12話 賢者が残した魔法陣
「ふむ。ここがその場所か」
帝都からほど近い森の中。上質なローブを身に纏った一人の老爺が呟く。
周囲には、幾人かのローブを纏った者が付き従っていた。
「はっ。"星屑の賢者"の潜伏先だったと思われる場所です」
「この様な場所に隠れていようとは。まさに灯台下暗しじゃな」
「まずはこちらへ」
男に先導され家の中へ入ると、小さな魔法陣が描かれていた。
「隠ぺい魔法で隠れていたという訳じゃな。魔力石が砕け散ったことで、この場所が露見したと」
隠ぺい魔法とは通常、人間程度の大きさの物しか隠せない。それを魔法陣の力で増幅し、魔力石による魔力の供給で長期間維持を可能にした"星屑の賢者"の技量もさることながら、複雑な構成の魔法陣を瞬時に読み解いた老爺の力量も測り知れない。
「放棄されてから数年経過しているものと思われます」
「ふむ……」
老爺は顎に蓄えた髭を撫でた。
これは強い不快感を覚えた時に行う老爺の癖で、それは男も知っている周知の事実であった。
「少し歩きますが、ここより先の洞窟に、ひと際大きな魔法陣が発見されております」
「では、向かうとしよう」
程なくして洞窟へ到着し魔法陣を見やると、老爺の顔は少し綻んだように見えた。
「これ程の魔法陣は初めて見た。この儂の知識を以ってしても理解できぬとは……。いやはや、魔法とは奥が深いものじゃな」
魔法陣を描き写し魔力石を回収。そのまま帝都へ戻り解析を始めるのだが、十年経っても未だ解明されることはなかった。
ここは帝都にある、大公ロドレフ・フィル・ラミレス邸の一角。
「お呼びでしょうか、お爺様」
「おぉ、待っておったぞ、クリスティア」
クリスティア・フィル・ラミレス。齢十六という若さで帝国魔法学の頂点へと上り詰めた、まさに今代に生まれ落ちた天才。その柔軟な発想から様々な功績を残し、帝国の魔法技術を飛躍させた立役者である。
「お主を呼んだのは他でもない。これを見てくれんかの」
魔法陣を描き写した紙を広げる。研究資料も出そうかと考えたロドレフだが、余分な情報を与えると却って邪魔になるだけかと思い直した。
「とても複雑な魔法陣ですね。これは召喚魔法……。いえ、魔力の集約、保護……防ぐ? とても興味深いですわ、お爺様。何の魔法陣かしら?」
「星屑の賢者が残したとされる魔法陣でな。儂の理解を超えておる」
「マルティネス家のご令嬢と姿をくらましたという、あの偉大な賢者様が? 流石としか言いようがありませんね。直接お会いして、お話を伺いたかったですわ」
目を輝かせるクリスティアに対して、ロドレフは顔を顰める。
「……して、解読はできそうかの?」
「そうですね……少し、お時間を頂ければ。……いいえ、ここは利用することを考えましょう」
不敵な笑みを浮かべるクリスティア。これより約一年後、新たな魔法が誕生する。
次回からもう一人の主人公リョウヤが登場しますが、彼は召喚の際に魅了魔法を掛けられています。




