痛みは苦しそうと共に
一纏めに束ねた長いヴェーブの髪を、ユラユラ揺らしながら近づいて来る美少女……ネフェヴィー・バイロは、男の子にここを去るよう言うと、私の前に止まり話しかけてきた。
「少し、いいかしら。外であなたをしばきたいのだけど」
申し訳なさそうに言う顔と言葉が、合っていない。
ここで、「お断りします」と言ったらどれだけいいか。凄まじい圧をかけられ、小心者な私には無理な話だ。
「はい、わかりました」
王立学園のいじめっ子みたいなネフェヴィーに仮面の中で、ひきつった笑顔を見せた。
外はまだ、太陽が出ていて暑い。
ネフェヴィーは、上品に手を重ねてこちらを見ている。
なんでこんな気まずい状況に……。お願いします、なんか言ってください。
その思いが通じたのか、ネフェヴィーが口を開いた。
「今回の犯人はデイビット・ジャスティです。数々の村を襲い、人、家畜もれなく襲った凶悪犯。一度、バイジェン・インダル刑務所に送られていましたが、脱走。サクスター街に住み着き、今回の件になります」
ネフェヴィーは一呼吸すると、こう続けた。
「なので、今回のことは忘れて立ち去って下さい」
しばし、長い沈黙があった。その長い沈黙を破ったのは、私の方だった。
「あ、それは別によくないないんだけど、デイビット・ジャスティ、殴れる人いる?」
私のこの状況でするべきこと。
それは、話をそらし、煽り立て、もっとデイビット・ジャスティの情報を聞き出すこと。
我ながらいい策だぜ。
きっと交換音が入っていたら、キランだな。
そう思ったとき、ネフェヴィーの異変に気づいた。
どうしてそんなに苦しそうなの……。
「そうですか……。なら仕方ないですね。やりたくは無かったのですが……。ごめんなさい」
そう言ったネフェヴィーの手には、キラリと光るフルーツナイフがあった。
なんかこっちに向かって来ている気がする。
「ああああああああ~~~~~~~ぁぁぁ」
ネフェヴィーがナイフを振り上げた。
その時私は、全く反応出来なかった。
「どうして……、どうしてなの、傷つくのはあなたなのよ……」
だんだん頭がボーっとして来てそこからは、覚えていない。
ここ、どこ。
寝起きのように目を開けると、そこには大柄な男……デイビット・ジャスティらしき人がいた。
体を少し動かすと、腹が痛い。
ネフェヴィーに刺されたところだろうか。
「うっ……」
思わず声を出してしまった。
なのに、反応がない。どういうことなのか、まさかデイビット・ジャスティは音が聞こえないのだろうか。
このことをフルに活かせる方法。それは……
「だれか~~~、いますか~~」
大声で叫んだ。
すると、落ち着いた声が返ってきた。
「静かにして下さい」
その声は、ネフェヴィーの声だった。
だけど、どこにいるか分からない。
「少し、話を聞いていてください」
もちろんいいんだけど、なんかネフェヴィー、疲れている? 大丈夫かな?
そうしている間にネフェヴィーは話かける。
「まずはくだらない話、私は十五歳の時にサクスター街へ来ました。いえ、正確には連れて来られたという方が正しいでしょう。始めて来た街に私は、分からないことばかり。残されていたお金はすぐに底をつきました。街の人は、刃物を持って歩く人にガラの悪い男たち、そんな人たちばかりだった。怯えながら過ごす私の心はボロボロで、生きる意味が分からない、そんな時がありました。
ある日、死に場所を探して彷徨った私は、ボロ屋敷、昔栄えていた時にダリア医院と呼ばれる屋敷を発見しました。その中には、赤髪にくすんだ綺麗な目を持ったファインドがいました。
彼も同じで、突然連れて来られたと、そう話していました。なんだか同士が出来たみたいで、嬉しかった。
でも、彼には生きる意味があった。私とは違った。その時私はなぜかガッカリしたけど、今では、だからかもしれない、そう思うようになっていた。彼と話す度に高まる胸も、毎日が楽しいと思うのも、一緒に助けた子たちがファインドを見て頬を赤く染めるのが嫌と感じるのも。
全部、ファインドのおかげでした。
だから、私は、自分を汚さないといけないのです。本当にごめんなさい」
ネフェヴィーの言っている意味は全く分からないが、凄く辛い現状にいるというのは分かった。
でも、今私が出来ることは、ない。
というわけで、寝よう。
う~ん。よく寝た。もう朝かな~?
立ち上がろうとしたとき、
「ぐぅぅ~ぅ」
お腹が鳴った。
「どっか、ご飯ないかな~」
私がご飯を探そうとしたとき、気づいた。
私の体、全然動かない。
う~ん。なんでだろう。毒でも盛られたかな。いや、この感じだとスプレー系の毒、というか目も開けられないって、地味に辛いんだけどな~。
仕方ないからもう一度寝よう、そう思ったときだった。
「あの~、だひどうぶでふかぁ」
なんでここにメイリが……。