27話 アンジェリカの傍白
ベルンへと赴くことになった。
大切な思い出の品。辛い過去に近付くこと。それらを天秤に掛けて葛藤しているのだろう。一週間の道のりを、かれこれ三週間も彷徨い続けている。
途中で立ち寄った街のギルドで依頼を受ける。ベルンまでの護衛依頼があったにも関わらず、彼はそれを見ないようにした。
普段のフレッドは暗いわけではない。周りから見れば、普通の人と同じような振る舞いができているように思う。
しかし彼は、人と深く関わろうとしない。相手と一線を引く。なぜならそれは、自分が傷付くのを極端に恐れているから――私にはそう見えるのだ。
フレッドの傷はまだ癒えていない。
剣の手入れをしていると、時折、何かを考え込んでいることがある。
大切な剣であると同時にそれは、辛い過去を思い出す切っ掛けにもなってしまう。
このままで良いはずがないのは解っている。
しかし大切な人たちを一夜にして亡くし、それを自分のせいだと思い込んでいる。
そんな彼に、それ以上の罪を背負った私が踏み込んでいいものなのだろうか。
いや、違う。これは言い訳だ。
私はフレッドの本心を知るのが怖かった。
本当は私のことを恨んでいるのではないか。
そう思うと、何も言えなくなってしまう。
私もまた彼と同様に――傷付くのを恐れていた。
親しい者は私のことをアンジェと呼ぶ。しかし彼にはジェリカと呼ばれている。
理由は解っている。
私の愛称は……彼の妹の名前に似すぎていたからだ。
それを口にする度、どうしても思い出してしまう。
私の名前が、それを思い出させてしまう。
私の存在が、彼を傷つけている。
――私は臆病者だ。
彼を助けたいと想いながら、保身に走っている。
彼を救いたいと願いながら、静観に徹している。
臆病な私の想いなど、今の彼には届かないのだろう。
臆病な私だからこそ、彼を救う言葉を見付けられないのだろう。
それでも私は――形にできなかった言葉を未だ探し続けている。




