何が起こったのかは良く分からない。
ただ一つ言えるのは、俺はクリスを殺したくて仕方なかった。
ずっと騙されていた。あの時も。……あの時も! 笑顔の裏では俺を笑っていた。
ユルサナイ。
「殺す殺すころす殺すコロスコロス殺す」
俺は走り出していた。
アリストア大森林の中を、全力で――。




