犯人はボコしましょう
あの後、泣き疲れたメイリは夢の中へ旅立ち、私は眠っている子供たちの看病をしていた。
一番最初に目覚めたのは、ボロ屋敷最年長ファインド君。
朱色に近い赤の髪に少しくすんだ青い目。王都を歩いていたら、すぐに声を掛けられるような容姿のカッコイイお兄さんだ。
出血量は少ないが、頭を強く打ったため、おそらく体調は悪いのだろうが、一体何があったのか教えてもらうことにした。
「突然、大柄な男が現れてみんなを殴り飛ばしていったんだ。『例のものはあるか』って僕に聞いて来たんだけど、まったく意味が分からなくて。『そんなものはない』って答えたら『じゃあ、もう用はない』って言って恐らく殴り飛ばされた。そこからの記憶はないんだ」
「そう……ありがとう。教えてくれて」
「こちらこそ、看病してくれてありがとう。ところで君は何歳なの? 声を聞いたかんじ、まだ若い気がするけど」
「えっと……十七歳です」
「えっ! 僕と同じ年なの! ごめんね、無理させちゃって。だいぶ体調良くなってきたから手伝うよ」
こうして看病をする人数が増えたことにより、だいぶ楽に看病が出来た。
起きてきた子供たちが半分を超えてきたころ、私は、起きてきた子供たち用に温かいスープを作ろうと思い、ボロ屋敷の厨房に立っていた。
「ふぅ~、良かった」
火は弱いが、ちゃんとつくようだ。
トランクに入っている、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、ペロット(シザクと言う花の花粉を集め、水と混ぜた赤い麺のようなもの)を取り出した。
今日作るのは、塩味風ペロットスープだ。
栄養も考え、サンダーバードの肉も入れよう。
塩味風ペロットスープは、ビリビリ、ゴロゴロ、鳴りながら完成した。
途中、様子を見に来たファインド君は「わぁ~、すごい綺麗だね~」と言いながら、青白い稲妻を見ていた。
さっそく作ったペロットスープをファインド君に手伝ってもらって、子供たちのいる部屋に持っていくと、
「おなかすいた~」
「はやくごはん、たべたいよ~ぅ」
と言う声が聞こえた。
私はそんな光景に少し微笑みながら、
「みんな~、ご飯が出来たよ~」
大きな声で言った。
一人ずつ、お皿を配ってペロットスープを入れていく。
ファインド君と交代しながら、看病とペロットスープ配りをやっていく。
そう言えば、メイリは大丈夫だろうか。
まだ、寝ているかもしれないが、ちゃんと残しといておこう。
そんなことを考えていると、
「あの~ぉ、おなかがせきまちぇた」
ひょこっと現れたメイリは、ペロットスープを見て、お腹を「ぐぅ~」と鳴らせた。
「はい、どうぞ」
ところどころ欠けているお椀にペロットスープを入れ、メイリに渡す。
「ありなとうごれいます」
礼儀正しく感謝をするメイリを見て、この子は強いな~と、思った。
私もお腹がすいてきたので、メイリといっしょにペロットスープを食べることにした。
パクパク、もぐもぐ、ちゅるちゅる、ゴックン。
ペロットスープがもうそろそろ無くなるというときに、そっとメイリに話かけた。
「ねえメイリ? ここのみんなは好き?」
「はい! すきねす!」
「じゃあ、ここのみんなを傷つけた人のこと、どう思う?」
「そ、そえは……ゆるせないでふ」
少し戸惑いながら答えた。
よし、決まりだ。
ボロ屋敷に殴りこんだ奴をボコそう。
こうして、サクスター街でやることが増えた私だが、ボコす際に、一つの深刻な問題がある。
それは……
私、人をボコすほどの力、ないんだよね。
とういうか、犯人どこにいるんだろう。全くもって分からないや。
悩んでも、今は答え生まれないな、と気づいた私は食器を回収し始めた。
たくさんのお皿を両手に抱えて、厨房に行こうとしたとき、ふと、誰かがローブを引っ張った。
仮面の中から、引っ張った方に目を向けると、メイリと同じくらいの年の男の子がいた。
その子は、少し怯えながら、私に、話しかけてきた。
「ねぇ、くろマントさんはまりょくつかえるの?」
「ええ、使えるよ」
「どんな、まりょく、つかえるの?」
「ウフフ、それはね……」
私は、小さくしゃがみ込み男の子の耳に小さな声で、
「変わった魔力を使うんだ。でも、普段は使えないというか、使ってもあんま意味が無いんだ」
私は、サッと立つと、
「このことは秘密ね」
自分の口辺りに手を当て、男の子に目線を向ける。
黙って首を動かした男の子を見て、そう言えばここに住んでいる子供たちは魔力を使えるのだろうかと、思った。
全は急げ、さっそく聞いて見よう。
「ねぇ君は魔力、使えるの?」
「ぼくはつかえないけど、ファインドおにいちゃんや、ネフェヴィーねえちゃんはつかえるよ」
「ネフェヴィー?」
新人物。
「ほら、シザクのはなのようなあかいかみのおねえちゃん!」
そう言って男の子が指さす方に目を向けると、眼光の鋭いポニーテールをした美少女がこちらを見つめていた。