初めましてサクスター街の皆さん
身に優しく包み込むようなベットで眠ること十一時間。
空はまだ明るいが、ウィナンシェと呼ばれる雪が降る季節のときは、とっくに日が暮れている時間帯。
そんな時間帯に私は朝食を食べている。
う~ん。このパンおいし~。シャキシャキの野菜たちもいいハーモニーを奏でている~。ホワイトシチューもコクがあって最高!
今度、リルにわけてあげよう。
ピンクブロンドの親友を脳裏に浮かび上がらせた私はまた、ホワイトシチューに手を伸ばした。
シチューに入っていた、人参を口の中に入れると、ペダンの説教地獄から唯一逃げ出せる黄金の宝石を盗むと言う、ミッションについて考えた。
レナント王国については調べ終わったんだよな~。だったら、次は……
サクスター街に行ってみよう!
ということになって、大量の薬と食料をトランクに入れ、
「いざ、出発!」
した。
サクスター街に行くためには、馬車が一番効率的だ。
しかし、わざわざ治安の悪いところに行きたがる人はいないため、歩いていこうかと思ったが、それだと赤月の日に間に合わない。
仕方ないので、馬を借りてサクスター街へ向かうことにした。
馬にトコトコ揺られること三時間。
サクスター街の近くには、青々とした木々が生い茂っていた。
先ほども言ったが、サクスター街は治安が悪い。
馬に乗馬した状態で街に入ると、身ぐるみ剥がされて人身売買オークションに直行だ。
……と資料に書いていた。
四度目でしつこいと思うが、とにかく治安が悪い!
入る際も出る際も、検問がやたら長い。
普通、二分か三分で終わるのに、ここの検問は丸三日かかる。
それだと、六日後までに盗まなきゃいけないミッションが失敗に終わる。そして待っているのは、説教地獄……。超絶いやだ。
そんなことにならないためにも、馬は木々に繋いで待機だ。
しばしの我慢だ馬よ。必ず帰ってくる。
馬に向かって、大きく手を振った私はガヤガヤ騒がしい街にこっそり侵入したのであった。
街に入って感じたのは、強烈な異臭だった。
ある程度予想はしてたが、やはりきつい。
ボロボロな建物を見渡して、大きく深呼吸をすると……
あれ? 私、なんのために来たんだっけ? と、今さらながら疑問に思った。
なんで来たのかわからないので、テキトーにプラプラ歩くことにした私は、昔花屋さんだったであろう、建物の屋根に乗っかり、辺りを見渡した。
ほぉ~。
サクスター街の外側は、全然人がいないと思ったが、中心部……あかりが見える場所はお祭り騒ぎじゃないか。
とりあえず、中心部に行って見よう!
屋根から降りると、さっそく中心部に向かった。
~歩くこと十分~
相変わらず異臭はすごいが、それにしても……なんかここ、迷路みたいだな。
道は、いたるところで曲がり道があるし。私、はじめて八つもわかれている道、見つけたぞ。
そんなことを考えながら歩くと、
「あっ!」
思わず、声を上げた。
ゴミが集められているところに、サクスター街・初のホモサピエンスを発見した。……子供だけど。
私はつい、嬉しくなって薄汚れた服を着た、小さな女の子に話しかけた。
「ねぇ、君。どこから来たの?」
「あやしいかっこうをしたひとに、わざわざゆはないでちゅ。じゃ、なかった……わざわざゆわないだす」
微妙に言葉を間違っている女の子の手には、果実? らしきものが握られている。
なんだか、とても、生活が気になる。
とういうことで。
小さな女の子……メイリが普段住んでいるという場所に案内してくれた。
ちなみに、「大丈夫。私は何もひどいことはしないから」と言ったら、意外にも信じてくれた。
なんか騙されやすそうで、少し心配になって来た。
木で出来た一階建てのボロ屋敷にメイリは足を止めると、
「ここでず」
私のローブを引っ張り、そう言った。
「入ってもいい?」
「いいれふよ!」
メイリに許可を取ったのでさっそく中に入ると、
そこには血だらけの子供たちがいた。
私は少し、呆然としたがすぐに子供たちに駆け寄り、
「意識はある? はいかいいえで答えて。もし、それが出来なかったら、首を少し動かして」
と、声を掛けた。
でも。
あぁ、あの子も、この子も意識がない。
私はトランクに入ってる薬を取り出し、一人一人に適切な薬を飲ませた。
残念ながら、こと切れていた子もいたが、その他の子は、安静に寝ている。
ふぅ~。人欄だく落ち着いたところで、はっと振り返った。
そこには、座り込んだメイリがいた。
急いで駆け寄ると、
「あのっ……みんな、たちゅか……ったんでず、よね……」
大粒の涙を流しながら、聞いてきた。
すがるように、暗示のように。
ここで事実を言うか、嘘を言うべきか迷った。
だけど、覚悟を決めて口を開いた。
「だいたいは助かったけど……すでに亡くなっていた子もいたよ……」
メイリ、ごめんね。ここまで案内してくれたのに。
私はきっと、あなたを傷つけたよね。そして、助られなかった。
本当にごめんね。
メイリから、罵倒される覚悟で話した。
だけどメイリは、
「やっぱり、そ、ぅでじたがぁ……」
大泣きするほどつらいのに、罵倒はしなかった。
だから私は、「ごめんね」を何度も繰り返しながら、小さな背中を優しくさすった。