09; ⇐ あさおん ↗
今回は惇未視点となります。
あさおん = 朝起きたら女の子になってしまった
「え……」
今はもう朝? そして今日は……入学式の日のようだ。
「今日から高校生だ!」
ここから始まる高校生活は楽しみ。今までとは違う町でいろいろ新鮮って感じだけど、この町の方は空気がいいしね。最近まで住んでいたあっちより……あれ?
今自分の頭の中で考えていることの内容に何か違和感を感じてしまった。僕って今まで別の町に住んでいたっけ? 違うよね。生まれた時から僕は引っ越ししたことなんてないはずだ。ずっとここ……。
「って、ここはどこ!?」
どう見ても女の子の寝室だ。僕の部屋ではない。まったく知らない部屋……ではない……かも。確かに見覚えがある。記憶にあるよ。間違いなく、引っ越ししてきたばかりだけど、ここはワタシの部屋だ。
「……ワタシ? いや、僕?」
どっちなのか? なぜ自分のことなのに今なんかはっきりわからないみたい。
「僕は和倉惇未……」
いや、なんか違う。今の声は僕にしては甲高くて可愛すぎる。僕の声は可愛らしく女の子っぽいはずがない。
女の子? そういえば……。自分の今の体をよく調べてみたら……、やっぱりね。柔らかくて白い肌で、長い黒髪、それに今着ているのは桃色のネグリジェだ。胸も……ただ少しだけど一応膨らみは感じられる。どう見ても女の子だよね。
「ワタシは岩倉栄子」
間違いないわ。なんでさっきつい自分が男の子だと思い込んでいたのか? 変なワタシね。もしかして寝惚けてしまったのかしら?
「それより、今日お姉ちゃんと一緒に学校へ……あっ?」
お姉ちゃんって……? 誰の姉のこと? ワタシは一人っ子だよね。 いや、今のはワタシのではなく、僕のお姉ちゃんのことだよ。彼女の名前は和倉惇子だった。惇子お姉ちゃんは僕と同じ高校に通う3年生で、今日から僕もお姉ちゃんと一緒に学校に通うから。
いや、そんな人はいるの? 確かにうちは3人暮らしだけど、あれはワタシとパパとママだ。お姉ちゃんなんていないはずよ。
今ここに引っ越ししてきたのは、パパの仕事の都合が原因でもあるね。だから……。あれ? パパ? つまりお父さん? 僕にはお父さんがいないのでは? お母さんと離婚してもう一緒に住んでいないから。
いやいや、ワタシにはパパがいるよ。今でもママとラブラブで、ワタシにも可愛がって優しくしてくれるし……。
「何なのこりゃ! 全然わけわからない!」
なんかすごく記憶混乱みたいだ。頭の中で違う記憶がごちゃっと混ざっている。2つの……2人の人物が……。どっちが本当の自分なのかもう……。
でもこの体は間違いなく女の子だよね? 女の子だから、やっぱりこれはワタシ、岩倉栄子だ。男の子ではないから、僕……和倉惇未であるはずがない。
しかし、確かに和倉惇未という男の子の記憶がここにある。しかもそれが自然に自分だと認識している。『惇子お姉ちゃん』というブラコン姉の存在もよく覚えている。
でも岩倉栄子も確かに自分だ。それは間違いない。この体やこの部屋の家具とかもワタシの記憶の中と一致している。
箪笥を開けてみた。ほら、やっぱり女服しかないよ。学校制服も可愛いセーラー服だし。こんなの男の子が着たら絶対変だよね?
「これからこの制服を着て学校に通うよね」
今まで通っていた中学校はセーラー服じゃなかった。実はワタシもちょっとセーラー服に憧れていたよね。
今日はただ入学式だけど、制服を着る必要があるよね。昨日も試着してみて、パパもママもよく似合っていると言ったし。
とにかく、今余計なことなんか忘れて、すぐシャワーを浴びて、着替えて、学校に行く準備をするわよ。
浴室に向かって、服を脱ごうとする時に、姿見に映っている自分の姿を見てつい愕然とした。
「何……? この僕好みの美少女!?」
鏡に映っている桃色ネグリジェ姿の少女はすごく可憐でめっちゃ魅力的だ。随分長身にしては若い顔だ。艷やかで白くて柔らかそうな肌とサラサラと長い黒髪。肌と髪の毛を触ってみたらやっぱり本当にいい触り心地だ。こんな美貌を見たら男なら誰もすぐ惚れてしまいそうだ。もちろん、僕だって男だから……。
って、僕って誰のことだよ!? ワタシは女の子よ。今も毎日見ている自分の姿であるはずだから、見惚れてしまったらどうするの? とりあえず服を脱いで、さっさとシャワーを浴びよう!
服を脱いだら、次にまた自分の体を……具体的にいうと、胸のところをね。そして自分の手で揉んでみた。
「ちょうどいい形に膨らんでいるね……」
僕は貧乳派だから、惇子お姉ちゃんみたいなぺったんこももちろん好きだけど、やっぱり女の子なら少しくらいあった方がいいよね。これくらいはちょうどいい。やっぱりこの体は僕の理想的な女の子だ……。
って……また僕かよ!? だから僕って誰なのよ? 自分の裸体を見てこんなに盛り上がって感嘆するなんて変だよね。それに『ぺったんこの惇子お姉ちゃん』って誰? ワタシには姉がいないってば……。そもそもワタシは自分の胸に物足りないと感じてあまり満足ではないんだから、こんな絶賛はどう考えてもおかしいわよ! 別に大丈夫よ。まだ成長の途中だ! まったく、誰が貧乳よ? それだから男の子って……。
いや、男の子って誰のこと? 別に今ここに男なんていないんじゃないか? いるとすればワタシ自身の中の……。今はなんか自分自身と揉め事をしているような感じだ。馬鹿じゃないの? もう駄目だ。頭がおかしいわ。
いけないよね。ワタシと僕は、どっちも自分であるはずだ……と思う。だからちゃんと妥協しないとね。誰と妥協するのかって? なんかよくわからなくて馬鹿みたいだとは思っているけど。
その後ワタシはシャワーを浴びてセーラー服に着替えて、学校に行く準備を完了させたら家から出て通学路を歩く。
「へぇ!? もうこんな時間か!?」
スマホで今の時間を調べてみたらどうやら急がなければ遅刻になりそうな時間になっている。
朝のシャワーでは普段より時間がかかったようだ。別に毎日浴びている自分の体だから、どう浴びるかわからないわけがない。でもあの僕という記憶の所為でつい変なように意識してしまって、手が止まったり、変なところ触ったり……。
もう嫌だ! 何なの、この状況は!? 朝っぱらから散々だったわ!