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鬼畜外道な世界の果てで  作者: 藤山五季(ふじやまいつき)
3/3

戦闘準備と束の間の談笑

キースが運転するほろ付きの荷馬車が ほろのない5つの荷馬車を率いてアマルグア帝国外のエリアに向かって進む。アマルグア帝国の騎士が運転する幌のない5つの馬車の荷台には入隊試験合格者を乗せている。ウェディングケーキのような複数の段と平地のエリアで構成されるアマルグア帝国は、最上段となる3段目にアマルグア城、2段目に化物けもの討伐隊【生命いのちたて】の宿舎や稽古場などを設けたエリア、1段目に飲食店や宿屋などを有した城下街、そして、平地のエリアは農村となっている。その全体を囲むように円状の巨大な壁が設けてあった。農村部を走る5つのその馬車で、試験合格者達は座りながらアマルグア帝国の景色を眺めていた。夜刄那由よるばなゆも進む馬車に揺らされながら、景色を眺めている。


それにしても、さっきの出来事はすごかったな。


と那由は 55番隊となる5チーム目、56番隊となる6チーム目編成決定のプロセスを思い出す。




『3人には申し訳ないが、合計6チームが絶対条件だ。君達の中で、1人チームが生まれることになる。すまんが、3人で話し合って、1人チームを決めてくれ』

キースはまだチームを組めてない3人にそう言い放つ。


3人の内、2人の男女が心苦しい表情をする。そんな中、もう1人のアフロヘアーが特徴的な黒人青年が手を上げ、ニコッと笑い


『みんなが良いなら、僕は1人チームで大丈夫だよ』


その言葉を聞き、さっきまで心苦しそうだった2人の男女は安堵の表情を浮かべた。そして、その黒人青年にうなづいた。


『君は勇敢だな。大抵の人間は…こういう状況だと、1人を恐れるんだがな。もしよければ、君の名前を聞いても良いかな?』

とキースは感心した後、その黒人青年にそう尋ねる。


先ほどと同じように笑い


『僕の名前はボブ・マーキュリー。よろしくお願いします』

と答えた。




そんなことを思い出しながら、那由は右斜め前に座るボブに視線をやる。

目があったボブはニコッと笑った。その笑顔があまりに無垢むくで、悪意のないものだったので、

那由は恥ずかしくなり、目線を下に落とす。そのまま、那由は下を見たまま眠ってしまった。



『着いたぞ!みんな荷台を降りてくれ!』

キースの声が辺り一帯に響く。

その声で目を覚ました那由は辺りを見回す。6番目に走っていた那由の馬車の後方には巨大な壁にとりつけられ門が、前方には5台の荷馬車、広大な草原、奥にかす)む森林と山脈があった。


『俺の前に並んでくれ』

いつの間にか、馬から降りたキースは荷馬車の一団から少し離れた場所に立ちそう言う。

ぞろぞろと試験合格者達は荷馬車から降り、キースのもとに向かった。


少しして全員がキースの前に並んだ。


「まず、俺が何故、魔法使いがかなめになると言ったか説明しよう。今回の救済措置を利用するために、魔法使いが必要だからだ。今回の唯一の救済措置はデッドモンスターリストバンドに、チーム全員分の星が表示されている状況で、絶望的な窮地に君たちが遭遇した場合に、俺を呼べるというものだ。そして呼ぶためには魔法使いのレベル1魔法【伝心叫テレパス】が必要となる。俺の個人IDは7974だ。伝心叫テレパスと詠唱し、出てくる欄にこの数字を押せば俺と通話ができる。それで俺を呼んでくれ。呼ばれたら俺はどんな絶望的な状況でも君たちを救おう。・・・・・・じゃあ、今から、君たちには武器を選んでもらい、モンスター討伐をしてもらう。俺が運転していた幌付きの馬車の荷台には武器が入っている。51番隊、52番隊と順に56番隊まで、武器を取りにいってくれ。1人、スペアも含めて3つまで、武器を持つことを認める。では、始めてくれ』

キースは試験合格者全員にそう言い放つ。

その言葉を受けて、51番隊は先頭の幌が取り付けられた荷馬車に向かった。




51番隊、52番隊が武器の調達を終えた後、53番隊が武器を入手し戻ってきた。


『俺たちの番だ。みんな行こうぜ!』


霧島は那由を含めた54番隊のメンバーにそう声をかける。54番隊は先頭の幌付きの荷馬車に向かった。


『那由君はさ〜。このゲームをどれくらい理解してる?・・・いや、ごめん。語弊があった。死人も出てるから、ゲームなんて言い方ないよね。えーと、言い方考えないとな。…この世界のことをどれぐらい理解してる?』

と霧島は那由に尋ねる。二人は歩みを止めていない。

『正直なところほとんど分かってない。少ながらず分かっていることはアマルグア帝国の奴らかクソ野郎ってことと視野右下の自分を指すカーソルを押すと縦に横書きで色んな項目が出るってことかな』

『ちょっと、変な話だけど、その出る項目について俺と同じか、確認していい?』

『全然良いよ』

二人は視野右下のそのカーソルを押す。


『じゃあ、那由君。俺が上から項目を読み上げるね。個人情報、装備、技、スキル、アイテム。この5個の項目で合ってる?』

『うんうん。合ってるよ。個人情報の項目を開くと、

HP、MPのゲージと攻撃力とかのパラメーター、あとアビリティが見れるね』

『アビリティ!?えっ……そんなの俺ないけど、なにそれ?』

『あっ…ごめん!見間違えた。俺疲れてるのかな〜。あはははは』

咄嗟に誤魔化すように、那由はへらへらと笑い、そう言った。二人の間に不自然な空気が漂う。


アビリティってのはみんな持ってるんじゃないのか?咄嗟に誤魔化しちゃったけど、どうしよう?

那由はそんなことを考える。


『おーい!そこの2人!まだまだいっぱい武器があるよ』

すでに、先頭の幌付きの荷馬車に着いていたノアが手を振りながら、そう言う。隣にはチャンもいた。


『お、おう』

霧島と那由はそう返事し、急いでノア達のもとに向かった。

二人がノア達のもとに着くと


『ちょっと、中見てみなよ』

ノアは嬉々としながら、そう促した。


促されるままに、那由と霧島は幌付きの荷台を覗きこんだ。

その中は暗がりだったが、隙間からの陽射しで、複数の壺に差し込まれた多くの剣、槍、杖、斧、そして、幌の内側の布地にディスプレイされたハンドガンなどが確認できる状態だ。


『おおおおおおおお』

那由と霧島はそう声を上げた。

4人は荷台の中に入り、武器を物色し始める。

霧島とノアは剣を、チャンは槍を、那由はハンドガンを、チェックする。


『全部見たけど、デザイン以外違うとこないな〜』

荷台内の全ての剣を比較し、性能を確認した霧島がそう言った。


『こっちも同じよ』

とチャンは声をあげた。


『銃もそうみたいだね』

那由も同調するようにそうこぼした。


『マジかよ〜!めっちゃ残念だ〜〜。もう、みんな好きなデザインの武器選ぼう!』

開き直ったように、霧島はそう言う。

その言葉に、ノア、チャン、那由の3人は笑い、各々好みのデザインの武器をとり始めた。


『那由君!見て見て!これめっちゃ便利!この輪っかめっちゃ良い!』

霧島はそういって、隊服のズボンの両脇に2つずつ付いた布製の輪に鞘に収められた片手剣を通す。

するとその輪はキュッと絞り、鞘に収められた片手剣を右腰に固定した。


『確かに便利じゃん!めっちゃ良いね!』

と那由は少し興奮気味に言って、自身の隊服を確認する。


布製の輪はズボンの両脇に2つずつ、上着の背中に4つのほかに、上着、ズボンの内側にも、布製の輪がいくつか配置されていた。


なるほど。この輪を利用して、武器を固定するわけか。どうりで、銃用のホルスターや剣を差す帯が見当たらないわけだ。


那由はそんなことを考えながら、右腰のその輪をいじっていると、あることに気がつく。伸縮自在なのである。手などで広げることで、どこまでも広がり、武器のサイズに合わせて、縮むのだ。また、銃を布製の輪から抜く時は、まるでその意識を感じとったように、その輪が緩み、簡単に抜き取れることも理解した。


『おっこれは本当に便利だな』

と那由は感心した。


『那由くん!俺ら武器選び終わったよ』


那由は声のするほうを見ると、腰の左右に剣を差した霧島とノア、背中に槍を2本装着したチャンが立っていた。


『みんな、早いな〜。先、外出て待っててもらって良いかな?』

と那由はその三人に声をかけた。


『了解!じゃあ、俺らは外で待ってるわ』

と霧島は言って、ノアとチャンを連れ外に出た。

三人が外に出るのを確認すると、目星を付けていた

銃2丁をズボン左右のその輪を使って固定した。



さっき霧島と話した感じだと、アビリティを持っていること自体が珍しいことなのかもしれない。このアビリティを持っていることはチームメンバーも含めて、秘密にしとこう。変に注目されたくないからな。とりあえず銃は二丁で良い。あとは、杖を持って、魔法が使えるか確認しよう。


那由はそう考え、荷台の中の杖を物色し始めた。


『おっ!これ良いじゃん!』


那由はそう言って、全長20センチくらいの小ぶりな杖を手にとる。すると、以前と同じようにし【使用可能】の文字が目の前に浮かんだ。そして、その下には【杖を装備し、職業を魔法使いに変更しますか?…⦅はい⦆または⦅いいえ⦆でお答えください】と追記されていた。


『はい』


そう答えると、目の前の文字は消えた。自分を指すカーソルを指で押し、並ぶ項目を確認する。


項目が変わってる。技の部分が魔法に変わってんじゃん!


那由はそう考えるとともに、魔法の項目を押した。四角の枠が目の前に広がる。枠内には【Level1 魔法:伝心叫(テレパス】、【Level2魔法:火焔球(フレイムボール】と記載されていた。


よし!魔法は使えそうだな。


そう考えた後、 那由は上着内側のあの輪を使ってその杖を固定した。そして、一度ズボン右側に固定していた銃に触り、先ほどと同じ質問に『はい』と答え、職業を銃使い(ガンナー)に戻した。


あとは、銃弾の予備も必要だよな。

那由はそう考えた。


荷台の端に置かれた棚から銃弾が込められた紙箱をいくつかとり、上着のポケットに詰め込んだ。


『那由くん!ちょっと遅くない?なんかあった?』

と外から霧島の声が響いた。


那由は急いで、荷台から降りて

『お待たせ!』

と霧島、ノア、チャンに声をかける。

声をかけられた3人は微笑みで返事した。


♢ ♢ ♢


草原には気持ちの良い風が吹いている。

武器の調達を終えた試験合格者が目の前に並ぶ中

キースは

『では、56番隊まで、武器を入手したということなので、入隊式を始めさせてもらう。チームの

メンバーと同数のモンスターを狩れ!生き残れ!そして、俺のもとに無事に戻ってこい!諸君の健闘を祈る!

制限時間は日没までだ!では始め!』

とキースの声が辺りに響いた。


あっという間に51番隊というまとめあげたあの木嶋は、キースのその発声を意に介さず、自身の武器であるナイフを恍惚とした表情で

眺めていた。


『俺のための世界だ。やっと俺らしく生きることを認めてくれるんだね・・・・ねえ・・・世界・』

と木嶋は小さく呟いた。


【つづく】







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