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友達

「ダリア様、ご一緒しませんこと?」


 マナー教室へと向かう道すがら、ダリアに声を掛けてきたのは同じクラスのベリエル・フランだった。


 ベリエル・フランはフラン伯爵家の令嬢でありアンドリュー・ノーグアム第三王子の婚約者でもある。


 フラン伯爵家は元を辿れば公爵家の血筋を汲む王族派の家柄で、貿易商で栄える家柄であった。


 日に当たると黄緑色に見える小麦色のストレートの髪をサイドアップに結い上げ、薄茶色の瞳はハッキリとした二重に音が鳴りそうな程の長く豊かなまつ毛に縁取られ、色白の肌は陶器のように滑らか。


 正統派の美少女というべき風貌をしていた。


 だがそれは顔だけで、体付きは豊満であり、言ってしまえば太っている。


 小顔だから尚の事目立ってしまう丸々とした体は、制服の上からでもその肉付きの良さが分かってしまう程である。


 ジャケットの上からでも分かる丸い腹はダリアが知る前世にいたビール腹の男性を思わせるものがあった。


「私と、ですか?」


「はい。ご迷惑でしょうか?」


 クラスメイトとのランチを断り続けているダリアにはこれといって仲の良いものはいなかった。


 男子を避ける姿からも近寄り難い存在として認識されてしまっていた為に友達が出来ずにいたのだ。


 人懐っこい笑顔でダリアに声を掛けてきたベリエルを、ダリアは好ましく感じた。


「迷惑だなんて滅相もありません! 是非ご一緒しましょう」


「ふふ、ありがとうございます。私、ダリア様と仲良くなりたかったのです」


「まぁ、私と?」


「私、こんな体型でしょ? だから皆さんに嫌われていますの。ですがダリア様は私の事をおかしな目で見る事もありませんでしたでしょ? ですからね、ずっと気になっておりましたの」


「そんな……体型など関係ないじゃありませんか」


「ふふ、そう仰ってくださるのは殿下とダリア様だけですわ」


 愛らしい顔をクシャリと歪めて泣き笑いのような表情を浮かべるベリエル。


「私とお友達になってくださいませんか?」


 ベリエルの申し出を二つ返事で快諾したダリアだった。



 その日以降、ベリエルと共に過ごすようになったダリア。


 ベリエルはさすが王子の婚約者だけあり仕草や作法の全てが美しく、学問にも長けていた。


 陰では「アンドリュー王子に嫌われている」などと言われていたが、二人の仲は実に良好で、むしろアンドリューの方がベリエルに夢中なように見える。


「このようなみっともない体型の私と共にいてはアンドリュー様が笑われてしまいます」


「まだそんなことを言ってるの? 言いたいやつには言わせておけばいいんだよ。僕は気にしない」


 ダリアの前だというのにベリエルへの愛情表現を隠さない王子に、ダリアの方がいたたまれず目をそらすほどだった。


「せっかくの可愛い体がやつれてしまうよ。はい、あーん」


 ここは学園内にある王族専用のプライベートルーム。


 本来ならダリアが足を踏み入れることすら許されない場所なのだが、ベリエルには甘いアンドリューはベリエルと共にならばダリアの入室を許可している。


 食堂をさけていることに気付いたベリエルがダリアと一緒に学園庭園の温室で昼食を食べていることを知ったアンドリューにここを使うようにと言われたのは数日前のことだった。


「温室には美しい花に吸い寄せられる悪い虫が多いから、虫なんか湧かないここで食べるといいよ」


 直訳すると、美しいベリエルに言い寄る男がいるだろうからここで食べろというところなのだが、実際にはベリエルに言い寄る男などいない。


 今日はアンドリューが公務のために学園を休んでいるため、プライベートルームにはダリアとベリエルの二人きりである。


 女子だけになると恋バナで盛り上がるのは世の常であり、この二人も例に漏れない。


「アンドリュー様は本当にベリエル様にゾッコンなのですね」


「そ、そんな……私なんかが殿下の婚約者でいいのかと常々思っておりますのに……」


「でも、お好きなのでしょう?」


 ダリアに尋ねられポッと頬を染めるベリエル。


「私など、本来は選んでいただけるような見た目でもありませんのに」


 ベリエルは好き好んで太っているわけではない。


 数年前まではほっそりして大変美しい令嬢だったのだが、病気をし、領地に引きこもり療養している間に太ってしまったのだ。


 それはひとえにベリエルの両親のせいである。


 元々ベリエルに甘い両親は、愛娘が病気になるとさらに甘くなり、元気になるようにと滋養にいいものをたくさん食べさせた。


 食べ物を粗末にしてはいけないと考えていたベリエルは、両親を喜ばせるためにもと出されたものは苦しくても無理をしてでも全て平らげていた。


 最初こそはやせ細っていく娘を見たくない一心だったのだが、どんどんふっくらしていく娘を「健康的で可愛い」と思うようになり、気付けば丸々とした令嬢が完成していた。


 アンドリューとは幼少期からの婚約者であったが、太って誰からも見向きもされなくなった自分では相応しくないと考えて婚約解消を願い出たこともあった。


「見た目なんて些細なことだよ。僕は君の心が大好きなんだ。君が君であるなら、太っていても痩せていても何も問題ない。それに、君は自分のことを醜いと言うけど、僕にとっては今の君も前の君も等しく可愛くて魅力的にしか見えない」


 申し出る度にそう言って一蹴するアンドリューにベリエルの方が根負けしてしまった。


 少しでも相応しくあろうとダイエットに励んでいるのだが、それに気付いたアンドリューにより「ベリエルが減ってしまうのは嫌だよ」と甘い物をたくさん食べさせられるため、思うようにいかないのだった。


 今日もテーブルの上には大きなホールケーキが一つ、存在感を放って置かれており、アンドリュー直筆のメッセージカードが添えられている。


「本当に愛されていますね」


「これでは痩せることも出来ません! 私は痩せて美しい姿で殿下の隣に立ちたいのです!」


 美しくなりたいと願うのは女性として当然のことなのだが、そう言いながらもケーキを幸せそうに頬張るベリエル。


 甘いものもまた、乙女には欠かせないものなのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか、好きです。この作品。 好きな人に一方的過ぎたダリアの猪突猛進だったところが、胸に刺さりました。ダリアが一般的な美人ってことに友人から言われるまで認識していない、初恋を引きずっている…
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