07; ↘ 問い詰め ←
「お待たせしました。岩倉さん」
教室を出て、学校門前まで歩いてきたら、美少女……岩倉栄子はすでにボクを待っている。
「和倉惇未……? 来てくれてよかった……?」
「……」
なぜかボクの名前を呼んだ彼女の声はまるで自信がなくて、疑問形になっている? でも今のは彼女から意外と優しい言葉かも。確かにボクのことを警戒の目で見ているという態度は今もまだ変わらないけど、なんか敵対するほどの雰囲気はない。
「ところで、どこに行くのですか?」
「そうだよね。えーと、家……とか? 行ってもいい?」
「えっ?」
これもなんか急な展開だ。女の子の家に誘われたのか、このボクは? いや、違うかも。これはボクの家に行きたいという意味なのでは? 日本語の表現はなんか時々曖昧だ。主語がよく省略されているから。
「それって、岩倉さんはボクの家に……ってことですか?」
「まあ、そういうことになるね」
「そ、そうなんですか」
やっぱり彼女の家に誘っているわけではないか。いや、彼女がボクの家に行くのも同じくらいやばいじゃないの?
「少なくともワタシの家より、和倉惇未の家の方近いからね」
またフルネームか。それにやっぱりなんかおかしい。この言い方だとまるで彼女はボクの家がどこにあるかすでに知っているみたいじゃないか? 初対面だったらそんなはずがないのに。
「さあ、行こうか」
「は、はい」
彼女は先に歩き出した。行く先はボクの家なのに、なぜか彼女の方がリードしている。しかも方向は全然間違っていない。
「あの……ところでボクとの話って何のことでしょう?」
歩きながらボクの方から会話を始めた。
「さっきからなんで敬語なの?」
「え? あ、そうです……そうだね。ごめん」
だって、彼女はボクから見ると高嶺の花みたいな美少女だからね。まあ、実際に彼女の身長もボクより高いしね。だからつい身分の差を感じてしまう。天使みたいに高すぎるところの彼女の光はボクにとって眩しすぎるんだよ。だからボクなんか同等で話していいのか迷ってしまう。
でもよく考えてみると、彼女は普通のクラスメートだよね。本当の意味で天使や女神様であるはずがない。やっぱり敬語は変だからやめよう。
「で、ボクに何の話なの?」
まだちょっと緊張しているけど、ボクは普通に声出せた。
「あの……。あなたは……、本当にワタシのこと全然知らないの?」
「え? まあ、そもそもボクたちはどこかで会ったことがあるの? ボクは全然見覚えはないよ。ごめん」
こんな美少女と会ったことがあるなら、記憶から忘れるはずがないよ。だから『会ったことない』と断言できる。
「いや、多分会ったことはないはず……だと思う」
「は?」
会ったことがないのに、なんで知り合うというの? どういうこと?
「ワタシの名前、知っていないの?」
「さっきの自己紹介を聞いたから覚えているよ。岩倉栄子さんだね」
「つまりさっきの自己紹介で初めてこの名前を聞いたの?」
「うん」
「そんな……。それはそうだよね」
岩倉さんはなんか思い通りにならなくて失望したような顔になった。別にボクを責めているようには見えないけれど、なんか彼女の期待通りにできなくて悪い気がする。
「あの、さっき『ボクのことを知ってるのか』という質問は、なんで答えられないの?」
とりあえず、ボクも気になっていることを訊いてみよう。さっき彼女はこの質問に対してなんか戸惑ってただ『難しい質問』ってだけ答えた。意味はよくわからない。
「それは……。ワタシはあなたのこと……というより、和倉惇未という人のことをよく知っているけど、なんかちょっと違う」
「え? ボクが和倉惇未本人じゃないとでも言いたいの?」
「それは……まあ、端的に言えばそうかも。そういうことになるね。だから単刀直入に訊くよ。あなたは本当に本物の和倉惇未なのか?」
「そ、それは……」
なんでこんな質問? これは今のボクにとってまた難しい質問だ。なぜならボクの中に今もう一人の……私の記憶が混在しているから。
待って、それってつまり彼女もボクと同じ? それとも何かこれについて関係があるのでは?
「それともう一つ。今日あなたは一人で学校に来たの?」
「え? ボクが誰かと一緒にいると思うの?」
「それは……。あなたのお姉ちゃん……とか」
「おい……」
今『お姉ちゃん』って言った? なんで彼女はこんなこと……。
「ボクには姉がいない……よ?」
こんな答えは正しいのかな? ボクもあまり自信がない。私はボクの姉だと言えるどうかよくわからない。でも実際に今のボクは一緒に登校するような姉という存在がいない。
「は? そんなはずがない」
「なんで岩倉さんはそう思うの?」
「和倉惇未は家で三人暮らしじゃないの? お母さんとお姉ちゃんと」
「いや、ボクとお母さん2人だけ……」
「嘘だろ……」
やっぱり、彼女は何か知っているようだ。でもどんなことなのか、今のボクはまだすぐ理解できなかった。
「ね……」
彼女の足が止まって、じっとボクの顔を見つめている。
「ふん?」
「家の方向はあっちで、間違いないよね?」
「あ、うん」
今歩いていく方向は間違いなくボクの家に向かう帰り道だ。そしてなぜか彼女は本当によく知っている。そんなはずがないのに。
「あの家には、お姉ちゃんは本当にいないの?」
「あ、まあ……」
またお姉ちゃんに関する質問か? なぜ彼女は姉のことをこんなに気になるの?
「じゃ、どこにいるの? お姉ちゃん……。惇子お姉ちゃんは……」
「え? なんでその名前……」
今私の名前が出てきた。彼女の口から……。
「やっぱり、知ってるよね?」
「知ってるけど、岩倉さんこそなんで知ってるの?」
「そ、それは……」
どうやら彼女はボクの家の事情をよく知っている。でもこれは今のボクの家ではなく、私の記憶の中の家だ。なぜ知っている?
「岩倉さん、あなたは一体誰?」
何か引っかかっているような感じだけど、今自分で考えても答えが出てこない。なら単刀直入に訊くしかない。
「あなたこそ、誰なの?」
質問に対して同じ質問で返すなんて……。
「……」
ボクは今どう答えたらいいかわからなくなってきたから、沈黙することしかできない。
「もう何なんだよ!? あなたは一体、何者なの!?」
彼女は取り乱してきた。今の言葉は涙と共に出てきた。なんでいきなり泣いたの?
「……」
「なんでだ!? なぜあなたは僕なの? しかもどうしてお姉ちゃんがいなくなるの!?」
「え?」
今彼女は『僕』って言った。
まさか……。そんなことは……。
その瞬間ボクは……。いや、私は何となくわかってきた。彼女と出会ってからの出来事と違和感、それぞれ纏めてみれば一番説得力のある答えは……。やっとその答えに辿り着いた。
なるほど。そうか。そういうことか。彼女の正体は……。