11; ⇐ 有耶無耶 ↗
朝起きたら女の子になっちゃった……ということになって、まだ事情をよく把握できていないままだけど、とりあえず今僕……いや、ワタシ?……は、学校に向かう。もう遅いから早く歩かないと遅刻してしまう。
それにもしかすると、今学校に行ったらこの状況について何とかわかるかもしれない。やはり今学校の他に行くべき場所なんてないはずだから。
男子高校生の和倉惇未でも、女子高校生の岩倉栄子でも、同じ学校に通う生徒なのだ。だからたとえワタシでも僕でも、やることは同じだよね。
でももし学校に行って、本当に僕に……ううん、和倉惇未っていう人物と鉢合わせしてしまったらどうしちゃう? なんか不安だ。でも今考えても仕方がないよね。
結局ワタシは時間ギリギリで学校に辿り着いた。名前を調べてみたら……どうやら同じクラスに『和倉惇未』という名前が載っている。
やっぱりちゃんと存在しているんだ。あれはもう一人の僕……? 僕じゃない和倉惇未なの? まったくわけがわからない。
不安を抱えたまま教室に入ったら、すでに自分の席に座っている彼の姿は、すぐワタシの視界に入った。
「マジか……」
あれは僕? この姿は間違いなく本当に僕の記憶の中の『自分』そのものだ。
「……っ!」
ワタシはつい彼(僕?)と目が合ってしまった。そしてあっちはすぐに目を逸した。
それって、もしかしてあっちもこっちの存在を意識している? やっぱり彼は何かわかっているよね?
すぐ彼に話しかけてみたいけど、席が遠すぎて今は無理だよね。もうすぐ担任先生が入って最初のホームルームが始まる時間だし。とりあえず、しばらくこのまま彼を監視していってみよう。
あの人また……、なんで目を逸らす!? 何度も何度も……。ワタシを無視しようとしているの?
ホームルームの時や入学式の時、ワタシはずっと彼を観察していたが、目が合ったら彼はすぐ何かまずいような顔をして、直ちにそっぽを向いてしまう。やっぱり何か怪しい。彼もこっちのことを知っているに違いない。
でも一体誰なの? いや……待って、もしかしてこれは……。
「入れ替わり……」
ワタシは今小さい声で思いついたことを口に出した。
もしワタシ……僕が和倉惇未だったら、きっとあっちは岩倉栄子だろう。つまり何かしらの原因で2人は入れ替わったんだな?
こんな突拍子もないことなんてそのはずが……。大体入れ替わりってどうやって? それに何のために? 全部あっちの仕業なのか? それともお互い被害者? そもそももしあっちは本当の岩倉栄子だとしたら、こんなことをしても何のメリットもないはずだよね。むしろ逆だよね。こんな美少女になるなんて僕にとって丸儲けだよ。
そもそも僕の体が欲しがったり、僕なんかになりたいと思ったりするなんて、そんな人がいるの? あんなのいるとしたら惇子お姉ちゃんくらいしか思いつかないよね。でも今回の件ってお姉ちゃんとは関係があるのか? そういえば今日お姉ちゃんの姿を見かけていない。一緒に来るはずなのになんで? まさかお姉ちゃんは何か……。いや、そんなことないよね。
とりあえずあっちの和倉惇未が加害者であるという可能性は確かに低いかもしれないけど、完全に関係ないとは言えないはずだから、まだ注意する必要があるよね。
そして自己紹介の時、やっと彼の番がやってきた。
「和倉惇未です……っ!」
やっぱり僕の名前だ。そして今ワタシと目が合ったら、彼はまた怯えたような顔になってそっぽを向いた。その後彼の自己紹介はなんかぎくしゃくして、まるで自分に関することに自信がないみたいな様子だ。何か後ろめたいことでもあるの? やけに気になる。
自己紹介が終わった後、またホームルームが始まってやっと終わった。これから自由時間になって、彼は部屋に残って、周りの友達とお喋りし始めた。
ワタシはしばらく彼の様子を見て、警戒しながらやっと彼に話すと決心した。
まだ不安だけど、話してみないと何も始まらない。だから今すぐ……。
「あの……和倉惇未……だよね?」
「……っ!」
ワタシが話しかけてみたら、彼は随分驚いたようだ。
「は、はい。何の用でしょうか?」
彼の声は何かビビっているように見える。どうして? 今怖がっているのはこっちも同じだよ。
「その……えーと……ワタシのことを……知っているの……かな?」
ちょっと躊躇って質問の言葉を紡ぐには時間がかかって不自然になってしまうけど、やっと言えた。
「え? あ、いいえ。ない……と思う……よ?」
知らないって? そんな……。嘘だろう? この人は岩倉栄子本人じゃないというの? でも今はただ誤魔化しているという可能性もあるよね。もう一度確認してみよう。
「本当に?」
「はい、そのはずだと思うけど……。あの、もしかして、ボクのこと知ってるの?」
今回は彼からの質問だ。でもこんな質問って、なんか……こっちも困るかも。
「これは難しい質問だよね」
「はい?」
今本当にどう答えたらいいかわからない。もちろん、僕は和倉惇未のことを知っている。でも彼は本当に和倉惇未なのか? たとえそうだとしても、ワタシ……岩倉栄子として彼と知り合ったわけではない。岩倉栄子はこっちに引っ越ししてきたばかりだから。
「いや、ここで話せるようなことではないよね。この後2人で、いいのかな?」
今はただ人に聞かれたくないだけかも。2人きりにならないと話してくれないかも。事情は結構複雑のようだから。
「はい?」
「駄目……かな?」
「いや、いいですよ」
この話が上手くいってよかった。この人の正体はまだわからなくて不安だけど、少なくともワタシとお話をする気はあるようだ。今回こそちゃんとお話をさせてもらう。
「じゃ、15分後、学校門前でいい?」
ありあえずまずは学校から出た方がいい。その後どこに行くかまだ決まっていないけど、できれば彼の家……いや、僕……つまり岩倉惇未の家に行ってみたい。
「は、はい……」
一応彼は話に乗ったようだけど、なんでこんなに緊張している様子なの? やっぱり絶対怪しい!
「じゃ、ワタシはあなたを待っているからね」
その後は約束通り、学校門前で会って、一緒に家へ歩くことになった。
そしてやっと、彼……ううん、彼女の正体はわかった。思っていたのと全然的外れだ。まさか中身は惇子お姉ちゃんだとはね。本当に不思議なことだ。最初はあまり信じたくないけれど、ちゃんと話してみたらやっぱりお姉ちゃんだ。どう見ても間違いない。
どうしてこうなってしまったのかまだよくわからないけど、お姉ちゃんと一緒ならこれだけで心強い。
いろいろあったけど、こうやって僕はお姉ちゃんと再会できたわけだ。




