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鬼畜外道な世界の果てで  作者: 藤山五季(ふじやまいつき)
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鬼畜外道な世界にて

大学4年生の青年・夜刄那由(よるば なゆ)は自室で打ちひしがれていた。上着にパーカー、下にはスウェットを履いた寝巻き姿だ。机にはいくつか開封済みの缶チューハイやビール、ツマミが並んでいる。

ボサボサの黒髮を掻きむしった後


『ふざけんな!これで何社目だよ。いつになったら内定もらえんだ!』


机に拳を叩きつけそう叫んだ。声は那由が住む安アパートの自室に虚しく響いた。机の上のスマホの画面には面接を受けた会社からの不採用通知が映し出されている。那由は立ち上がり、ふらつきながら、ベッドまで歩き、横になった。


『早く内定とって、ゆっくりして〜な〜』


そう呟き、まぶたを下ろした。瞬く間に眠りにつき、不思議な夢を見る。


右手に杖を持つローブを纏った7人の老人が、床に描かかれた、漫画などで見かける円形の魔方陣のような絵柄を囲むように並び、呪文を唱えている。

呪文の詠唱は一定時間行われ、その7人は沈黙した。その中の1人が、大声で呪文の最後と思われる箇所を詠唱すると、魔方陣の中心がひかりはじめ、その部屋を覆った。


那由がまぶたを開くと、眼前に先ほど夢に見た7人の老人が自分を囲んでいる。寝ていたはずが立っており足元には魔方陣が描かれていた。


『俺の部屋じゃない。夢の続きか…いや…』


空気の質感や肌に感じる温度、目の前の風景があまりに現実的すぎる。なんだ、この世界は…。


那由を囲む老人の奥には、鎧を身に付けた屈強な男達が立ち並び彼を見つめている。その中の一人が、前に出てきて、那由の後ろに回り込み、あっと言う間に羽交い締めにする。


『おい!何すんだよ!離せ!』


那由は狼狽するが、後ろで拘束する騎士は聞く耳を持たない。ローブを着た老人の一人が歩き始め、那由の目の前で止まった。


『いやはや、今回も転移召喚は無事成功したようじゃな。じゃあ、いつも通り…』


不敵な笑みを浮かべそう語り、右手に持つ杖を那由の腹に押し当て、呪文の詠唱を開始する。那由の腹のあたりが紫色にひかり、程なくして、紫色の光は鎮まった。『もういい、手を離せ』老人はそう言い放つ。それを受けて、鎧を着た男は那由への羽交い締めをやめた。


『おい、上着めくってみ〜。腹に素敵な模様を刻んどいたぞ』


那由の目を見ながら老人はそう言う。


那由は恐る恐る、上着のパーカーをめくると、腹に二本の鎖がバッテンとなるように配置された模様が刻まれていた。


『おい!なんだよ…これ!わけわかんねーよ!ここ何処なんだよ!解放しろ!家に帰してくれ!!』


『うるさいの〜(わっぱ)!早くコイツを連れてけ!入団試験を受けさせろ。』


那由の目の前に立つ老人は彼の声を無視して、鎧を着た男達にそう命令する。


老人の後ろからもう1人鎧を身に付けた男が前に出てきて、 先ほど羽交い締めにしていた男と2人で那由を拘束し、別室へ連れて行く。諦めたように、那由はその時抵抗しなかった。


別室に向かう途中、那由は壁や天井、床、等間隔で

壁に配置されている松明(たいまつ)を見る。


石畳。壁も石を積み上げたような作りだ。照明として使われている松明。昔、映画で見た中世ヨーロッパの建物みたいだ。


『おい!着いたぞ』


先ほど那由を羽交い締めした男はそう言う。


正面を見ると、那由の目の前には、真ん中に巨大な檻が置かれた円形の部屋が広がっていた。

檻の端にはゲル状の化物がいる。


右側に眼を向けると、六人の男女が立ち並んでいる。


『お前は7番目だよ。そこに早く並べ』


左側のシルクハットを被った小柄な老人が薄ら笑いを浮かべ、右側の列の最後尾を指差しそう言う。

蝶ネクタイでワイシャツの首元を飾り、高級そうなスーツで身を固め、偉そうにゴージャスな椅子に腰掛けている。

その老人の後ろには、数十人の鎧を身に付けた男達が立っていた。腰には剣を備えている。


那由は列の最後尾に並んだ。


『よし!本日の入隊試験者7名全員が揃いました。私の名前はゲゼルハイムと言いましゅ!以後、お見知り置きくださいな。では、今回の試験内容を説明します。とっても簡単!簡単すぎて反吐が出るよおおお!檻の中のスライムを殺すだけで入隊試験合格とします。ねえねえ、僕ちゃん優しいでしょ?武器は壁に掛けてあるんで好きなの使ってよ!』

シルクハットを被った老人はそう大きな声を出した。


 那由は円形の部屋の壁を見渡す。全体に武器が掛けてあることに気がつく。

 

 片手剣、短剣、大剣、双剣、槍、斧、ハンドガン、弓矢、クロスボウ、杖・・・・すげえ。他にもいっぱいある。まじで武器だらけだ。


『ふざけんな!こんなのやってられるか!早く俺が居た場所に帰せ!ここはアメリカなのか?違うのなら、早く母国・アメリカに帰せ!』


列の先頭の男がそう叫ぶ。


那由はじっとその男を見つめ、考えを巡らせる。


アメリカに帰せ?ここに来ているのは日本人だけじゃないのか?確かに、あの叫んでる奴の外見は日本人には見えない。金髪にブルーの目、青いTシャツにピンクの短パン・・・いや、服装は関係ないか。と言うか、あいつの話す言葉が全部理解できる。俺英語のリスニング全然ダメなのに。何でだ。いや、ネガティブなポイントじゃない。あれ、俺少し冷静になってきているのか。さっきより、マシな感じだ。


『いつも出るんだよな〜!お馬鹿ちゃんが。よし見せしめだ!殺してあげるよ!おいそこのお馬鹿ちゃん!僕ちゃんのことを殴ってみそみそ!』


『上等だ!クソ野郎が!』

 先頭にいた男はゲゼルハイムに向かって勢い良く走り、その目の前に着くと拳を振り上げる。


 ゲゼルハイムは挑発するように、右手の人差し指を自分に向け数回倒した。


『殺す!!!』

 先頭にいた男の右拳は勢いよく、ゲゼルハイムの頬を捉えた。

 ゲゼルハイムの顔はその勢いで横を向く。


『良いパンチしてんじゃん!お馬鹿ちゃんのわりにはさああ!」

 ゲゼルハイムは鼻から垂れた血をペロリと舐め、笑顔を浮かべ

『バイバイ!お馬鹿ちゃん!』

と続けた。


 ゲゼルハイムを殴った男の腹は紫色にひかり始め、腰回りがどんどん締めつけられていく。


『痛い。痛いよおおお。ママあああ。助けてよ。僕やっとまともになったんだ。ママに恩返しできるようになったんだよ。誰かあああああ。助けてよおおお!』


 その男の胴体は真っ二つに裂け血しぶきが辺りに散らばり、上半身と下半身が床に倒れた。


『きゃあああああああああああああああああ』

列に並ぶ2人の女性の悲鳴が辺りにこだました。


『だからお馬鹿ちゃんなんだよ。僕を殴るなんて自殺行為そのもの。さっきお前ら全員に隷業呪れいごうじゅと言う呪いをかけた。お前らの腹に刻まれた鎖の印が呪いが成立した証だ。我らアメルグア帝国の者を傷つけた瞬間にその呪いが発動する。お前らはすでに一生俺らに逆らえない運命なんだよおおおお!』


ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。俺らにもう自由はないのかよ。


地面に横たわる死体とゲゼルハイムの発言を受けて、那由は膝をついてそんなことを思った。


『じゃあ、先頭から2番目のやつ早く、武器持って、スライムと戦えよ!』


ゲゼルハイムは急かすように、2番目に並ぶ褐色の肌の青年にそう言う。


 ジーパン、Tシャツ姿の彼は慌てながら、壁に掛けてあるハンドガンを手にとる。しかしその銃を少し見つめ、苦悶の表情を浮かべ、すぐにハンドガンを壁に戻した。その隣の片手剣を取り、その剣を少し見つめ、軽く頷き、スライムのいる檻に向かい歩き、檻を開け入った。


 ダメだ。あいつは冷静じゃない。完全にゲゼルハイムのペースにのせられている。冷静でいられない状況で、冷静にならなきゃ、人間は深みにハマるだけなんだよ。


 那由は褐色の肌の男性を見つめそんなことを思った。


 褐色の肌の男はスライムに不格好な体制で斬りかかる。スライムは斬りかかる男の口から体内に侵入した。瞬く間にその男の腹は膨らみ、体が破裂した。肉片が檻の中に散らばる。


 さっき悲鳴を上げた女性二人はそれを見つめ、ヘラヘラ笑っている。気がおかしくなっているようだ。


 やばい。やばい。やばい。ゲゼルハイムへの怒りはある。褐色の肌の男性への同情もある・・・けど、今、俺が考えなきゃならないのはあのスライムをどう倒すかだ。生き残らなきゃ、褐色の肌の男性とあのアメリカ人の仇もうてない。ゲゼルハイムもぶっ殺せない。


 那由は頭でそんな風に色々考えていた。

 

『じゃあ、5番目の女性の方!次はあんたの番だ!まだ誰も倒せてないから!あんたが倒しちゃいなよ!スライムちゃんと遊んできなさああああい!」

 ゲゼルハイムは5番目に並んでいた女性にそう語りかけていた。


 えっ・・・。もう5番目。考え事しているうちに4人目までスライムに殺されている。どうすんだよ。全然良いアイデアが浮かばない。


 那由は頭でそんなことを考えて苦悩した。


『ゲゼルハイム様!私なんでもします!ですから、見逃してください!!お願いします!本当になんでもします!』

 5番目に並ぶ女性は膝をつき、合掌し、ゲゼルハイムにそう懇願した。


 ゲゼルハイムはその女性のブロンドの髪、青い瞳、服越しのくびれた腰まわり、豊満な胸、張りのある尻を舐め回すように見つめて


『よし分かった。お前は見逃してやる。ワシの身の回りの世話をしてもらう。良いな!』

嬉々としてそう言う。

『はい!』

その女性は泣き喜んでそう言った。


6番目に並んでいた女性もそれに続くように


『ゲゼルハイム樣!私も何でもします!ですから、見逃してください!お願いします!』


 ゲゼルハイムは先ほどと同じように、その女性の黒髮や、黒い瞳、服越しのスレンダーな身体を舐め回すように見つめて


『しょうがないな〜。特別だぞ!お前にもワシの身の回りの世話をしてもらう!』

胸糞悪い表情でそう語った。


6番目の女性は安堵の表情を浮かべ『はい』と言った。


『へへへ、またゲゼルハイム様のオモチャが増えたぞ。死んだ方がマシだろうに。』

室内にいる鎧を着た男達の1人の心ない呟きが那由の鼓膜をかすかに揺らした。


『じゃあ、7番目!お前の番だ!さっさと戦ってこい!』

ゲゼルハイムはそう捲し立てた。


 急に来た自分の順番に、戸惑いながら、那由の脳裏にある記憶が駆け巡った。



『じゃあ、次の方お入りください』

と何処からともなく声が響いた。


辺り一面が真っ白な世界にドアが浮いている。

スーツ姿の那由は目の前にあるドアを2回ノックし

『失礼致します』と言い入室した。

真っ白な部屋に、メガネをかけたスーツ姿の男が椅子に座っている。


彼は『ではお掛けください』と那由にそこに置かれた椅子に座るように案内した。


『失礼します』そう言って、那由は腰をかける。


『じゃあ、早速ですが、質問です。あなたという人間はどのような人間でしょうか?』

メガネを掛けた男はそう質問する。


「私はスポンジのような人間です。私はバイトやサークルで、率先して、同僚や同級生、先輩や上司などとコミュニケーションを取り、多くのことを学ぶように取り組んできました。また、最近は自分の苦手分野だった英語の勉強を独学でしております。これには・・・・』


『あのさ〜那由さん。上っ面で語るのやめようよ。面接でそんなこと言っても何にも響かない。君は一度冷静に自分を分析するべきだよ。その為には周りをしっかり観察するんだ!分かったかい?』


『は・・・・・はい』




『おい!いつまでボーとしてんだよ!お前!』

ゲゼルハイムのその一言で、那由は一瞬で現実に引き戻される。


『お・・・・おう』


 冷静になるんだ。ゲゼルハイムのペースに乗せられたら負け。自分のペースをキープするんだ。とりあえず武器を見に行こう。

 那由は壁に向かい歩き、そこに着くと武器を眺めた。


 あっ!これ2番目に並んでいた褐色の男性が一度持って、壁に戻したハンドガンだ。ちょっと持ってみるか。


持った途端、目の前に

 『使用可能』

の文字が浮かぶ。また、その文字の下には、【アビリティー『全職内定ジョブホッパー』を持つため、全ての武器の使用が可能です。加えて、全ての職業に適性を持ちますので、どんな職業にも就くことが可能です】と注意書きがされていた。


 そうか。あの褐色の肌の男は剣士の適性しかなかったから、ハンドガンが使用できなかったのか。だからあの時、辛そうな顔してたのか。え・・・・ちょっと待てよ。良いアイデアが浮かんだ。


 那由はゲゼルハイムの方に振り返り

『おい!ゲゼルハイム!確認したいことがある。スライムを倒す手段は問わないのか?』


『ああ!どんな手段を使ってもいい!お前チンタラしすぎだぞおお!さっさとやれ!』


『オッケー。じゃあ、やらしてもらうぞ』


那由は壁に掛けてある大量のハンドガンを、スライムから一番遠い位置の檻の目前に集めはじめた。


『おい!あいつ銃使い(ガンナー)なのか、かなり珍しい職業だな。大体転生者の7割が剣、槍、弓の職業に大別されるのにな』

 室内の鎧を着た男達の1人がそう呟く。


『よし、大体こんなもんか!じゃあやらしてもらうか』

 那由はそう言って、ためた大量のハンドガンの中から1つを拾い、檻の中に入らず、その鉄格子てつごうしの隙間から、スライムを撃ち始めた。一発目からスライムに直撃している。


『おい!汚いぞ!檻の中に入らないで戦うなんて!男として恥ずかしくないのか!』

ゲゼルハイムは大声を上げる。


『俺は確認したぞ!ゲゼルハイム!どんな手段を使っても良いってな!そこにいる鎧を着た奴らが証人だ!』

那由は撃ちながら、そう言う。


 スライムがこっちに近寄って来ているが遅いな。近接戦闘で相手に侵入するのはあんなに速いのに距離がある状態だとこんなに鈍足なのか。よく見るとスライムの上に三角のカーソルが浮かんでいる。というか、実際にそこにあるんじゃなくて、画面に映っているみたいだな。画面を触る感覚で押してみるか。


 那由がカーソルを左手の人差し指で押すと、スライムのライフゲージとレベルがでた。


 おっ!ライフは半分以上削れている。てか、こいつレベル3かよ!ちょっと待て、俺のレベルてなんなんだよ。右下に俺を指すカーソルもある。


 那由はそのカーソルを押すと、自身のパラメーターが現れた。そこにはレベルとライフゲージ、所有アビリティーの【全職内定ジョブホッパー】が記載されていた。また、装備の欄にはハンドガンと記されている。


 てか、やっぱり俺レベル1かよ!てか、ということは死んで行った奴らもレベル1のまま、スライムと戦ったってわけか。マジでゲゼルハイムはぶっ殺す。


 そう考えながらも、那由はスライムへの発泡をやめなかった。1丁目の拳銃が弾切れし、2丁目に持ちかえた。その銃の一発目でスライムは絶命した。そ


 その瞬間、那由の身体が黄金色の光に包まれ程なくして光は消えた。


 那由がパラメーターを開くと、彼のレベルは2に上がっていた。

『おっ!レベルが上がった!』

嬉しそうにそう言う。


『誠に!大変誠に遺憾ながら!試験は合格とする!お前の化物討伐隊【生命の盾】への入隊を認める!名を名乗れ!』

額に汗を滲ませ、悔しそうな顔をしながらゲゼルハイムはそう声をあげる。


『俺の名前は夜刄那由よるばなゆだ!』



【つづく】









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