4話
「っ……」
な、何でキスされてるの私っ…
頭の中が南野楓にキスされているという事実でいっぱいになってしまう。
「社長、お分かり頂けましたか?結城桜は俺のものです。誰にも渡さない。それに…コイツを先に見つけたのは俺だ」
「ぐ……」
「桜、行こうか」
「えっ…」
項垂れる社長を尻目に、彼は私の手を握り、一緒に歩き出す。
私…彼の考えてる事全然分かんないよ…
何でキスなんかしたの…?
ドキドキして死んじゃいそうなのに…南野楓は平気な顔をしてスタスタ歩いてるし…
もう全部訳分かんないっ…!
「ちょっと、南野楓!何処に行くつもり!?」
「二人きりで話したい。俺に聞きたい事、沢山あるだろ?」
「っ、なんか…会社に居る時と全然雰囲気違う…」
「プライベートでも、エリート社員のままで居て欲しかった?」
これがほんとにあの南野楓なのだろうか?
別人を見てるみたい…
それに…さっきは暗くてよく見えなかったけど、この人眼鏡を外してる…
その素顔がとても綺麗で、もうまともに顔見れないよ…
「桜、入るぞ」
「あ…ちょっと…」
南野楓が先にバーみたいなお店に入り、手を握られている私も必然的にそのお店に入る事になる。
意外…真面目な彼がこんなオシャレなバーを知ってるなんて…
「マスター、いつもの二つ」
「了解。お、今日は可愛い子連れてるな。恋人か?」
「まだ恋人じゃない」
「まだ、ねぇ」
話の流れで彼がこのバーの常連だという事を悟る。
私は仲良さげに話す二人を見つめながら、カウンターに座っている南野楓の横に座る。
何故か手は繋いだまま…
「あの…南野楓…さっきは助けてくれてありがと…」
「くす、今日はいつもみたいに冷たい態度取らないんだ?」
「だって…」
自分の気持ち自覚しちゃったし、ずっと手繋いだままだし、キスまでして…意識するなっていう方が無理だって…
「ねぇ…何で私を助けてくれたの…?」
「どうしてだと思う?」
「さ、さっきから質問に質問で返さないでよ!」
クスクスと笑みを浮かべながら、その射抜くような目で私を見つめる南野楓。
絶対私、彼にからかわれてる…
どうせ私はあんなスケベジジイにも何も抵抗出来ないひ弱な女よ…
彼と違って仕事もろくに出来ないし…見くびられて当然か……