メイリの魔力
一体何が起こったのか謎だが、とりあえず生きている。
このベールみたいなものはなんだろう?
少し触ると生温かく、色が赤。まるで血のような液体。
なんだか不思議だな~、と見惚れていると、
「おねえたん。だふぃじょうぶですか?」
赤髪赤眼のメイリが聞いてきた。
あれ? メイリって赤髪だっけ? 茶髪で金色の目だった気が……。
私がおかしくなっただけ、なのかな~?
そう思っていると、
「わたしのまりょくは、けつえきそうさといってけつえきをじざいにあやつることができるんです」
メイリが歩み寄り、説明してくれた。
「ただそのさいに、かみとめのいろがかわっちゃんです」
ほ~、そういうことか。
だから、色が変わるんだ~。
のほほんとそんなことを考えていたが、まずメイリに言わなくてはいけない言葉があるではないか! と気づいた。
「メイリ、助けてくれてありがとう。あなたは私の英雄よ!」
そう言ってメイリをギュゥウと抱きしめた。
しばらく抱きしめてメイリは嫌がるかなと思ったが、嫌がらない。言葉を話さない。
もしや、窒息死寸前とか。
それはいけない、急いで腕を離すと、メイリは泣いていた。
「メイリ、どうしたの?」
私の握力が強すぎて泣いちゃったとか。驚いて泣いちゃったとか。
「ごめんなさい!」
私のせいでごめんなさい。
思いっきり謝ると、メイリは困ったような顔をしていた。
涙を少し拭い、メイリはひくつきながら話し始めた。
「うっ……うれしくて……。だれかにっ……、そんなふうにいわれるのは……」
「そうだったの……」
なんだかメイリが今まで辛い思いをしてきたのではないかと、不安になってきた。
だけどメイリは、これからたくさん愛されると思う。幸せになれると思う。
だからここで死なせたくない。
そのために私は、デイビット・ジャスティとディン・アクナーを倒す。
そのころ、ベールの外側では……
「一体どうなっているっ!」
ディン・アクナーは、焦りや恐怖が入り混じった顔をしていた。
(血液結界っ……、初代吸血鬼王のヴェルドエド様の技、なぜあのような子供にっ……)
混乱している頭の中で、今出来ることをフル回転で、探っていく。
そして、導き出された現状を打破出来る一つの可能性。
「とりあえず、子供とローブの女を殺すぞ」
珍しく本気になったディン・アクナーは、おぞましいほど、迫力があった。
「ねぇ、メイリ。このベールみたいなものを一回だけ消してくれないかな?」
「えっ!そんなことをしたらしんじゃいますよ!」
「お願い」
少しメイリは考える素振りを見せると、覚悟を決めたようで、
「一回だけです」
凛々しい顔で言った。
「うん」
その言葉に返しながらも、グッと力を入れる。
パワァンッ
ベールが完全に消えた。
それと同時に、冷たく光る剣が首筋近くに当たった。
「お前は何者だ」
視線で射殺さんとするディン・アクナーは、いつの間にか正面に立っている。
ここで素直に答えるべきか、それとも……。
「私のローブの下に、小さな袋があります。それを取ってください」
「それはなぜだ」
「答え」
私の答えに疑問を持ちながらも、ローブの中に手を入れていく。
そしてディン・アクナーが取り出したのは、金の糸で刺繡された赤い巾着袋。
「これがなんだと言うのだ?」
そう言うディン・アクナーの顔は険しい。
私が袋を指しながら、
「中に入っているもの」
と答えると、もっと険しい顔になった。
そんな顔しなくても……。
少ししょんぼりしていると、ディン・アクナーはこちらに警戒しながらも中身を見てくれた。
ありがとう、ディン・アクナー。君とは絶対、仲良くなれる!
そんなテンション高めの私をよそ目に、巾着袋の中身を見たディン・アクナーは固まった。
(これはっ!)
美しく輝くのは、紅き玉。不思議にも神々しさを感じる、魔力。息を吞むほどの繊細な細工。
それは……。
(初代吸血鬼王様がお造りになられた、血紅龍の玉っ! なぜこのような者が!)
まぁ、ディン・アクナーが驚くのも当然だろう。なぜなら私は、単なる人間。人と吸血鬼は長い間敵対してきたのだから。
それとちなみにだが、メイリの血液リンクにより、相手の心を絶賛読み中だ。
さて、そろそろてんぱってきているし、答えるとするか。
「ふぅ~」と息を吸うと、ディン・アクナーに向かい合い、私の知っている事実を話した。