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ファンキー・ロンリー・ベイビーズ  作者: 清泪(せいな)


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第18話 ジャズ・ロックを叩いて渡る 1

 

 米倉ビル。

 四丁目にある六階建ての細長い貸ビル、と須藤に教えられたビルの欄間看板に書いてあった。

 ビルに設置された袖看板は、色々な色をしているがどれにも店の名前が入っていなかった。


 勝は濡れた髪をかきあげてビルを見上げた。

 ここに訪れる途中に自動販売機で500mlのミネラルウォーターを買い、側頭部に流れる血を洗い落とした。

 冷たい水は傷に染みるし、まだ春先で気温も低く寒かった。

 八丁目から歩いてきたものの、髪は乾ききらなかった。

 頭の傷みと右足の傷みは大分と引いていた。

 万全ではないが、殴り込みをかけるには十分だろう。


 勝はゆっくりと首を左に倒し、そして右に倒した。

 ごきごき、と骨が鳴る。

 片方の拳をもう片方の手で包む様に押さえ、指の骨も鳴らす。

 軽く跳ねて、息を鋭く吐く。


「さて、行きますか」


 誰に言うでもなく独りごちると続けて、シャァッ、と吠えた。


 一、二歩と歩を進めると入り口の自動ドアが開いた。

 正面の壁に持たれる青年が一人。

 金髪のソフトモヒカンで揉み上げから顎まで髭を伸ばしている。

 バタフライナイフをお手玉のようにして遊んでいた。

 あぁ?、と鋭い眼光で睨み付ける青年に勝は駆けて、その勢いを殺さぬ様に跳んだ。

 青年の顔面に勝の靴跡がくっきりとついて、青年は崩れる様に倒れた。


 倒れた青年には見覚えがあった。

 三、四日前に薬を売っているところを見かけた。

 うぅ、とか、ぐふっ、とか喘ぐ青年にもう一蹴り入れておく。

 床に落ちたバタフライナイフを拾い上げ、狭いエントランスの端に設置されている煙草の自動販売機の横に置いてあるゴミ箱に投げた。

 金属製の金網タイプのゴミ箱の袋の中へ軽やかな音を立てて入った。


 勝はエントランスを奥へと進む。

 見張り役はさっきの青年、一人だけか。

 無暗な体力の消耗は避けたかったのでありがたかった。

 相手が何人いるのかもわからないので、いちいち真っ正面から殴りあうというわけにもいかない。

 奥に少し進むとエレベーターがあった。

 エレベーターは三階に止まっている。

 エレベーターの横には階数案内板があり、そこには階数表記だけがしてあり店舗や会社の名前は記されていなかった。

 上行きのボタンを押す。


 エレベーターの稼働音だけが聞こえる静かな時間が流れる。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 勝は心の隅で高揚するものを感じていた。


 エレベーターが到達し甲高い機械音が鳴る。

 ドアが開き、勝はゆっくりと中に入り3のボタンを押した。

 静かにドアが閉まり、勝は深呼吸をした。


 三階に到達したエレベーターはまた甲高い機械音を鳴らしドアを開いた。

 エレベーターから赤い絨毯が室内に広がっている。

 このフロアはキャバクラとして使われていたのだろう。

 内装はそのままで、高級そうな花瓶や絵画も飾られている。


 エレベーターから降りて正面にはバーカウンターがあり、そのカウンターで一人、白人の大男が丸椅子に座りジョッキで何かを飲んでいた。

 透明な液体に、大きな氷が幾つか浮かんでいる。

 勝は一、二歩と大男に近づいた。

 座った後ろ姿からもわかるが、男は2m越えぐらいはしてそうな巨体だ。

 まともにやりあって、軽い怪我で済むとも思えない。

 このまま後ろから奇襲をかけれれば――。


「ティホン・トルストイ、客人だ」


 フロアの奥から聞こえた声に、白人の大男――ティホンはゆっくりと振り返った。

 勝の姿を見ると、溜め息まじりに勝には聞き取れない言語で呟き立ち上がった。


 214cm、121kg。

 とても同じ人間とは思えない巨人が勝の前に立ち塞がる。

 左右を刈り上げ、真ん中だけを残した短かなモヒカン頭。

 白銀のような輝く髪。

 緑色のタンクトップに、山吹色のカーゴパンツ。

 121kgの大半を占める筋肉は、その長身を分厚い壁の様に感じさせる。

 顔まで筋肉で固まっているかのようで、それでいて彫像のように整っている。

 蒼き眼光が勝を突き刺した。


「ヨウケン、キカセロ」 


 腹の底に響く様な低い声で片言の言葉を紡ぐ。


「あー、なんて言えば通じっかな、殴り込みって。えーっと、ファイトしに来た?」


 勝はボクシングの様に腕を顔の前に上げて構え、左、右とワンツーパンチをしてみせた。

 シャドーボクシングの真似事をしてみせる勝を見て、ティホンは店の奥へと首を向ける。

 先程の声の主がいるのだろう。

 無言の合図か、何かを確認してティホンは頷くと勝の方に向き直し鼻で笑った。


「オマエ、コロ――」


 言い切る前にティホンは右腕を大きく振った。

 本来なら水平チョップ。

 しかし、身長差から振り下ろす形となったチョップは、その筋肉で太くなった丸太の様な腕からは想像もできない速さで勝の構えていた腕を叩いた。

 あまりの衝撃に耐えきれず勝は後ろに押し飛ばされた。

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