表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

不運はなんで起きるのだろう

 大人の女性が全身隠れるほどの真っ黒なローブに、木で出来た白と水色の狐のお面。

 唯一、ローブから見えている手には、白い手袋がはめられている。

 そんな人が大陸最強の王国、それも王都を歩いていたらどうなるか。

 A,変な目で見られる、または騎士団に通報される、この二択に限る。

 五歳ぐらいの男の子まで私を指さして、「へんなひとー」と言っている。中身は、変じゃないけどね。うん。

 そこんとこ、勘違いしないでよ、僕?


 でもね、恰好はものすごーく変なことは自覚ある。道行く人たちが、「なんだこいつ」って言う目で見ているのもわかる。騎士団のおじさんが、こっちに向かって来ているのもわかる。ついでに、取り調べが長いということもわかる。

 そして、私の心が「取り調べ受けたくな~~い!」と叫んでいるのもわかっている。




 と言うわけで。

 私は、目立たないようにように、オシャレな石畳の建物……の裏道へ向かってダッシュした。じろじろ見られるのはごめんだ。


 いや、はなっからこんな恰好しなければいい話なんだけど……




六分ぐらい、走っただろうか。

 息切れがしてきた割に、私はまだ、裏道に着いていない。

 平日の昼間だが、人通りはそこそこ多い。

 太陽がギラギラひかり、走るたびに体力が削る。もしかしたら、誰かが魔力を使っているのかもしれない。

 うっ、ヤバい。もう、追いついて来ている。

 走る速度を上げようとしたとき、

「ちょっとそこの君、いいかい」

 騎士団のおじさんが、私に話しかけてきた。

 私は、ダッシュしていた足を止め、くるりと右に振り向いた。

 なんでこの日に限って騎士団長が、追いかけてくるのだろう。

「住民から通報があった。黒いローブを羽織った不審者がいると。君はどうしてそんな恰好をしているか、教えてくれないか」

 気絶させるか、言おうか、迷った。しかし、気絶させるとあとあと問題が起きると考え、素直に答えた。












「私、日に焼けるの、いやなんです!」

「そんな理由っ」

 さすが、騎士団のおじさん。即座の鋭いツッコミ、心に響いた。このことは忘れません。さようなら。

「いや、なに帰ろうとしてるの!」

「えっ」

 ばれた。

 その顔だと、まだ納得してないようだが、残念ながらあれが理由だ。

「とりあいず、取り調べだ。<駒鳥の騎士団>第一取り調べ室まで来い」

「どのくらい、かかりますか」

「多くとも一時間ぐらいだ、予定があるなら、早めに終わらせるが?」

 はぁ~。

 私は、騎士団のおじさんに疑いの目を向けた。




 ここで少し、私の体験談を話そう。

 私はこれまで十八回、取り調べを受けたことがある。

 その十八回、一度も一時間で帰れたことはない。

 最長で七時間。最短で一時間三十二分。

 なので、「一時間で終わる」と言われても、「あっ、はい。嘘ですね」と疑いが生じる。

 私は、全騎士団諸君に言いたい。

 確かに人通りが多い王都に不審者がいるのは不安だ。

 王都で殺人事件が起きたら、国民が不安になるのは、目に見えている。

 でもっ! それでも! 約束を破るのは、良くないと思う!

 約束破られて十八回。一時間で終わる? 信じられるわけないでしょ!




「で、なんか用事があんのか」

 騎士団のおじさんが再び聞いてきた。こっちの気持ちも知らないで、うぅぅ~。

 今、ここで「一時間で終わるわけないでしょ」と言って目的地へ向かいたい。「毎度、毎度同じパターンなんだよ」って言いたい。

 だけど、

「特にありません」

 なんで予定がないのだろう。

 この日、私は自分の小心を呪った。



     



 結局のところ、悪夢の取り調べは二時間過ぎた後、終了を告げた。

 解放されたときには、肩が痛いし、足も痛い。宿行きた~い。と、三拍子そろった状態だった。

 宿を探してブラブラしてたら、あっという間に日は沈み、今は王都の隅の方に居座り中。

 全宿、入店不可ってどういうことだろう?

 私は今日、恐ろしく運がないのかもしれない。

 仕方なく、そこらへんの建物の裏で寝ようかなと思ったとき、思い出した。

 私、予定あったんだった!

 あのとき言っとけば良かった~!

 あ、でも会ったら即刻怒られるな。それに、「予定がある」と言ってもしつこく追い回されるな。

 つまり、悪夢は必ず起きると言うことか。

「はぁ~、久しぶりの王都は終わっているよ」

 キレイな白い石畳に寝そべりながら、私は重いまぶたをとじた。



     ■□



 私はアレンドロン。

 <駒鳥の騎士団>団長を勤めている。

 今日一番、いや、私の人生で一番の変人を見送った後、机の上にある膨大な資料に目を向けて、溜息をはいたていた。

「普段も、資料は山になるほど多いが、今日は一段と多いな。なんか事件でもあったのか」

 近くの部下に聞くと、

「資料を全部見てから、聞いて下さいよ! こっちも暇じゃないんです」

 ぴしゃりと怒られた。

 そう言う部下の机には、大の大人が隠れるのでは? というほどの資料の山が置かれていた。

 部下の文句にしょんぼりしながら、いやいや資料に目をやると、王都の人口や地図、色々な王都の情報が書いていた。

「はぁ~、これはうちのする事じゃないな。恐らく王都の管理所が間違って送って来たんだろ」

「だから! あなたが! 王都の管理所に言ってくるよう、取り調べを早く終わるようにしろと、口を酸っぱくして言ったじゃないですか!」

「それは悪かったよ。でも、それだったらお前らがいけばいいんじゃないのか」

「はぁ~、あなたはバカですか」

 おい、一応私は上司だぞ。

「今、管理所は厳重警備中なんです。なので、各騎士団団長しか入れないんですよ」

「そうなのか」

「まさかと思いますが、団長。今、はじめて知ったんじゃありませんよね」 

 うっ、部下よ。

 そんなに冷たい目を向けなくても、いいじゃないか。呆れ顔からのブリザード、急展開過ぎるだろ。

 でも騎士団長の自覚が無かったのも、事実。

「申し訳ございませんでした~~~!」

 勢い良く椅子から立ち上がり、王都の管理所に足を運んだ。



 管理所に向かう際、若い女性に声を掛けられたのだが、なんとなく違和感を感じた。

 しかし私は、この違和感にきずく事は、二度と無いのであった。



















「あれ? 私は今日、何をしていた?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ