サイコロな運命
あ、サイコロだ。
大きなサイコロを目の前にして私はそう思った。
「おめでとうございます、▉▉▉▉さん」
「……え?」
「あぁごめんなさい、名前は消去しておりました。おはようございます、名も無き探索者」
宙を舞う2つのサイコロの間にふわりと綺麗な女の人が降り立った。同性だと言うのにだらし無く鼻の下を伸ばしてしまう程綺麗な女の人。
女神……?
「はい、女神です」
ああそうか。女神様なら心読んでも仕方ないかー。
うん。
……。
「えっ、どういうこと????」
「はいその質問待ってました! それではこちらの紙芝居をご覧下さい」
ドーン、と女神は見てわかる様な紙芝居を取り出した。タイトルは『前世』。大変にわかりやすい限りである。
そうして女神はタイトルを捲った。
「──貴女は手違いで死にました!」
「驚く程に簡潔だった……!」
しかも1枚だけだったみたいで紙芝居は終わった。芝居要素どこ行った。
「ちょっと落雷を失敗してしまいまして。落雷失敗1%くらいしかないんですけどね」
「どういうこと????」
女神様はコホンと咳き込むとニッコリ笑顔を浮かべた。顔がいいことでゴリ押そうとしている気配を察知。
「そして貴女は転生するチャンスを手に入れたのです」
「お、おー……? いや待って死んだ記憶ないんですけど」
「そりゃスパンと、激しく。惨い感じに。その記憶を持ったままだと発狂不可避ですから、それは流石にめんどく……可哀想ですので、記憶、削除させていただきました」
「女神様、本音こぼれてるよ」
私も惨い死に方したのなら覚えてなくて嬉しいけどさ。全部の記憶を消さなくてもいいんじゃない? それともそういう細かい調節が効かないとか? あ、女神様頷いてる。そういうことなのですね。納得。
「地球の男神の操作ならともかく、別の世界の私が操作した落雷でしたから。うーん、まぁ、流石に『はい放置来世は長生きしてね』では済ませることが出来なくて」
ははーん。読めた。このガサツ女神様は私を元の世界じゃなくてこの女神の世界に転生させようとしているな……!
「話が早くて何よりです」
……美人の笑顔って便利だなぁ。
流されようとしている私の心がそう言った結論を出した。
「それではさっそくステータスを作りましょう!」
「わあ! ゲームみたい!」
「うーん、あながち間違いでもないですけど。ちゃんと現実ですからね」
女神は空中から3つのサイコロを取り出した。
「ダイス、と言います」
心読まれた。
はい、ダイスですね。サイコロとあまり意味が変わらない気がするけど。
「これは6面体のダイスです。それが3つあるので3D6」
女神は私にサイコ……ダイスを渡した。
3つのダイス(6面)で3D6か。簡単のような難しいような。ということはこれを振ると最小で3、最大で18が出るってことね。
「そしてこちらがステータス!」
女神は空中に空欄がある表を出した。
STR(筋力):
CON(体力):
POW(精神):
DEX(俊敏):
APP(外見):
SIZ(体格):
INT(知性):
EDU(教育):
LUK(幸運):
「これが基礎ステータス数値です。この数値を元に、HPやMPを計算するんですよ」
「MP!? 魔法が、あるんですか……?」
女神はニッコリ微笑んだ。ペロッ、これはあるの反応……!
「一応言っておきますが、これは3〜18、つまり能力値は15しか差が無いことになります。分かりやすく言えば体格ですが、全ての人間が15cmしか差が無いなんてこと、ないでしょう? 大まかな比較数値として見ておいてください。同じ数値であろうと誤差は生じます」
「それもそうですね」
私の来世の人生を決める大事なダイス。
私は3つのダイスを握りしめた。
「ダイスには強制力があります。ちなみに貴女が前に居た地球ではこう言う様です」
私は思いっきり3つのダイスをぶん投げた。
「ダイスの女神様の言うことは絶対☆」
「それ絶対なんか混ざってる!」
カラカラカラカラ。コロン。
カラカラン。カラカラカラカラ。
カラン。
……。全て振り終えて女神様を見たのに目を合わせてくれなかった。
「…………女神様よ」
「その結果は貴女の実力です」
「女神様再度チャンス」
「振り直しは認めません」
STR(筋力):8
CON(体力):13
POW(精神):15
DEX(俊敏):11
APP(外見):11
SIZ(体格):12
INT(知性):18
EDU(教育):6(3+3)
LUK(幸運):3
「体格と知性のダイスは必ず1つは6が出るようにしてますけど……まさかここまでとは……」
「神様、どこがやばいのかどこが凄いのか分からないけどLUK(幸運)が3しかないのは私でも分かります」
「EDU(教育)もですよ。+3は固定値ですから。実際貴女最小値引きましたね」
最小値が3で最大値が18なら平均値は10〜11になるはず。
STR(筋力)以外は平均を越しているし、EDU(知性)が最大値引けたということでこれは順風満帆! ……って思ってたのにまさかの2連続最低値。
「……固定値ってなんですか?」
「ボーナスですボーナス。状況下によるボーナス。貴女は前世の記憶はなくても知識はあるので固定値+3です。頑張って生きてくださいね」
「女神様これ成長しますか!?」
「貴女の知識で言う『レベル』は無いので、ぶっちゃけ低下することはあっても成長することは激しく稀……。いえなんでもないです」
「言い切っちゃいましたけど!?」
というか、最大値が18だからステータスの把握がしにくい。正直やばさが分からない。
「はいじゃあ項目ステータス行きましょうか」
「項目ステータス?」
「貴女の基礎ステータスを元に計算します。ハイドン!」
SAN(正気度):75
HP:13
MP:15
幸運:15
アイディア:90
知識:30
ダメージボーナス:0
スキルポイント:300
目の前に広がる私を示す数値にほえーとアホっぽい声を上げた。なるほど分からん。
「例えばアイディア。この90というのは成功値です」
「せいこうち」
「貴女は今日の晩御飯のメニューが思い浮かばない。とても困った。そんな時振るのがこのアイディアです!」
うーん。何となくわかる。
アイディアが欲しい時にアイディアを振るんだね。アイディアを振るって何。
「この後説明するポイントで得られるスキルも、基本的に1D100を振って、目標値……今回は90。ダイスの出目が90以外なら成功、91以上なら失敗になります」
1D100ということは、つまり1つのダイス(100面)ってことか。
私はアイディアを使うと90%の成功率を誇る……。えっ!? すごくない!? 90%は大分凄いと思うよ!?
「ええ、凄いですよ!(運が悪すぎて)」
「女神様今なんか副音声入った気がす」
「──気の所為です」
「……ちなみにダイスの出目って私のLUK(幸運)関係しますか?」
「あ、そこは関係しません。極論を言えば乱数なので。常にファンブルを出しまくるのであればそれは最早幸運とも言えます」
ホッと一安心する。こうなると項目ステータスの全ては知っておきたい。
ちらっと女神様を見上げた。
「もちろん。まずHP。無くなると死にます」
「なくなるとしにます」
「次にMP。無くなると意識を失います」
「なくなるといしきをうしないます」
簡潔かつ分かりやす過ぎてやばさが分からない。
「幸運、アイディア、知識は1D100で成功失敗を判断します。こちらの言葉の意味は説明不要ですね」
「はい」
幸運と知識がハチャメチャに低い運悪お馬鹿さんだと言うのはとても分かります。泣いた。
「ダメージボーナスは体格と筋力の優れた者の攻撃にプラスでダメージを与える物です。貴女には付いてないのでボーナス値は0です」
「ボーナス値が与えられるとどんな数値が付くんですか?」
「えーっと、最大で+3D6です」
……つまり最大18のダメージボーナスがプラスされるということは。HP13の私はすぐに死んじゃうってことなんじゃ。
正解ですって言いたげな笑顔はやめてください神様。
「では最後にSANです」
「待ってました1番の不穏要素」
「無くなるの廃人になります。以上です」
「なくなるとはいじん──ってちょっとまって説明がアバウトすぎます!」
女神様は微笑みまくっている。
「SAN(正気度)とは、精神状態です。鬱などの概念は知っているでしょう?」
「えーっ、じゃあ鬱で発狂して自殺する人って」
「SAN(正気度)0状態です。強く生きるためには1番必要な要素かもしれませんね。ちなみにこちらはHPと同じ様に、減り、回復し、そして増えます」
「増えるんだ」
「ただし一定数減ると発狂しちゃいますよ」
可愛い顔して言うことが物騒〜!
……なんだか、気味が悪い。全てが数字に支配される感じがする。もしかしたら前世も数字で管理されていたのかもしれないけど、可視化出来る状態の今はなんだか不安ではある。
そんな不安感に襲われる。
【SANチェック0/1D2】
……。
……おわ!?
「め、めめ、めがみさま」
「はい。そんな感じで恐怖を抱いたり精神に揺らぎが生じると、SAN値のダイスが強制的に始まります。この場合は成功で減少値0。失敗で減少値1か2ですね」
脳内でボイスが響いたと思ったら視界にダイスが現れた。触れない。
【0/1D2】=【成功した場合の減少値/失敗した場合の減少値】
なのね。
「これは、アイディアみたいに1D100を振って、出目が現在のSAN値より低かったら成功、高かったら失敗。みたいな感じ、ですか?」
「飲み込みが早くて何よりです! 流石INT(知性)最大値ですね!」
それ、関係あるのかなぁ……。
少なくとも精神的にダメージを与えられ続けると成功率が下がっていく一方ってことか。
「ダイスロールと言うとダイスは回りますよ」
「だっ、ダイスロール!」
クルクルとダイスが回転して、止まった時には25と出ていた。
「はい、成功です。減少値は0ですね」
これもしかしてめちゃくちゃ怖いんじゃないかな。死にやすくなるんじゃないだろうか。
そう考えてたら女神様はナチュラルに心を読んだ。
「前世と同じように生きている時と同じような減少値ですから。貴女は知らない内にこうやってダイスを振っていたと思えば気は楽でしょう」
ニッコニコと笑みを浮かべている。
うーん、まぁ、確かに。今何かを見過ごした様な気がするけど多分気の所為だといいな。
「それじゃあ基本の操作は分かったと思うので貴女のスキルを決めていきましょうか」
「スキル…!」
「貴女のステータスにスキルポイントがありますよね。あのポイントを使ってスキルを構成してください」
「おお……! 一気に異世界っぽい」
「すいませんね肉体の作成に時間がかかってしまって」
女神様はプンプンと頬を膨らませて本を取り出した。辞書みたいな分厚い本を。武器かな?
「スキル一覧です」
「多いィ!」
「見たらわかると思うんですけど、生活能力もスキルとして入っているので些細な事でも必要となりますよ」
開いたら目が回る程のスキル一覧。
流石にこれは1人じゃ無理だ。
助けて、ワンチャン僕の女神様!
「はい、いいですよ。職業から取得スキルを絞ることもできます」
「職業から?」
「今貴女のスキルポイントを統合しているんですけど、内訳としては職業スキルポイントと趣味スキルポイントがあるんです。貴女の場合職業は120で趣味は180ですね」
職業からスキル選択。楽そうかも。
「あ、でも貴女無職スタートですよ。血縁も何も無い転生です。大丈夫、向こうでの成人には年齢調節しておきますから!」
転生というより転移に近いね!?
いやでもまぁ、肉体も全て新しく作り替えるってことは転生なのかぁ。
つまり家族の居ない状態で職を探して……。
「女神様」
助けて。
「仕方ないですねぇ。私の世界の知識も持たない人間には無理難題でしたか」
やれやれと言いたげの仕草はぶん殴りたくなる。多分避けられるけど。
「まず、三種の神器を教えましょう」
「よっ! 女神様麗しい!」
「ズバリ。『目星』と『図書館』と『聞き耳』です!」
私はその3つを復唱する。なるほど全く必要そうに聞こえない。
「まず目星。めぼしい物を探したりする。隠れたものを見つけるためのスキルです」
「えーっと、具体性がよく分からない」
「例えば木の葉に隠れたきのこを探す際、目星のダイスに成功すれば見つけられます」
「……なるほど」
知らず知らずの内に生活の中で使っていたスキルってことか。
これは取らないと面倒なことになりそう。
「物分りのいい子は好きですよ。続いて図書館も、沢山ある文字の羅列の中から必要な情報を取得するためにあります。冒険者ギルドで自分に合った依頼を見つけることに使うと思いますよ」
絶対いるね。
それにしても冒険者ギルドかぁ。夢にまで多分見た異世界のワードトップ3に入る言葉だね。多分。これは確実に取っておかないと。
「最後の聞き耳ですが、背後からの獣の襲撃音。それと毒や悪臭などの鼻。それらによく使われます」
「え、耳なのに匂いも?」
「最初の頃は分けてたんですけど、セットバリューでお得になりました」
顔面でごり押されてるけど多分そんな理由じゃないと思う。私は納得して終わった。
「ポイントの振り方ですが、初期値にプラスする形になります」
「へぇ、じゃあ予めポイントがあるスキルがあるんだ」
「分かりやすいのが『回避』ですね。DEX(敏捷)の2倍の数字が初期値となります。貴女なら初期値成功率は22%です」
ということはポイント結構消費しちゃうな……。
うーん、しっかり考えないと。
「振り分けのポイントの目安はありますか女神様」
「はい、ありますよ」
女神様は丁寧に教えてくれた。
01〜29%……知らないも同然。もしくは苦手分野。
30〜39%……かじった程度の素人。
40〜59%……一般人の限界。仕事に出来る。
60〜79%……専門家。天才。
80以上……達人。国宝級。
ということは50目安で行けばいいってわけだ。
「スキルポイントって増えますか?」
「殆ど増えることはありません。ただ、スキルは成長出来ます」
「ほう!」
「成功方法は2つ。1つは初期値成功、もう1つはクリティカルです。まぁ、転生者限定のルールですけどね」
クリティカル? そういえばファンブルとかも言ってたけど。えー。うーん。なんだろう。何か閃きそうな……。
【アイディア(90)】
「うぉあ!? びっくりした……。脳内に声を響かせるのびっくりするからやめて欲しい……。ダイスロール」
【1D100→15 成功】
分かった! ダイスの出目に影響するんだね!
「はい、正解です。1D100を振った出目でボーナスが与えられる1〜5。こちらがクリティカル。そしてファンブルはペナルティが発生します。数値は96〜100ですね」
「ペナルティ……」
「そう怯えずとも。覗き見しようとしたらファンブルして脚立から滑り落ちて怪我するみたいな。そんな感じです」
あんまりにも不名誉。
あとダイスロールってSAN以外強制力は無さそう。SANはたったかダイスロールしろよって感じで文字点滅してたけど、他は徐々に薄くなっていく感じ。
「そういうことです。理解したようなので早速スキル振り分け作業に移って下さいね。職業推奨スキルは別冊子に置いておきます」
うーん。職種といえど異世界事情。
どこに重きを置かれているかも分からない。前世では先生とも呼ばれる高給取りの医者も、異世界では血が不浄であり蔑まれていたら。なーんて色々考えてしまう。
信用も何も無い無職スタートだからなぁ。
……それに、やっぱり異世界っぽくてワクワクするし。
私はポイントを色々と振り分けていった。
「よし、出来た!」
基礎ステータス
STR(筋力):8
CON(体力):13
POW(精神):15
DEX(俊敏):11
APP(外見):11
SIZ(体格):12
INT(知性):18
EDU(教育):6
LUK(幸運):3
項目ステータス
SAN(正気度):75
HP:13
MP:15
幸運:15
アイディア:90
知識:30
ダメージボーナス:0
スキルポイント:0
習得スキル
《戦闘スキル》
回避(22→42) ナイフ(25→45) 解体(20→40)
《探索スキル》
応急手当(30→50) 聞き耳(25→55) 図書館(25→55) 目星(25→75)
《交渉スキル》
言いくるめ(5→45) 信用(15→55) 説得(15→45)
「……随分面白味のな、コホン。無難な所を選びましたね」
「命かかってるのにふざけられないでしょ!?」
ポイントが少ない……!
職業冒険者、を選択して色々組み合わせてみた。思っていたより振り分けれなかったから、成長に賭けるしかない。これで大丈夫かなぁ……。目星を高めに取ったから採取系の冒険者としてはひとまず生きられると思ったんだけど。
あとスキル一覧に魔法が無かった。なんで。
魔法用に取っていたスキルポイントはナイフ項目にぶち込んだ。接近戦用。
こぶしってスキルがあったんだけど、そっちは初期値が50あったから取らないままにした。
どういう計算方法で初期値が出されるのか分からないし、スキルがまだどれだけあるのか知らないけど、何かしらの行動起こす度に声が聞こえて来るなら多分大丈夫。
「そうですね……。貴女には特別スキルをプレゼントしましょう」
「え?」
「お詫びも兼ねて。特別スキル『管理人』。これは貴女がダイスロールやスキルで分からないことを脳内で答えてくれる存在です」
「ほえー。あのスキルボイスさん、会話出来る様になるの?」
「はい」
女神様はニッコリ微笑んだ。
終始笑顔だな。多分APP(外見)20以上ある。
「……さぁ、時間です探索者。どうか私の世界を楽しんでください」
「え、分からないこと沢山あるのに」
「詰め込みましたから覚えてないことも多いでしょう。だけどまぁ、大丈夫。ようこそ──新しい世界へ」
真っ白の空間が薄れていく。
綺麗な女神様はずっと微笑んだままだった。
あらすじにも書き、そしてご覧の通りクトゥルフ神話TRPGを基に(ハウスルールありで)この小説を作っています。クトゥルフを知らない人でも楽しく分かる様に書いていきたいと思いますが、何分私もクトゥルフ知識ありなのでクトゥルフ知らない方が居れば気軽に感想で聞いてください。本編で解説したり色々します。
基本リアルダイスの結果反映です。