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ファンキー・ロンリー・ベイビーズ  作者: 清泪(せいな)


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115/120

第115話 グライムに教えられる 35

 勝と千代田の会話を、勝の寄り添うように座る八重は不思議そうな顔で聞いていた。

 話の所々に引っかかりを感じるのだけれど、それが何であるのかは理解出来ずにいた。

 そんな八重に対して、勝も千代田も答えを出してやるわけでもなかった。

 お前が言ってやれ、と互いに目を合わせていた。

 父親として説明する義務がある、だとかもっともらしいことを指摘してやろうと勝が口を開きかけた時に、応援にと駆けつけた救急隊員がやってきた。

 千代田への抗議はそれにより遮られ、救急隊員に強めの口調でされる意識確認の対応に勝は専念することにした。


「八重、誘拐沙汰が終わったばかりで悪いがそいつについてやってくれ」


 結局引っかかってることが何なのか整理がつかないまま、八重は千代田に対して頷き答えた。

 言われるまでもなく、勝についていくつもりだった。

 全身、何処を見ても怪我だらけになってまで、自分の事を助けてくれたのだ。

 感謝しても、感謝しきれない。

 せめて少しでも、この恩を何か返せることはないかと、勝についていくつもりだった。


 逆に自分は気絶していてこれは夢なのじゃなかろうか、と勝は錯覚する程、念を押されながら意識確認をされてやっとのことでタンカーに乗せられる。

 どうやら自覚してる以上に、怪我の具合が宜しくないようであった。

 救急隊員二人に持ち上げらた際に、激痛を感じて勝は夢ではないと実感する。

 七階フロアは、つい先程までの緊迫した沈黙を破り警察と救急隊員が大勢集まっていて騒がしかった。

 エレベーターが動かないので階段で降りるという注意を三度ほど聞かされながら、勝は運ばれ流れていくフロアの光景に目をやる。

 視線の先、千代田が伊知郎に頭を深々と下げていた。


「頭を上げてくださいよ、千代田さん。もう謝罪は結構だと、何年も前に話したじゃないですか」


 伊知郎は困ったという表情を浮かべ、千代田に頭を上げろと促すが、直接身体に触れるわけにもいかず、出した両手を胸の前で遊ばせる。


「いえ、今回は安堂さんのところの娘さんを巻き込んだ失態もありますし、何より瑛太君の事故の際に、誓わせて貰いました約束も破る形になってしまいました」


「破るだなんて……千代田組の方々は、あの時からずっとこの街を守り続けてるじゃないですか」


 二十年前、羽音町二丁目、公園前通り。

 当時十歳の安堂瑛太が歩道から道路に飛び出し、千代田毅を後部座席に乗せた遊川陽治が運転する車が衝突。

 安堂瑛太は頭部を強く打ちつけ、病院へと運ばれた後に、死亡した。


「もう人を責めるのはやめたんです」


 瑛太が死んだ事故で、安堂夫妻はその悲しみを怒りへと変換して、千代田組を責めたてた。

 妻は瑛太を失った悲しみに耐え切れず、その怒りの先を千代田組に向けるだけでは足りず、自らにも向けてしまう。

 自殺しようとする妻を引き止める為にも、伊知郎は共に抱いた悲しみと怒りの矛先を千代田組――千代田毅へとぶつけた。


「他人を責めたとしても、何かが返ってくることも無く、また何かを失うだけだった」


 当時、千代田毅は組を任されたばかりの若い組長であった。

 それゆえケジメの付け方を間違えていた、と千代田毅は今思えば恥ずかしくも思う。

 確かに運転していたのは遊川であったが、その組長()である千代田が責任を負うのは当然のことで、その覚悟と示しとして、小指を詰めた。

 それは、安堂夫妻に対する謝罪の意志と、カタギの子供を事故だとはいえ殺したという事に対して東條会()への示しも必要だったからだ。

 それこそ、その行為が安堂夫妻に対する謝罪に相応しくないのだとは、伊知郎の妻の表情が言い表せぬ感情の吐露に歪んだからだった。


「あの時の私が取ったケジメなんてのは、極道であるという自分の為の自己満足でしか無かった。私は、あの時、筋の通し方というものをわかっていませんでした」


 千代田のその行為は、伊知郎の妻の感情を逆撫でするだけでしかなかった。

 そして、瑛太が飛び出したのだという目撃情報から確定された事実にも向き合えなくなってしまった。

 私はアイツらを殺して、死ぬんだ。

 食事もろくに取らず、夜中に明かりのついてない台所で、胃液を吐き続け、やつれていく妻がそう呟いた時、伊知郎は復讐の虚しさを感じ取っていた。

 このままじゃあ、失うばかりだ。

 

 それから、伊知郎は赦す事にした。

 そもそも、責めたてるような立場では無いのは理解している。

 だから、伊知郎が赦したのは瑛太を失った悲しみや怒り、そういった感情を押し殺すと決めた自分自身だった。


 そうして、赦す事にした伊知郎は、妻の感情の矛先を自分にだけ向けるようにさせた。

 伊知郎のそんな態度に、妻は反発しつつも、ぐちゃぐちゃになった感情を抱えていられず、止めることも出来ず、罵詈雑言、あるいは物理的な暴力も含めて、ぶつけていった。


 妻が気持ちを落ち着かせられるようになったのは、事件から三年の時間を費やした後だった。

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