4.自己紹介(2)
「んじゃあ、なんで俺たちがギル活苦戦してるかを考えようか……何となく分かる人たちばっかりだけど……」
「じゃ、履歴書から見せ合った方がいいんじゃない? リュド、あんたも出しなさいよ。協調性よ」
「分かった」
四人はそれぞれの履歴書をテーブルに置いたが、うーんと唸るしかない。
「書いてることはみんなおかしくないよなぁ……リュド以外はみんな新人だから実績無いのはしょうがないし、スペックだけ見たら下の方のギルドにすら受からないようには見えないや」
「そうよね……って、リュドの備考欄ナニコレ!?」
「え……リュドさん、正気ですかこれ……」
やはり誰の目から見てもリュドの備考欄は異常で、女性陣はドン引きしている。
「正気だが? どういうことだ?」
「ひっ!? ち、違うんです殴らないで!!!」
無表情のリュドの言葉は、他人には何を喋っても怒っているように聞こえてしまう。
「おいリュド、ベルキムちゃん虐めるなよ……お前表情硬くて怖いんだからさ……それに、こんなこと書いてたらそりゃ受かんねぇよ。リーダーになりたいなら自分でギルドを作ればいいじゃねえか」
「ギルド設立の最低条件の初期メンバー四人を、俺が集めれると思うか?」
「……そんな条件あったな」
ギルドの設立には四人の初期メンバーが必要になる。リュドの中にはそこを満たせないという悲しい自負だけはあった。
「勝算がないわけでもない。最高ソロランクならトップギルドのギルド長にも引けを取らないどころか、むしろ勝ってるくらいだし、どこかに条件を飲んでくれるところがあると思うんだ」
「確かにこのソロランクはめちゃくちゃ高いしびっくりしたけど……あのねえリュドちゃん?」
「おいエフィ、ちゃんはやめろ」
「さっき色々言ったけど、要はギルドにはチームワークが大事ってことなのよ? ギルドのチームワークはリーダーが中心になりがちなんだから、実力だけでリーダーいきなり変えるなんてこと、受け入れられるわけないじゃない」
「……まぁ、そうだよな」
さすがのリュドでも察しはついていた。エフィの言葉を受け、それは確信に変わった。
「ま、今度からはこれさえ消せばなんとかなるわよ! リュドちゃん、元気出して!」
「……もうそれでいいよ」
ちゃん付けは何を言っても変わらなそうだと察したリュドは、潔く撤退した。
「いやーリュドちゃん何も知らないし素直だし、節々に天然おバカなとこ見えて可愛いから、おっきい子供できたみたいな気分になっちゃう♡」
「そのうちキレられるからいいとこにしとけよ……じゃ、リュド以外の原因探っていこうか。自分でそれっぽいなって思ってるとことかある奴いるか?」
「……わ、私からいいですか」
「お、ベルキムちゃん。いいよ」
おずおずと手をあげたベルキムは、ジオに促され、俯きながらポツポツと悩みを話始めた。
「私、元々初対面の人と話すのが苦手だったんですが、こと面接となると緊張でアガっちゃって……受け答えが一切できず採用の土俵にすら上がれなくて……自分でも分かってるから機械的にこなせないかと自主練してるんですが、まぁ改善の兆しは見えず……」
「あー……」
予想通りの悩みに、ジオは納得といった表情を浮かべる。
「ああ、最初ぶつぶつ何か喋ってると思ってたらそういうことか」
「リュドさん見てたんですか!? おっしゃる通り練習してまして、さっきは一向に成長しない自分にイライラしてきちゃって思わず叫んじゃいました」
ベルキムは恥ずかしそうにもじもじしている。
「あれ、でもベーちゃんあたしらとは初対面なのに話せてるわよね?」
「べ、べーちゃん!? 距離の詰め方がすごいいいい泣」
いきなりのあだ名呼びにベルキムは気圧されている。
「確かに、ちょっと詰まりはしてるけど話せてはいるよね」
「それはまぁ、みなさんも同じくギル活難民ですし、人間レベルは私と同レベルなんだろうなって思って……そんな気遣わなくてもいいかなって……」
「に、人間レベルって……」
「あんたもいい性格してるのねー」
ちょっとショックを受けるジオとは対照的に、平気な顔でエフィはジョッキに口を付けた。
「そういえばエフィは毎日吞んでるのか? さっきえげつない量のジョッキ載ってたけど」
「なんであたしにはちゃん付けじゃないのかは触れないでおくわ。そうね、緊張ほぐす為に面接の日も呑んでるし、ホント最近は毎日かも」
「え、毎回吞んでから行ってるのか??」
「ええそうよ?」
「そりゃ受かんねえだろ!」
ジオはあまりにも分かりやすい原因に困惑している。
「いやいや、私もちょっとアガっちゃって派手なことやっちゃいがちだけど、ハンターはお酒好きな人多いじゃない? 酒好きは良いステータスになるはずよ!!」
「なんでそこだけズレてんだよお前……酒吞みたい言い訳にしか聞こえねぇよ」
「そうとも言うわね」
こいつの言うことはあまり真に受けなくていいかもな、とリュドは少し思い直した。
「そんなジオはなんかないの? あんたなら結構いけそうだけど?」
「い、いやーそうなんだけど、炎魔法って結構よくある属性じゃんか」
魔法の属性にも希少性の差がある。炎、水、風あたりは特に普遍的とされ、エフィの糸魔法、紙魔法は希少性が高いものとなる。
「そうね」
「そうなるとどれだけ魔法を使い込めているかが判断の基準大きく占めるんだけどさ……ちょっとこれ見てくれよ」
「「「……え?」」」
そういうとジオは手を前に出し、魔導書を具現化させた。
自分の魔導書はいつでも心の中で確認できるが、他人に共有させるには具現化させなければならないため、三人はこの行動に驚いた訳ではない。三人は、魔導書それ自体に目を向けていた。
「……薄いな」
通常、成長の余地として、刻まれた魔法が少なくとも空白のページが何枚も挟まっていて、厚みもそれなりにあるものなのだが、ジオの魔導書は紙と見まごう程薄いのだ。
トップランカーの経験のあるリュドも、そのハンター人生で初めて見る薄さであった。……リュドの性格上魔導書を見る機会が少なかったというのももちろんあるが。
「これ、中身はたったの一ページなんだよ……そんで……」
表紙をめくるとそこには、一ページ目にも関わらず空白のページが現れた。
「あららら……ジオちゃん、大変だったわね……」
「子供扱いするな!! まぁ、そんなこんなで、現状も将来も成長が見込めないってんでどこも受け入れてくれないんだよ……一回面接通りさえすれば俺の価値を証明できるってのに……」
「「分かるぅ~~……」」
女性陣もジオの言葉に共感し、三人で「はぁ~~」と深いため息をついた。
「……俺さ、正直あしたの試験落ちたら地元に帰ろうかなって思ってるんだ。藁にも縋る思いでお前らに話しかけたけど、できない奴が何人集まってもできない集団になっただけだったな……」
「え、あたしも同じ。明日の落ちたらとりあえずハンターは諦めよっかなって」
「私もです!」
奇妙な共通点に三人の頭上に「?」が浮かぶ。
「もしかして明日受けるのって、ランク8位ギルドの『宝石王』か?」
「え、そうそう! あそこならって思って!」
「私もです!!」
「……おい、マジか」
聞き覚えのあるギルド名にリュドの顔が引きつる。
まだ受けていない二つの100位以内ギルドのうちの一つが『宝石王』であり、もちろんリュドもそこを受けるからである。
「もしかしてリュドもあそこ受けるのか?」
「ああ……」
「まぁそうだよなー。面接で弾かれる俺らにとっては、実技試験のみのあそこは最後の望みだもんな」
そう、『宝石商』は実技試験の実力のみを見て合否を判断する、珍しいギルドなのである。
「あたしらより変な奴通しちゃって、ギルド内がぐちゃぐちゃになったりしそうなもんだけど、都合がいいから助かるわよね」
「あ、それなんですけど、なんでも、リーダーの団員教育がとっても優秀で、最初は問題のある人もあっという間に改善させられちゃうらしいですよ」
「ふん、俺はそんな教育には靡かん」
リュドはちょっと的外れな意地の張り方をしている。
「じゃあお前は入れたとしても速攻でクビだな。ってか、リュドはここもリーダーになる前提で入るつもりなのか?」
「もちろんだ。実技で格の違いを見せつければ、団員もリーダーも納得させられるだろう」
「リュドちゃん? さっき言ったこと忘れちゃったの?」
「……ワンチャンあるだろ」
エフィの話は真に受けなくていいという思考が、余計な方向で働いてしまっている。
「まぁ、面接よりは可能性高いでしょうけど……頑張ってね、リュドちゃん!」
「……やっぱりちゃん付けやめてくれないか?」
「でも、みんながライバルになるわけね。ちょっとフクザツって感じ」
リュドのささやかな抵抗を華麗にスルーし、エフィは話を続けた。
「そうだな……でも、倍率は高いけど定員は5人だ。全員受かるかもしれないぜ?」
ジオの言葉に女性陣は沸き立つ。
「それもそうね! これも何かの縁、みんなで受かって幸せになりましょ!」
「そ、そうですそうです! みんなで受かって底辺からの下剋上です!」
「その暁には俺がリーダーになってお前らを導いてやろう」
「リュド……ま、とにかく俺たちの運命は明日にかかってるってことだ! みんな、頑張ろう!」
「「「おー!」」」
「……おー」
明日に向け互いを激励しあい、四人は解散したのだった。
バトルを早く書きたいです。次回か次々回になるかな?