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ファンキー・ロンリー・ベイビーズ  作者: 清泪(せいな)


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第75話 聞いてガラージュ見てガラージュ 7

「ありがとぉございやしたぁっ」


 家の近所にあるコンビニで、晩御飯を買って帰る伊知郎。

 休みの日ぐらい近所のスーパーで食材から買い揃えて、自炊に勤しめばいいのだが、どうにもそういうやる気は起こらない。

 長年家族に使われてきた台所も、今やたまに拭き掃除されるだけの場所だ。


 事務所近くのコンビニとは別系列のチェーン店なのに、店員の挨拶がよく似てるのは流行りなのか、そういう指導が一般なのか。

 妙なことが気になるものの、別に問いかけるようなことはせずに、伊知郎はレジ袋片手にコンビニを後にする。


 夕日差すオレンジに染まる街は、何やら騒がしくあった。

 いつにも増してパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら疾走していき、その先には大抵誰かしらの怒声が響いている。

 昼頃に来た警察が話していた昨日の発砲事件に関するものか、伊知郎はそう推察するも、しかしながら極道絡みの事件というなら表沙汰過ぎる気もする。

 ああいう組織は事件ごとは目立ちたがりは しないはずだ。

 何処でも関係無く暴れまわるなど逮捕歓迎みたいな自殺行為にも思える。


 出かける前に観ていたローカルニュース番組でも昨日の発砲事件は取り上げられていた。

 ニュースキャスターは、外へ出歩く際の注意喚起をニュースの〆に付け加えていたが、変なことに首を突っ込まない以外のすぐにでもできる備えというものが伊知郎には思いつかなかった。


 変なことに首を突っ込まない、それは昨日出会った青年に再度関わらないということであるのだけど、返しそびれた五円玉はずっと頭に引っ掛かっていた。

 今度また会えたらすぐに返せるよう、五円玉を一枚だけ財布には入れずズボンのポケットに直接入れてあった。

 また昨日の朝みたいに見かけたら、ついつい追いかけていってしまうだろう。

 そのぐらい安堂家の家訓というものは、伊知郎の行動理念に刻み込まれている。


 そういうわけで、変なことに首を突っ込まない、街は騒乱に飲み込まれている、などの様々な状況にあるなか伊知郎はキョロキョロと辺りを見回しながらコンビニと家との僅かな帰路を歩いていく。


 伊知郎の自宅がある一丁目は主に住宅街である。

 他の番地へと繋がる大通りを少し横道に反れれば、一方通行が入り交じる込み入った狭い道ばかりがある。

 一方通行が基本となるので道幅も車一台分プラス歩行者程度になっていて、すれ違う車と自転車は器用に道を譲り合って通っている。

 伊知郎も何台か通っていく対向車とすれ違っていく。

 夕方の帰宅ラッシュというのか、車通りが多くなってきている時間帯だった。

 そんな中、大通りから入ってくる対向車の様子がどうにもおかしかった。

 住宅街の狭い道、スピードを出す車など滅多にないのだが入ってきた車が一台、制限速度を越えたスピードで走り去っていく。

 危ないなぁと、伊知郎が慌てて車を避けるとその車の後方からさらに飛ばしたパトカーが一台。

 運転は荒々しく、いつどこに車体をぶつけてもおかしくないほどタイヤを滑らしている。

 幸い他の通行人には辛うじてぶつからなかったものの、猛スピードで暴走するパトカーに悲鳴が上がる。


 何だ、と伊知郎は身構える。

 パトカーの進行方向、道路から避けようにも逃れる小道などは数十歩歩いた先にしかなく、後方も同じく。

 前に行くも後ろに行くも、パトカーのスピードから考えて間に合わない距離。

 とにかく避けるしかない、と伊知郎は身を強張らせて迫るパトカーに備えた。

 サイレンも鳴らさない暴れ走るパトカー、迫る運転席に座るのは警察官ではなく作業服を着た男。

 助手席にはシートベルトを必死に掴む女子高生。

 何なんだ一体、と伊知郎は疑問に思うも答えなどわからぬまま猛スピードのパトカーは狭い道を突き抜けていく。

 滑る車体がレジ袋に軽く接触して、慌てて伊知郎は身を捻った。

 荒れる車を運転席の男が必死に制御する。

 後部座席に座る男が何やら怒鳴ってる様子が、窓の外からでもわかる。

 そして、その横に座らされている怯える女子高生の様子も。


「・・・・・・愛依っ!?」


 見知った顔、愛しい娘の顔。

 出ていった妻についていった娘の姿が、何故パトカーにあって、怯えているのか?


 驚愕する伊知郎との一瞬のすれ違い、猛スピードのパトカーの中、愛依も伊知郎のことに気づいた。

 涙ぐむ瞳、助けてと訴える口の動き。

 うるせぇと叩かれる頬。


「愛依っ!!」


 伊知郎は手に持ったレジ袋を投げ捨てて、慌ててパトカーを追いかけた。

 五十前の運動不足の身体は思い通りに足を繰り出さず、もつれて倒れそうになるが、しかし伊知郎は意地でも転けてられないと踏ん張り、走り出した。


 小道を抜ければ再び、大通り。

 そこまで行かれればすぐにでもパトカーを見失うだろう。

 そこまでになんとか捕まえなければ。

 愛依を助けなければ。

 伊知郎は必死に走った。

 必死に手を伸ばした。

 速くなる鼓動と、荒くなる呼吸で、耳の奥が痛くなる。

 必死に走った、呼吸など止まって構わない。

 必死に手を伸ばした、どんどんと離れていく。

 車のエンジン音、轢かれかけた人々の悲鳴、足音。

 やがてその音に多くの車の音が交じり始める。

 大通りがすぐそこに。


 行かせるかっ、飛び込むように伸ばした伊知郎の手は、しかし、パトカーを掴まえることはできなかった。

 パトカーは滑るように急カーブで大通りの車線に合流すると、そのまま荒々しく車の列へと混じっていく。

 伊知郎は諦めず追いかけたが、あっという間にその姿を見失ってしまった。


 ハァハァハァ、っと意識とは無関係に呼吸が行われ、肺と心臓が酷く痛んだ。

 自分の無力さに失望して、足は止まり、膝から崩れた。

 酷く泣きたくなった、誰か助けてくれと、大声で泣き叫びたかった。

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