めげない女とランチの誘い
久々の更新です。
ヒロ来るのファンの方々には嫌われがちな主人公達ですが、ヒロ来るとは真逆な関係の二人をと生み出した、恋愛に不慣れで不器用な二人なので、温かく見守っていただけると有難いです。
遅筆でお待たせしているのにブクマを外さずに待っていてくださった読者の皆様、ありがとうございます。
気持ちと筆が乗り始めれば書くのは早いのですが、一度心が折れているためなかなか点火してくれず、今後も更新は遅いと思います( ´>ω<)人
マスミットはジェラスに本気になってきていたが、男子棟には行けないため、ジェラスの婚約者を探すことにした。
しかし、クラスメイトのほとんどがマスミットとの関わりをさけており、話しかけようとしても無視されてしまう。
「モテるって本当にこういう時に困るのよね」
自分への嫉妬のなせる技だと思っているマスミットは無視をされようと気にしない。
そんな時教室で本を読んでいるダリアを見つけ声をかけた。
「ちょっと聞きたいんだけど」
初めて話す相手に突然馴れ馴れしい口調で声をかけられダリアは困惑していたのだが、マスミットはそんなことにも気付いていない。
「ジェラス様って知ってる?」
不意にジェラスの名を聞いてダリアの心臓は跳ね上がった。
「ジェラス様とは」
「あ、知らないか、じゃいいや!」
ジェラスという名前はそう多くないが、他の学年の生徒の中にいるかもしれないと思い、どこの家門のジェラスのことかを聞こうと思ったダリアだったが、マスミットは最後まで聞かずに勝手に知らないと判断した。
「ジェラス様の婚約者って誰なのよ」
ブツブツと言いながら立ち去るマスミットをダリアは呆気にとられてたような表情で見送った。
全ての授業が終わり皆が帰り支度をしていると、教壇の前に立ったマスミットが大声で叫んだ。
「このクラスにジェラス様の婚約者がいるんだけど、誰?」
あまりの大声に皆が一斉にマスミットを見たのだが、全てを聞き終わると皆がダリアの方を見た。
「あー! あんただったの?!」
そう言いながらダリアの元へズンズン歩いてきたマスミットは、ダリアの前で仁王立ちになり言葉を続けた。
「自分が婚約者なのに、私に聞かれて答えないとか性格悪すぎない? あ、もしかして私にヤキモチでも焼いてた? 婚約者が取られるとか思っちゃって抵抗でもしてる?」
言われている意味が分からないダリアはキョトンとした顔をしているのだが、マスミットはダリアを馬鹿にするような笑みを浮かべている。
「確かにちょっとは美人だけど、あんたなんか私の足元にも及ばない。だからって嫉妬で嘘をつくなんて本当に最低ね!」
言われている意味が分からないダリアはキョトンとした顔でマスミットを見上げている。
「ジェラス様が私を好きだからって、嘘をついてまで妨害しようとするなんてどうかしてるわ!」
───誰が誰を好きだと? それにこの方は誰?
マスミットのことをよく知らないダリアは彼女の言っている意味が本当に分からず混乱していた。
ジェラスは昔からずっとへミリーに恋をしているため、目の前の女生徒を好きになるはずがない。
「あの、何を仰っているのでしょうか?」
「嫉妬深い上に察しも悪いの?」
マスミットが嫌味な笑みを浮かべている。
「何をしているんだ?」
ダリアにとっては聞き慣れた、恋しい声が聞こえてきて心臓がドキッと跳ねた。
教室の入口から少し中に入ったところにジェラスが立っており、二人のやり取りを聞いていた。
「ジェラス様っ!」
ジェラスに気付いたマスミットがダリアより先に声を上げた。
すかさず駆け寄りジェラスの腕にまとわりつこうとしたのだが、いつものようにサッと避けられてしまった。
「本当に照れ屋さんなんだから、ジェラス様は」
その言葉を拾ったジェラスは底冷えするような冷たい視線をマスミットに投げた。
「マスコット嬢だったか? あなたは何を言っているんだ。理解に苦しむ」
冷たい視線に少し怯んだマスミット。
「マスミットです!」
「そうか、覚える気もないのですまない」
「覚える気が、ない?」
ジェラスに言われた言葉の意味が理解できず呆然とするマスミット。
「でも、だって、ジェラス様は、私のことが好きですよね?」
恋愛において絶対の自信(勘違い)を持っているマスミットは目を潤ませ、甘えたような上目遣いでジェラスを見ている。
この顔をして落ちなかった男などいなかったのだから(そもそも相手も遊びだったため、本気で落ちた男などいなかったのだが)。
「名前も正確に覚えていない相手を好きになるはずがない」
「そんな、酷いっ!」
マスミットは周囲からの同情を誘うような悲痛な声を上げたが、クラスの皆は冷ややかな視線を投げている。
それでも根が自分勝手な方向にポジティブなマスミットは「きっとジェラス様は婚約者の手前そう言うしかないんだ」と判断した。
ダリアを睨みつけ「ふんっ!」と馬鹿にするように鼻で笑うと「見世物じゃないっての!」と悪態をついて教室を出て行った。
一部始終を見ていたダリアは更に混乱していた。
突然現れたジェラスと、自信満々に「ジェラス様は、私のことが好きですよね?」とおかしなことを口にしたマスミット。
クラスの皆がマスミットを冷ややかな目で見ているのに、なぜかダリアを睨みつけ、「今日のところはこれで許してあげるわ」と言わんばかりの勝ち誇った顔(にダリアには見えた)で教室を出て行ったのだから当然といえば当然だろう。
そして、そのまままっすぐダリアの元へ歩いてくるジェラスを、どこか現実と思えない様子で捉えていた。
「ダリア、よかったら明日のお昼を一緒にしないか?」
「は? えっ?」
突然のランチの誘いにダリアの口からは間抜けな声が漏れていた。
「先約があるだろうか?」
思いがけない誘いにダリアの胸は爆発しそうなほど騒いでいたが、それと同時に申し訳なさが込み上げていた。
───きっと私への贖罪のために誘っているのよね? そんなことしてくれなくていいのに……。
「ランチはいつもベリエル様とご一緒しております。私のことは気にかけてくださらずとも大丈夫ですので、ジェラス様はご友人方とこれまで通り過ごしてください」
そう言われてしまうと何も言えなくなるジェラス。存外にヘタレなのだ。
「模擬社交の授業以外で無理をしてまで私と過ごしてくださらなくてもいいのです」
「!? 無理などしていない」
そう、以前のジェラスならば無理をしていただろうが、今は本当にダリアと向き合おうと思っているため無理などしていないのだが、そんな心境の変化など知る由もないダリアには一切伝わらなかった。




