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私の事が大嫌いな婚約者様~大好きでしたが前世を思い出したので解放して差し上げます。解放したはずの婚約者の様子が何だかおかしいです  作者: ロゼ


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会えない婚約者

ボチボチ書き進めていきます。

更新頻度は遅いと思いますが。

「今日も渡せなかった……」


 大きなため息を吐きながら、ダリアに似合うだろうと選んだブローチの箱を手に独りごちるジェラス。


 前までの猪突猛進で明るいダリアを思って選んだブローチは、今となってはダリアには似合わないような気もしてきている。


 そもそも最近はダリアの姿を見かけることすらなくなっており、本当に学園に通っているのかと疑問すら感じてしまう。


「徹底的にさけられてるみたいだな。そりゃそうだろうなー、自業自得だ」


 全ての事情を知るマーシャルにはそんなことを言われてしまった。


 そのうち会えるだろうとブローチは常に持ち歩いていつでも渡せるようにしているのだが、会えそうな場所に行っても会えず、食堂にも来ないため一週間以上姿すら見ていない現状である。


 だが明日は模擬社交の授業があるためダリアと必ず会うことになる。


 ダリアが入学してきて初の社交の授業は茶会形式のもので、婚約者が同じ学園にいれは必ずパートナーとなるため、どんなに逃げようとしても逃げられない。


 その時に再度正式に謝罪をし、今となってはダリアには少々幼いとすら思えるオレンジの花のブローチを渡そうと考えていたジェラスだが、翌日、社交の授業にダリアの姿はなかった。


「ダリアさんは本日欠席ですので、ジェラスさんはマスミットさんを仮のパートナーとしてください」


 ジェラスとパートナーになったのは「マスミット・ポーラー」という男爵令嬢。


 マスミットは少々素行が悪く、これまでに二度婚約破棄をされた令嬢で、現在は婚約者を探している真っ最中である。


 赤茶色のチリチリとした天然パーマの髪をいつも二つに結っていて(いわゆるツインテール)、胸を強調するように制服のボタンを何個か開けており教師によく注意を受けている。


 垂れ目な茶色い瞳に、左の目尻には泣きぼくろがあり、いつも誘惑するかのような上目遣いで男子生徒を見ている。


「ジェラス様……本日はよろしくお願いします」


 胸の谷間が見え隠れするようにしながらジェラスに声をかけたマスミットだったが、ジェラスは彼女を横目でチラッと見ただけで、マスミットが普段相手にしている男子生徒達のように鼻の下を伸ばすような反応はなかった。


「ジェラス様……」


 さらに胸を押し当てるように腕を組んだマスミットだったが、その腕を払いのけられてしまった。


「今日は仮のパートナーとして組まされただけだ。あまり馴れ馴れしくしてもらっては困る」


 その反応がマスミットにとっては新鮮で、「この男、絶対に落としてやる!」と思われたことなど知りもしないジェラスは、学園を欠席したダリアのことを考えていた。


───そんなにこの授業で俺に会うのが嫌だったのか? それほどまでに避けられているのか? それともどこか具合が悪いのだろうか? だとしたら見舞いに行くべきだろうか?


 単なる馬車の不具合により登校出来ず欠席しただけなのだが、そんなことは知らないジェラスはその日一日を何ともいえない気持ちのまま過ごしていた。


 翌日、いつもより早く学園に来たジェラスは校門付近でダリアを待っていた。


 しかし待てど暮らせどダリアの姿はなく、その日も会えずに終わってしまった。


「そんなに会いたいなら教室まで行けばいいんじゃないのか?」


 マーシャルには呆れた顔でそう言われたが、どの面を下げて会いに行けばいいのか分からないし、万が一自分のせいで騒ぎになっても困る(考えすぎ)ため行動に移せないでいる。


「婚約者なんだから、普通にランチに誘えばいいんじゃないのか?」


「その手があったか!」


 マーシャルに言われて初めてそれに気付き、昼食の時間にやっとダリアのクラスに行ったのだが、ダリアは既に教室を出ていたため姿がなかった。


「まぁ、ジェラス様!」


 ジェラスを見かけて駆け寄ってきたのは仮のパートナーとなったマスミットである。


「私に会いに来てくださったのですか?」


 頬を染めながら上目遣いでそう言ったのだが、ジェラスはマスミットを見もしない。


 それに気付いたマスミットはまたもや体を押し当てるようにジェラスの腕に腕を絡めたのだが、すかさず解かれてしまった。


「君は……アスミック嬢、だったか? すまないが婚約者がいる身なので、馴れ馴れしくしされるのは困る。妙な噂を立てられては迷惑なのでね」


「マスミットです! もぅ、ジェラス様はお茶目さんなのですね」


 名前など覚える気もないジェラスはそのまま立ち去ろうとしたのだが、へこたれることのないマスミットは再度腕を組もうと体を寄せた。


 だがジェラスがスッと身をかわし、スタスタと行ってしまったため未遂で終わった。


「もぅ、ジェラス様ったら……照れてるのね」


 自分が体を密着させて落とせなかった男はいなかった(単に程度の低い男しかいなかったのだが)マスミットは、ジェラスが無関心であることを「照れている」ととらえていた。


「婚約者がいるって言ってたけど……どうせ大したことない女よね? 私に落とせない男なんていないのよ」


 程度の低い男たちにはモテるマスミットは自分に自信を持っており、狙った男は落とせると思い込んでいる。


 しかも自分も男爵家の貴族令嬢であるにも関わらず貴族社会には興味がないため、ジェラスの爵位も婚約者が誰なのかも知らない。


 自身の婚約が二度も破棄され(どちらもマスミットの浮気で)たのに全く懲りていないマスミット。


 世間では『尻軽令嬢』と不名誉な呼び名が付けられているのだが、そのこともまた知らないでいる。


「そうだ! 今度は私から誘っちゃえばいいのよね!」


 そんなことを考えられていることも知らず、ジェラスは「ダリアにさけられている」ということにダメージを負っていた。

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