不運はなんで起きるのだろう
大人の女性が全身隠れるほどの真っ黒なローブに、木で出来た白と水色の狐のお面。
唯一、ローブから見えている手には、白い手袋がはめられている。
そんな人が大陸最強の王国、それも王都を歩いていたらどうなるか。
A,変な目で見られる、または騎士団に通報される、この二択に限る。
五歳ぐらいの男の子まで私を指さして、「へんなひとー」と言っている。中身は、変じゃないけどね。うん。
そこんとこ、勘違いしないでよ、僕?
でもね、恰好はものすごーく変なことは自覚ある。道行く人たちが、「なんだこいつ」って言う目で見ているのもわかる。騎士団のおじさんが、こっちに向かって来ているのもわかる。ついでに、取り調べが長いということもわかる。
そして、私の心が「取り調べ受けたくな~~い!」と叫んでいるのもわかっている。
と言うわけで。
私は、目立たないようにように、オシャレな石畳の建物……の裏道へ向かってダッシュした。じろじろ見られるのはごめんだ。
いや、はなっからこんな恰好しなければいい話なんだけど……
六分ぐらい、走っただろうか。
息切れがしてきた割に、私はまだ、裏道に着いていない。
平日の昼間だが、人通りはそこそこ多い。
太陽がギラギラひかり、走るたびに体力が削る。もしかしたら、誰かが魔力を使っているのかもしれない。
うっ、ヤバい。もう、追いついて来ている。
走る速度を上げようとしたとき、
「ちょっとそこの君、いいかい」
騎士団のおじさんが、私に話しかけてきた。
私は、ダッシュしていた足を止め、くるりと右に振り向いた。
なんでこの日に限って騎士団長が、追いかけてくるのだろう。
「住民から通報があった。黒いローブを羽織った不審者がいると。君はどうしてそんな恰好をしているか、教えてくれないか」
気絶させるか、言おうか、迷った。しかし、気絶させるとあとあと問題が起きると考え、素直に答えた。
「私、日に焼けるの、いやなんです!」
「そんな理由っ」
さすが、騎士団のおじさん。即座の鋭いツッコミ、心に響いた。このことは忘れません。さようなら。
「いや、なに帰ろうとしてるの!」
「えっ」
ばれた。
その顔だと、まだ納得してないようだが、残念ながらあれが理由だ。
「とりあいず、取り調べだ。<駒鳥の騎士団>第一取り調べ室まで来い」
「どのくらい、かかりますか」
「多くとも一時間ぐらいだ、予定があるなら、早めに終わらせるが?」
はぁ~。
私は、騎士団のおじさんに疑いの目を向けた。
ここで少し、私の体験談を話そう。
私はこれまで十八回、取り調べを受けたことがある。
その十八回、一度も一時間で帰れたことはない。
最長で七時間。最短で一時間三十二分。
なので、「一時間で終わる」と言われても、「あっ、はい。嘘ですね」と疑いが生じる。
私は、全騎士団諸君に言いたい。
確かに人通りが多い王都に不審者がいるのは不安だ。
王都で殺人事件が起きたら、国民が不安になるのは、目に見えている。
でもっ! それでも! 約束を破るのは、良くないと思う!
約束破られて十八回。一時間で終わる? 信じられるわけないでしょ!
「で、なんか用事があんのか」
騎士団のおじさんが再び聞いてきた。こっちの気持ちも知らないで、うぅぅ~。
今、ここで「一時間で終わるわけないでしょ」と言って目的地へ向かいたい。「毎度、毎度同じパターンなんだよ」って言いたい。
だけど、
「特にありません」
なんで予定がないのだろう。
この日、私は自分の小心を呪った。
結局のところ、悪夢の取り調べは二時間過ぎた後、終了を告げた。
解放されたときには、肩が痛いし、足も痛い。宿行きた~い。と、三拍子そろった状態だった。
宿を探してブラブラしてたら、あっという間に日は沈み、今は王都の隅の方に居座り中。
全宿、入店不可ってどういうことだろう?
私は今日、恐ろしく運がないのかもしれない。
仕方なく、そこらへんの建物の裏で寝ようかなと思ったとき、思い出した。
私、予定あったんだった!
あのとき言っとけば良かった~!
あ、でも会ったら即刻怒られるな。それに、「予定がある」と言ってもしつこく追い回されるな。
つまり、悪夢は必ず起きると言うことか。
「はぁ~、久しぶりの王都は終わっているよ」
キレイな白い石畳に寝そべりながら、私は重いまぶたをとじた。
■□
私はアレンドロン。
<駒鳥の騎士団>団長を勤めている。
今日一番、いや、私の人生で一番の変人を見送った後、机の上にある膨大な資料に目を向けて、溜息をはいたていた。
「普段も、資料は山になるほど多いが、今日は一段と多いな。なんか事件でもあったのか」
近くの部下に聞くと、
「資料を全部見てから、聞いて下さいよ! こっちも暇じゃないんです」
ぴしゃりと怒られた。
そう言う部下の机には、大の大人が隠れるのでは? というほどの資料の山が置かれていた。
部下の文句にしょんぼりしながら、いやいや資料に目をやると、王都の人口や地図、色々な王都の情報が書いていた。
「はぁ~、これはうちのする事じゃないな。恐らく王都の管理所が間違って送って来たんだろ」
「だから! あなたが! 王都の管理所に言ってくるよう、取り調べを早く終わるようにしろと、口を酸っぱくして言ったじゃないですか!」
「それは悪かったよ。でも、それだったらお前らがいけばいいんじゃないのか」
「はぁ~、あなたはバカですか」
おい、一応私は上司だぞ。
「今、管理所は厳重警備中なんです。なので、各騎士団団長しか入れないんですよ」
「そうなのか」
「まさかと思いますが、団長。今、はじめて知ったんじゃありませんよね」
うっ、部下よ。
そんなに冷たい目を向けなくても、いいじゃないか。呆れ顔からのブリザード、急展開過ぎるだろ。
でも騎士団長の自覚が無かったのも、事実。
「申し訳ございませんでした~~~!」
勢い良く椅子から立ち上がり、王都の管理所に足を運んだ。
管理所に向かう際、若い女性に声を掛けられたのだが、なんとなく違和感を感じた。
しかし私は、この違和感にきずく事は、二度と無いのであった。
「あれ? 私は今日、何をしていた?」