3.自己紹介(1)
目を見合わせ、気まずい空気が漂う中、リュドの向かいに座っていた男が「えーと……」と切り出した。
「み、みなさんもギル活中ですか?」
「ええ、そうよ」
「わ、私もです」
「……ギル活ってなんだ」
リュド以外の二人は男の問いかけに肯定したが、リュドはその質問の意味すら分かっていないようだった。
「え、この街にいてギル活をしらないんですか?!」
「ああ、クエストとギルドの入団試験に追われていて、最近の世の中のことには疎いんだ」
「その入団試験を受けて、ギルドに入ろうとするのがまさにギル活ですよ!? 世間知らずとかではなくないです?!」
「なんだ、そういうことか」
「……と、とりあえず、みなさん、見る感じギル活上手くいってないんですよね? もしよかったらアドバイスしあったりしません? 最近この街に来たばかりで、話し合える友人もいなくて……」
男の提案に酒飲みの女は「おー!」と声を上げる。
「いいね! あたしも何がいけないのかちょっち困ってたとこなのよ! 愚痴りたいこともあるし! あんたらもいいでしょ? ね!」
女は酒飲みのテンションで向かいの席に回り、リュドとその隣の女の間に入って肩を回してきた。酔っ払いのダル絡みである。
「は、はい。私もぜひお願いしたいです」
「俺は結構だ」
うろたえながらも同意をする隣の女とは対照的に、リュドはそっけなく女を突き放し、肩に回された手を振り払った。
やはり相席なんかするもんじゃなかったな、と思いリュドが席を立とうとしたところ。
「えーなんでよ! あんたもあたしらと同じこと叫んでたじゃない。ギルド入るなら協調性も大事よ?」
その女の言葉に、リュドはピクリと耳を動かした。
「協調性があればギルドに入れるのか?」
「まー最低条件でしょうね!」
「そうなのか」
「それにあんたは基本常識も足りてなさそうだし、あたしらと話してそこらへんもついでに鍛えたらいいわよ」
「分かった」
そうするとリュドは浮いた腰を席に戻した。
「あなたも失礼なことズバズバ言いすぎだし、あなたも変なところで素直ですね……」
「あんたも敬語使わなくていいから! ハンター同士ならフランクな方がむしろ礼儀がなってるってもんよ?」
「そ、そうなのか……? 分かったよ……。じゃあ、とりあえず自己紹介からしようか。俺はジオ。前衛をやっていて、魔導書は……炎魔法のシングル」
酒飲みの女は「ふーん」とあいづちを打ってから続けた。
「じゃ、次あたしね! あたしはエフィ! 中衛やってて、魔導書はトリプルで、紙魔法と糸魔法と……あと一つは秘密でーす!」
「え、トリプル!? すご!?」
ジオがエフィの自己紹介を受けて驚いている。
魔導書は、生まれた時から全人類の体に宿っており、魔導書のページ内に刻まれている属性の魔法を使えるようになる。
最初は少しの魔法しか刻まれていないが、何度も使い経験を積むことで、新たな魔法がページに刻まれていくのだ。
しかし、ほとんどの人間は一種類の属性しかもたない、シングルである。デュアル、トリプル、クアッドと希少性は上がり、エフィのトリプルは上位ハンターでも珍しい希少なものだ。
「まーね。それに、あたしは格好だけのトリプルじゃなくて、ちゃんと結構やれるから! じゃ、次はあんたね!」
「ひゃ、ひゃい!」
リュドの隣の女は、呼びかけられビクリと体を揺らし、素っ頓狂な声で返事をした。
「わ、わわ、私はベルキムといいます! ポジションは後衛で、魔導書もエフィさんと同じトリプル……。毒魔法と霧魔法と……あとは秘密です」
「え!? 君もなの!? 中々ないよこんな状況」
「そ、そんなキラキラした目で見ないでくだしゃいい……」
ベルキムは、ジオの目線から逃げるように手で顔を覆った。
トリプル以上を複数擁するギルドなどトップギルドでも片手で数えるほどしかなく、二人が偶然相席していたこの状況は奇跡中の奇跡だ。
「てか二人とも、なんで最後のは秘密なのさ。教えてくれてもいいじゃん」
「トリプルにも色々あるのよ。あたしの最後の魔法はホントの奥の手で切り札だから、知り合いにも秘密にしてるの。あんたもそんな感じよね?」
「そ、そんな感じでしゅ!」
「そんな感じなんだ……じゃ、最後の君は?」
ジオが最後に残ったリュドに話を振ると。
「リュドだ」
やはりそっけなくリュドは返事を返した。
「……え、それだけ? 魔導書とか、ポジションのこととかは?」
「言わなきゃダメなのか?」
「俺たちが言ってたんだから流れで言うでしょ! というか、ハンター同士の自己紹介じゃ基本事項だよ!? 名前だけじゃどんなハンターなのか分かんないじゃん!」
「そうなのか。ポジションは前衛。魔導書は強化魔法だ」
「やっぱり素直なんだよなぁ……。てか、強化魔法なのに前衛なんだね。強化魔法なら汎用性高いし、ちょっと腕が悪くても後衛に回るだけで引く手あまたでしょ」
「ソロでしか活動したことがないもんでな。他人のサポートとかはよく分からんのだ」
「あー、なるほどね……」
リュド以外の三人は何かが腑に落ちた様子だった。
「だからコミュ障なのね! あんた」
そんな中、酔っているエフィは、思ったことを心に込めていられなかった。
「おいあえて言わなかったこと言うなよノンデリ女! それに、コミュ障だからパーティーを組んでもらえなかったのかもしれないだろ!?」
「あんたも結構酷いけどね」
「おいおい、俺は別に人と話せないわけじゃないぞ。このチビと違って」
「流れ弾っ!?」
急に自分にディスが飛んできて、ベルキムは涙目になる。
「あんたねー、まともに話せないだけがコミュ障の形じゃないのよ? 人の意図を組むとか、笑顔で話すとか、さっきも言った協調性とか、常識を知ってるかとか、そういう部分もコミュニケーションの要点なんだから」
「そうなんだな。これからは気を付けよう」
「素直は美点だから継続しなさいね」
「分かった」
「親子みたいな会話だな……」
二人の会話の相性の良さにジオは呆れた声を出した。
本文でも後に触れようと思っていますが、先に言うと、属性にも希少性はあります。ジオの炎魔法は普遍的なもので、ベルキムの毒魔法、霧魔法は普遍的とまではいかないものの、中、後衛であれば割と見かけるレベル。リュドの強化魔法、エフィの糸魔法、紙魔法は希少な部類に入ります。しかし、属性に関しては希少性より練度が重視されるので、属性数よりはリアクション薄めとなっています。