5第五王子
あの子と言われる最終試験を前に応接室のテーブルに並べられた食事達。
「あの……昼食代ですけど……」
どう見てもランチメニューの最上位2万リンの食事に見えた。
咲きほど私のお小遣いは2万リンだと話していたのに、この食事はないと思う。
「あの子に見事男山だと思わせてこの最終試験に受かれば、今用意している昼食は私からの奢りにしますね。頑張って下さいね。ルーク」
『奢り』
今の私にはなんて甘美な言葉なのだろうか?
お金が全てとは言わないけれども、今現在お金がない為に明日食べるのにも困っている私としては『奢り』と言う言葉はどんな美辞麗句よりも輝いて聞こえた。
人とは良く生まれた環境や育った環境で変わると言うが、今まさにそんな環境が私を変えていた。
「頑張ります。王妃様」
何せ、昨日1ヶ月分の家賃を払った私は、今現在1万リンしか手持ちがない。
一食浮くと言うと事が、即ち死活問題に発展する程の事件なのだ。
「それと、合格したら後宮での支払いは月末までツケにして翌月払いにしてあげるわ。騎士団の禄が出たら支払ってちょうだいね」
師匠には『ツケで飲み食いはするな』と厳しく教わって来たが、背に腹は変えられないのだ。
『ご免なさい師匠。ルクスは空腹とお金と言う言葉に負けて師匠の言い付けを破ります』
ひもじさの前では師匠の恐さも薄れてしまう。
「あっ、ありがとうございます」
そうして渡し場思いっきり頭を下げていた。
別に支払わない訳ではないのだ。
お金に余裕が持てる数ヶ月だけツケにして貰うだけ。
きっと師匠なら理由を知れば許してくれるはず。
それに、基本的に妾は買い物に王宮の外へ出れない。
何故なら妾は人質の為に後宮に入ったのだならここの敷地から出れないからだ。
故に、何か必要な物が出来たなら侍女に頼むか商人を呼びつけるのが習わし。
しかし、商人を呼びつけるとなると品物もそれなりにお高い。
故に、貧乏な私には到底出来ない技だ。
つまり、1ヶ月をあのお高いメニューで過ごさないといけない私には神の声に聞こえるから凄い。
それに、
「もし上手く出来たらルークとして外出も許可しますよ。但し、私の信用の置ける共は必ず付けること。逃げたらどうなるかは分かっていますよね」
共……つまり見張り役だね。
「勿論です」
だって、人質なんだから私が逃げたら実家に謀反ありってなっちゃうじゃん。
そして、10分程待った頃に扉をノックする音が響いた。
メリーが扉を開くと水色の髪の少年が現れる。
「母上、お呼びとお聞きしました」
そう言ってお辞儀をする少年。
『母上』と言う事は王子様か?
確か、王子と言われる方は王妃様がお産みになった第一王子と第三王子、第一夫人と言われる側妃様がお産みになった第二王子と第二夫人がお産みになった第四王子。
後は、今は亡き第三夫人がお産みになった第五王子だ。
噂では第五王子はこの国では珍しい水色の髪をしていたと言うのだから、彼が第五王子のアルフィー様なのだろう。
確か、第三夫人亡き後の第五王子の後見人は王妃様になっていたはず。
と、言うのも第三夫人は王妃様の侍女だった方で天涯孤独だったと聞いている。
王妃様ともとても仲が良かったのに、まさか自分の旦那を寝とるとか……。
第五王子は見た目がとても整っており、無表情のせいかまるで人形のようでもあった。
緊張しているのかしら?
一応王妃様は後見人ではあるけど、その実、自分は母親にとったら主人の旦那を寝取った象徴でもあるんだからさぁ。
通された第五王子はテーブルに並べられた食事を見て「昼食のお招きでしたのに、遅れて申し訳ございません」と王妃様に謝罪する。
俯いたその姿が人間染みていない所が恐ろしい。
でもね。
決して貴方が悪い訳ではないのよ。
だって、昼食の時間にはまだ一時間程の余裕もあるのだから、まさか昼食が既に準備してあると思う人もいないと思う。
それに、侍女が呼び出しに行って10分位で来たんだから、直ぐに対応したのも分かるよ。
「大丈夫よ。それより料理が冷めちゃうから食べながらお話しましょうか」
私の杞憂を他所に王妃様はそう言って私は遅めの朝食を、王妃様と第五王子は早めの昼食を食べる事になったのだった。
大丈夫。
私、食べるのだけは豪快だと言われていたんだから、きっと令嬢だなんて気付かれないわ。
ニコリと微笑むと私はフォークとナイフを持ち戦闘態勢に入ったのだった。
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