入隊式
『試験合格おめでとう!今日は化物討伐隊【生命の盾】の入隊式を行う!まず、俺の自己紹介をする。俺はこの隊の総隊長に加え、一番隊隊長を兼任するキース・エヴァンズだ!出身はアメリカだが、人種、国籍を問わず、俺は全隊員をサポートする!だから、不安なことがあったらいつでも相談してくれ!』
黒髪に青色の瞳が特徴的な青年・キースの声が化物討伐隊稽古場に響く。外に設けられた稽古場を晴天の空が照らす。そんな中お立ち台で語るキースに試験合格者30名の視線が注がれている。その中に、夜刄那由もいた。
正直、事態を飲み込めない。昨日の出来事がまだ信じられないのに、もう入隊式かよ。
そんなことが心中でモヤモヤしながら、那由は昨日や今朝のことを思い出していた。
スライムを倒して試験に合格した後、ベッドのある部屋へ鎧を着た男に連れてかれ、寝るよう指示を受けたことや寝ていたら、朝叩き起こされ、【生命の盾】の灰色と黒色が配色された隊服を渡され、着替えさせられたことだ。そして、この稽古場に連れて来られたことも、脳裏を横切っていた。
【生命の盾】の隊服はフード付きで、魔法使いのローブと兵士の戦闘服を掛け合わせたデザインだった。そのデザインに関して那由は嫌悪感を感じなかった。
『化物討伐隊【生命の盾】はアマルグア帝国に攻め込むモンスターや敵国の軍の殲滅を行うことに加え、領地拡大の為に、未開の地のモンスターの排除なども行う組織だ。現在、一から五十番までの隊で構成されている。一つの隊は平均して五名くらいで編成されている。総数は243名だ。もちろん、全隊員が地球からこの世界に転移された者となる』
とキースは流暢に説明する。
この組織は243名もいるのかよ。多分、死んでいる奴らもいるから。相当数の地球人がこの世界に転移されていることになるだろう。そして、この組織の任務は隊名の通り、この国の奴らの盾となり、危険と隣り合わせで頑張れってことかよ。ちくしょう。いつか、この帝国の奴ら全員に、復讐してやる。
そんな風に那由は色々なことを考えながら、アマルグア帝国民への憎悪の念を強めていた。
『では、入隊式を行う。今から、君たち30名に1時間与える。30分前、10分前の連絡と制限時間の終了はこちらから伝える。時間内にチームを組んでくれ!人数は問わない!この場で作られるチーム数の合計が6チームになることを絶対条件とする。他チームとの兼任は禁止とする。チームを組んだ後、国外に出てもらい、モンスターの種別は限定しないが、チームにいる人数と同じ数のモンスターを倒してもらう。例えば、3人で構成されるチームなら3体のモンスターを倒せば良い。それが終わった後、正式入隊となる。この入隊式の要となるアドバイスを一つ送ろう。"魔法使い”をチームに入れろ!以上だ。早速、チームを組んでくれ!』
キースは30名の試験合格者にそう言い放つ。
なぜ魔法使いをチームに入れることが要なん だ?
キースのその言葉が那由の頭に引っかかった。そう考えている内に、他の試験合格者は互いに声をかけ始めている。
『やばい。俺も色々動かないと』
そう言って、那由は他の試験合格者たちから距離を置き、その全員が見渡せる位置に移動した。
そして、その全員のカーソルを押し、パラメーターや個人情報を開き、観察する。
昨日の試験の時に、誰かが言ってたが、確かに剣士、槍士、弓士が多いな。剣士4、槍士3、弓士2、残りの1割がその他の職業って感じだな。もう一点気になることがある。試験合格者のレベルがまちまちだ。
最低レベルは2って感じだが、最高でレベル5って奴までいやがる。どういうことだ?
そんな風に那由は眼前の試験合格者達の表示されたパラメーターや個人情報を見て考察する。
『すいませ〜ん。チーム編成終わりました〜』
その中の1人の男が声をあげる。東洋系の顔つきで、一見すると日本人にも見える茶髪の男だった。試験合格者全員の視線を彼は集める。
『早いな。チームの人数を答えてくれ』
キースはその茶髪の男に聞く。
『人数は10名です』
茶髪の男は答える。
10名だと!なんで、そんな大所帯で?・・・・。そうか。チームの人数分のモンスターを倒さなきゃならない制約があるからデメリットもあるけど、多対一でモンスターを倒せるメリットも生まれる。恐らく、あの茶髪は数の利で押し通すつもりだ。
あいつ、この状況で冷静にこんなことを考えてたのか。あいつ名前はなんていうんだ。確か、個人情報の名前の欄でと……。木嶋海斗か。職業は剣士、レベル5かよ。てか、自分以外のやつの情報で見れるのは名前、職業、ライフゲージ、レベル、マジックポイント、だけなのか。
『では、今から君の隊を五一番隊とする。デッドモンスターリストバンドをチームの人数分渡すから前に出てきてくれ』
キースはそう木嶋に言う。
そそくさと前に出てきた木嶋に、足元の皮袋からそのリストバンドを10個、木嶋に渡した。
『彼だけでなく、みんなも聞いてくれ。デッドモンスターリストバンドはモンスターを倒した分だけ、倒した当事者が身に付けたこのリストバンドに星が表示されるアイテムだ。みんな気付いていると思うが、今回は1人1体のモンスターを倒さなくて良い。チームで所属メンバー数と同数のモンスターを倒し、チームの人数分の星が表示されたこのリストバンドを私に渡してもらえれば合格だ。助け合って入隊式を乗り切ってくれ』
キースはアイテムの説明に加え、そう語り、試験合格者30名を鼓舞した。
『すいませ〜ん。例えば〜。めっちゃ不謹慎なんですけど、チームのメンバーが何人か死んだ場合はその時点の人数とモンスターを倒した数が一致すれば合格ですか?あと、もう一点。国外に出た後、モンスター討伐を行うと思いますが、その最中は監視役はいますか?』
木嶋はキースにそう質問する。
『質問に答えよう。チームのメンバーに死傷者が出た場合はその時点の人数と同数のモンスターを倒していれば合格だ。もう1つの質問に関して言えば、監視役はいない。私は国外のエリアに君達を連れて行った後、この稽古場に戻ってくるつもりだ。その後は、君達自身で考え、行動してもらう。モンスターの殲滅数に関してはデッドモンスターリストバンドのみで確認する』
『了解で〜す』
木嶋は軽い感じで返事し、下を向いてしたたかに笑った。
つまり、デッドモンスターリストバンドに表示された星の数の合計とその時のチームの人数が合致すれば合格ってことか。いや…まて、これヤバくないか。下手したらデッドモンスターリストバンドの奪い合いが起こるぞ。どうする…。どうすりゃいいんだよ。
那由はそんなことを考え、苦悶の表情を浮かべた。
『銃使い(ガンナー)なんだ。珍しい職業だね。もし良かったら、うちのチームに入らない?』
試験合格者の一団から距離を置いてた那由に近づいてきたメガネをかけた男がそう声をかける。
そして、その七三分けの髪型をした男は
『君だけ離れたところにいるから、だいぶ目立ってるよ。なんか声かけづらかったから、誰も声かけてなかったけど、可愛そうだから声かけてみたよ。正直、君が集団から離れているうちに、みんなコソコソ動いている。僕が知ってる限り、さっきの木嶋君のチームのほかに、少なくとも2チームはまとまりかけているし、うちのチームに入るのが君にとってもベストだと思うよ』
と悠長に語った。
『すいません。チーム編成終わりました!』
集団の中の、赤毛で天然パーマの女性が声を上げた。
稽古場内の視線を彼女が集める。
『人数を答えてくれ』
とキースは言う。
『6名です!』
その女性はそう答え、先ほどと同じようにキースからデッドモンスターリストバンドを受け取った。
『いまから君の隊を五二番隊とする。みんなに言う。残り30分だ!あと、30分でチームを編成してくれ!』
キースはそう言い放った。
これでチームを組めてない奴は14人か。もう二チームできてる。焦らなきゃいけない局面だ。このメガネかけた奴と組むしかない。
那由は声をかけてきたメガネをつけた男の顔を見ながら、そう考える。
『わかった。チームに入れてくれ』
那由はメガネをかけた男にそう言う。
『良かった〜。うちのチーム剣士と槍士しかいないから、中遠距離に対応できる銃使い(ガンナー)がいると助かるよ。いま、僕含めて3人いるから。君を入れて4人になる。自己紹介してなかったね。僕の名前は霧島悠太。よろしく!』
『日本人同士だな。俺は夜刄那由。とりあえず魔法使いに声をかけて入れよう。キースもそう言ってたし、要になる気がする』
『え、君気付いてなかった。魔法使いなら、最初に10人でチーム編成した木嶋君のチームに全員入っちゃったよ。全員って言っても、試験合格者30人のうち3人しかいなかったけどね』
『まじかよ…』
『すいません!チーム編成終わりました!』
その一団にいる太った坊主頭の男がそう声をあげた。
『何名か答えてくれ!』
とキースは訊く。
『7名です』
坊主頭の男はそう答えた。
『どうする?あと、僕らを含めて7人しかいない。僕は君を含めた4人でチーム編成を終了しようと思う』
霧島は那由にそう提案する。
確かに、悩んでいる暇はもうない気がする。
那由はそう考え
『分かった。霧島君。ここでチーム編成を終了しよう』
と返答した。
『了解!』
と頷き、一団に手を振り『おーい』と声をかける。
すると、一団から、茶髪痩せ型の白人青年と黒髪のアジア系の女性が霧島と那由のいる場所に向かって歩いてくる。両方ともメガネをかけていた。那由の目の前に着くと、霧島はその二人の紹介を始めた。
『まず、金髪の青年がノア・ベーコン君。イギリス人で、職業は剣士だ』
『どうも、ノア・ベーコンと言います。悠太とはお互いネットゲーム好きで、話が盛り上がって、意気投合してチームを組みました。よろしくお願いします』
と言って、那由に握手を求めてきた。
『俺は日本人の夜刄那由です。よろしく』
そう言って、ノアに握手した。
『こちらの女性はチャン・ズー・ハンさんだ。中国人で、職業は槍士だ』
『どうもチャン・ズー・ハンと言います。私もノアと同じで、ネットゲームが好きで、悠太とゲームの話題で盛り上がってチームを組むことになりました。よろしくお願いします』
先ほどのノアと同じように、那由に握手を求めてきた。
『夜刄那由です。よろしく』
先ほどと同じように握手した。
俺以外はネットゲーム好きか。カーソル表示だったり、パラメーター、職業とか、この世界自体がゲームみたいだし、案外こういう奴らの方が強いのかもな
。正直、高校生以降ゲームなんてほとんどやってないから、この3人とチームを組めたのはついてるかもしれない。
那由はふとそんなことを考えた。
『じゃあ、みんなこれでチーム編成終わりにするけど、大丈夫?』
と霧島はその3人に訊く。
チームの3人は頷いた。
『すいません!チーム編成終わりました』
と手をあげて、霧島は声を発した。
『何名か答えてくれ』
とキースは霧島に尋ねる。
『4名です』
『よし!いまから君達のチームを54番隊とする。デッドモンスターリストバンドを取りに来てくれ』
霧島はそのリストバンドを取りに行った。
那由は稽古場の中心に残ったチームを組めてない3名と稽古場全体を見渡した。
今回の絶対条件は6チームを作る事だ。あの3人の内誰かが、一人チームになる。少し揉めそうな気がするな。どうなるんだ?既にチームを組み終わって、デッドモンスターリストバンドを受け取った奴らは壁際で談笑してやがる。みんな他人事かよ。まあ、俺も何も出来ないから、結局同じか。
那由は土の地面を踏みしめ、太陽が照らす稽古場でそう考えていた。
『残り10分だ!』
キースのそんな声が稽古場に虚しく響いた。
【つづく】