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06; ↘ 擦れ違い ←

 生徒みんなの自己紹介が終わった後、次は担任先生から半時間くらいのホームルームが始まった。


 その後特に何もなく家へ帰りたいならすぐこの場を去ることもできるけど、クラスの生徒たちのほとんどは話し合い始めた。これは新しい友達作りの機会だからね。


 ボクも隣の友達と雑談を始めた。自慢じゃないけど、少なくとも自分はよくあるアニメ主人公のようなコミュ障や問題児なんかじゃないから、普通に友達と会話できて、普通に友達が作れるよ。これについてはどうやら特に問題ないようでよかった。


 だけど、その数分後……。


 「あの……和倉(わくら)惇未(あつみ)……だよね?」

 「……っ!」


 友達とお(しゃべ)りしている途中、ボクに向かってきて名前を呼んだのは他の誰でもなく、あの美少女……岩倉(いわくら)栄子(えいこ)だ。


 やっぱり彼女はボクに何か用がある!? ボクの名前もちゃんと覚えているようだし。彼女からボクに話しかけてくるとはちょっと意外だけど、これでいいかもしれないね。ボクも彼女のことで頭いっぱいになってずっともやもやしていたから。


 「は、はい。何の用でしょうか?」


 これはボクが彼女と初めて交わした言葉となった。緊張して敬語にしてしまったけど。


 「その……えーと……」


 彼女は何か言いたそうだけど、多少躊躇(ためら)っているようだ。こんな彼女の仕草(しぐさ)もボクは可愛いと感じてしまう。


 もしかして告白とか? いや、絶対にない。全然そんな感じてはないよね。しかもいっぱいクラスメートたちに見られているからさすがにね。


 その時ボクは自分に向かってくる殺気みたいなものの気配(けはい)を感じてしまった。今の殺気は彼女からではなく、さっきまでお(しゃべ)りしていた男友達からだ。


 彼は『おい、お前この美少女との知り合いなの? (ずる)いぞ。リア充爆発しろ』と言いたいような顔だ。べ、別にボクは彼女のこと知っているわけではないし。更にリア充でもなんでもないよ。


 「ワタシのことを……」


 やっと彼女の言葉の続きが来たけど、次の台詞(せりふ)まではちょっと間を取っている。何だよ、この迷っているような態度は?


 「……知っているの……かな?」

 「え?」


 この質問は、どういう意味? 意志がわからない。


 「あ、いいえ。ない……と思う……よ?」


 もちろん、ボクの答えは『否』だ。ボクは彼女と会ったことがないはずだ。大体彼女はこっちに引っ越ししてきたばかりだし。


 「本当に?」


 ボクの答えを疑ってあまり信じたくないようで、彼女はもう一度質問の答えを確認しようとした。


 「はい、そのはずだと思うけど……。あの、もしかして、ボクのこと知ってるの?」


 こっちからも質問したいよね。ボクは彼女のことを全然知らないけど、どうやら彼女の方はボクを知っているようだから、直球で訊いてみよう。


 「これは難しい質問だよね」

 「はい?」


 彼女の答えはなんか微妙だ。知っているかどうかって、答えにくいことなのか? 自分の記憶に自信がないと言うの?


 「いや、ここで話せるようなことではないよね」

 「……っ!」


 それってつまり人の前では言えないようなことなの? 一体何なの?


 「この後2人で、いいのかな?」

 「はい?」


 彼女とボク2人きりで話したいことがあるってこと? 何、この展開。


 もしこれがアニメだったら、きっとボクは厄介なことに巻き込まれてしまうに違いないだろう。これがラブコメだったら、それでいいかもしれないけど……、どうやらそうじゃなさそうだよね。少なくとも彼女の顔から見れば全然恋愛とかのことを考えているような雰囲気ではない。


 きっと何か思いがけない展開が待っている。やばいことになるかもしれない。本当に彼女と一緒に行っていいのか?


 「駄目(だめ)……かな?」


 彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をして可愛い声で言った。


 「いや、いいですよ」


 そしてもちろん、ボクはつい快諾しまった。『男の子って本当にこんな美少女に弱いね』や『このメス犬に(だま)されるなよ。ボク(・・)』という女の子の『()』からの文句の声も頭の中で響いているけど、ボク(・・)という男の子はそれを聞くほどの理性なんか残っていると思う? もちろん、全然……。ごめんなさい、……。


 「じゃ、15分後、学校門前でいい?」

 「は、はい……」


 どうやら2人きりで話し合うという流れになってしまったね。でも15分か……。少なくとも心の準備のための時間があるようでよかったかも。


 どこへ連れて行くつもり? 男女2人きりか……。いや、いけないこととか考えてしまう。別に嫌らしいことなんて何もないはずだ。とはいっても、自分がこんな美少女と2人きりになる……と想像してみるだけで緊張してしまうよね。


 「じゃ、ワタシはあなたを待っているからね」


 彼女はそう言い残した後、彼女は教室から出ていった。今の彼女の表情は何か期待に(あふ)れているような感じだ。別に『絶対に来て頂戴。来なければあなたの家まで追っていきますわよ』って雰囲気ではなく、『絶対来てください。あなたを待っていますからね』って言いそうな顔だ。やっぱりボクは行かなければならない気がする。


 でもその前に、今しばらく周りの友達から『彼女とはどういう関係?』や『本当に彼女に何もしていないの?』とかの質問ばかり迫ってきて、もう彼女が来る前から話していた話題はポイと放り捨ててしまったようだ。


 まずい空気になって、こうなったらもう悠長(ゆうちょう)に友達を話す場合ではなくなさそうだ。


 別に『美少女を(ひと)()めしたお前とは友達になりたくない』とか言われて、クラスの男友達全員から嫌われる……という、アニメみたいな展開にはならなかったけど、やっぱりボクに対する周りからの目は多少変になった。なんか今でもすでに十分アニメっぽいよね。


 これから先どういう展開がボクを待っているかはわからないけど、とにかく今彼女と何か話さない何も始まらないよね。ボクとどこかで会ったことがあるのか? 何の用なのか? いろいろ全然わからない。とりあえず彼女からはっきりと訊いてみないとね。


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