7話
意識が途絶えてから、自分がどうなったか全く記憶に無い。
朝、目が覚めた時にはもう南野楓は居なくて…テーブルの上にメモと鍵が置いてあった。
『鍵はお前にやる。戸締りしてから会社に来い』
メモを見て落胆した。やっぱり私はただの奴隷なんだ…私に少しでも愛情を感じてくれているのなら、目が覚めた時そばに居て欲しかった…
寂しいよ…南野楓…
彼がこういう人だって分かってはいたけど…私を残して一人で出社するなんて凄く悲しい…
自分のマンションに帰って支度しようと思ったけれど、時計を見たらもうそんな時間も残っていなくて仕方なく南野楓の部屋のシャワーを借り、ちゃんと戸締りしてから会社へと向かった。
この鍵…くれるって書いてあったけどどうしよう…
「結城君!どういう事だ。例の社長から連絡があったが…君、一体何をやらかしたんだ!」
「も、申し訳ございません…」
出社するなりいきなり部長に呼び出されて叱られ、昨日の事をどう説明したらいいのか困ってしまう。
それに部長も私を狙ってるって南野楓が言ってたし…こうして話すのも正直怖い…
「部長、失礼します」
そんなピリピリとした空気の中、私達の間に入って来たのは昨夜私と関係を持った相手…南野楓…
今は顔も見たくないのに、何なのよコイツ…!
「南野君、一体何だね」
「部長はあの会社の事何もご存知ないのですか?」
「はあ?何を言ってるんだ、君は」
「あの会社、倒産しますよ。それから、汚い手で社員を利用するのは止めて下さい。次はありませんよ、これ以上黙って見過ごす訳にはいきません」
南野楓…
まさか…部長から私を守ってくれてるの…?
私が貴方に体を捧げたから?だから守ってくれたの?
「き、君っ!部長のこの私に向かって何という口の聞き方を!」
「お言葉ですが、部長の方こそ部下を何だと思っていますか?」
更に南野楓は部長に詰め寄り、冷たい視線を向けている。
そして…部長と私にしか聞こえないような小さい声で、「平社員から出直しな」と耳打ちし、自分の席に戻っていった。
ちょっと待ってよ南野楓…
部長に向かってそんな事言っていいの?
私の胸に不安が広がるけど彼はいつもの澄ました顔で淡々ともう仕事に取り掛かっている。
「きゃー!南野さん素敵ですぅ!」
「カッコ良かったです!南野さん!」
「同じ職場で働く仲間を助けるのは当然の事ですよ」
「「きゃー!!」」
女子達…何をそんなキャーキャー騒いでんのよ。
あんた達が理想の王子様だと思ってるその男は、私に酷い事を言ってきたのよ。しかも次の日の朝には姿を消していた最低の男。
「ほら」
さっき部長から助けてもらったけど、今朝一人で勝手に出勤した事と会社で優等生を気取ってる彼に腹が立ち、ボンと不機嫌丸出しの態度でお茶を置いた。
「…ありがとう、結城さん」
何が"結城さん"よ!昨日は私の事散々呼び捨てにしたくせに!
ほんとに…何でこの人はいつも私を苛立たせる事ばかりするのよ!