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ファンキー・ロンリー・ベイビーズ  作者: 清泪(せいな)


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第55話 昔取ったラグタイム 9

 若菜は一息小さく吐くと、崩れたガードレールにもたれ倒れる文哉の側まで近寄ると頬を叩いた。


「オイ、起きてるか平田」


「止めてくれよ、若菜さん。気を失ってるわけじゃない」


 文哉は若菜の手を払いのけた。


「起き上がれるか?」


「アイツに足をやられちまった、ちょっと休憩させてくれ」


 英雄に投げられた際に文哉は右足首を捻られていた。

 力任せな行動に見えてしっかりと地味なダメージも与えてくる。

 つくづく嫌なヤツだ、と文哉は英雄が去っていった方を睨んだ。


「アイツのことは俺達警察に任せろ、平田」


「聞くと思うか? 今さら」


「ボコボコにやられた仕返しか? それじゃそこらのチンピラと変わらねぇじゃねぇか」


「ああ、仰る通りで。街をぶっ壊す、なんて言われたんでな、許せないだろ。シマ争いさ。チンピラやヤクザ、それに警察様と何ら変わらない話だよ」


 文哉の返しに若菜は溜め息を溢す。

 顎の無精髭をかいて、そう言うわな、と呟いた。


「若さん、平田君は事情聴取ってことで署に連行しましょう」


 倒れていた井上がゆっくりと身体を起こす。


「ここで放ったらかしたら街の混乱は広がる一方です。平田君や商店街自警団には大人しくしててもらいましょう」


「商店街の連中を抑えるのが一苦労な話だな。警察(俺達)が不甲斐ないばかりに、街の住人にも頼りにされないなんてな」


 お前たち警察が頼りないから若いヤツらに守ってもらってるんだろうが。

 その主張がもう数年間まかり通っていて、自警団がチンピラ相手に過剰な暴力を振るおうとも目を瞑らされていた。


「まぁ、まずは病院だな。じきに救急車がやってくる。先にその足、診てもらえよ、平田」


「医者なんて大袈裟にしなくても、ちょっと休憩すれば歩けるよ、俺は」


 文哉は顔を苦痛に歪めながら立ち上がる。

 右足の痛み、全身の痛み。

 怠けた身体を恨みたくなる。


「無茶言えば押し通るって、我が儘言う年齢としでもないだろ、平田」


 若菜はそう言うと、文哉の右足を軽く蹴った。

 苦痛の声を上げて前のめりに倒れる文哉を受け止める。


「痛ぇな、何すんだよ、オッサン!」


「オッサンに簡単に足払いされてよ。休んどけって言ってんだ、若いの」


「平田君、君や自警団の子らが本当に街を守りたいって思うなら、警察になったらいいんだよ、歓迎するよ」


 井上は周りで倒れる自警団の青年たちの様子を確認して回っていた。

 痣になりそうなほど酷い打撲傷が目立つ。

 英雄の仕業だ。


「バイト感覚みたいに簡単に言うなよ、井上さん。俺は頭は良くないんだよ、筆記試験で落ちるのが目に見えてる」


「頭が良い悪いの問題じゃなくてやる気の問題だよ、それは。本気で街を守りたいなら多少の勉強ぐらいやってもらわないと」


 文哉は若菜から身体を離し一人で立った。

 バランスを取ろうと踏ん張ると捻った右足に痛みが走るが、歯を食いしばって我慢する。

 井上に何か文句を言ってやろうと思ったが、何一つ上手い返しが思いつかなかった。


「オレ達が本気じゃないみたいな言い方止めてもらっていいっすか」


 井上に起こされた自警団の青年の一人、遠藤えんどう音弥おとやは蹴られ赤く腫れた頬を擦りながら文句を吐いた。

 自警団のユニフォームとして着てる外側に黒いラインの入った白ジャージは所々擦りむけて薄くなっている。


「オレ達だってこの街守る為に必死なんすよ。警察(アンタら)千代田組ヤクザが頼りないから、自分の場所を守る為に必死なんすよ」


 引き起こす井上の手を振り払い、遠藤は文哉の事を睨むように見ていた。


「刑事さん、事情聴取ってのはオレ達自警団のメンツで対応させてもらいます。その代わり、文哉さんのことは見逃してもらっていいですか?」


「何を言って──」


「井上、良いから聞いてやれ」


 井上の言葉を若菜が遮る。

 井上の抗議するような視線に若菜は首を横に振って答えた。


「文哉さん、オレは正直アンタならあんなヤツ簡単に蹴り倒すもんだと思ってましたよ。勝手に無敵のヒーローだなんて持ち上げてました。すんません」


 遠藤は深く頭を垂れる。

 若ぇな、と若菜が微かに笑う。


「オイ、平田、お前行っていいぞ」


「ちょっ、若さん──」


「一人や二人勝手に暴れてようが、警察(俺達)のやることは決まってんだ、問題ない。それより、男のプライドってヤツは大事にしてやりてぇじゃねぇか。若いヤツらに舐められるってのは、そりゃ喧嘩に負けるより来るもんがあんだよ」


 なぁ、と若菜は文哉の肩を叩く。

 井上は額に手をやり、呆れて天を仰いだ。


「人をロートルみたいに言うんじゃねぇよ」


 文哉はそう一言だけ呟いて、右足を引き摺りながら英雄が去っていった方向へと歩き出した。


「報告書は若さんがお願いしますね」


「ああ、馴れたもんよ」


 サイレンの音が近づいてくる。

 若菜と井上は引き渡しの段取りにと動き始めた。

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