表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5

 アリスとカグヤは、寝台に横になっていました。

「カグヤ、疲れてたらいいんだけどね」

「どうしたの」

「なんだかニューベリーに戻るのが怖いの。もしみんながわたしを忘れてたらとか、みんなが年取ってしまっているんじゃないかとかね」

「忘れてる頃に帰ってあげた方が覚えてもらえるし、みんなが年取って行くようにあなたも経験という年を取るわ」

「ありがとう」

 アリスは一人、寝台から起き上がり窓の外を見ました。そこには、羽の生えた小さな人が飛んでいました。

 ふわふわと飛んでいた妖精の一匹と目があい、驚いたアリス。

 次の瞬間、列車は急停止しました。グラッと揺れる車内、アリスは転びそうになりました。

 緊急のアナウンスが流れます。

【いつもご利用いただきありがとうございます。現在、レール上に障害物があり、停止致しました】

 アリスとカグヤは、一体何事かと列車から降りました。

「わぁ、すごいキレイ」

 そこには、無数の妖精が飛び交っていた。その中の数匹がアリスに飛んで来て、列車の先頭を指差していました。アリスは、それに応えるように歩き出しました。


「おお、この女たらしめが。どうやって出てきた」

「言葉が口から出るように、運命の糸口から抜けてきた」

「ほう、淑女をたらしこんで出てきたわけか」

 マーリンは後ろに振り返ると、妖精たちをかき分けて出てきたアリスとカグヤが現れました。

「やぁお二方、こちらはワシの古い友人であり、口うるさい妖精の王だ」

 紹介された妖精の王は、ムッと顔をしかめて、マーリンの顔を蹴っぽりました。

「いたた」

 マーリンの肩に立っていた王は、その小さな羽を羽ばたかせて、枕木に刺さった剣の、ツバの上に降り立ちました。そして、アリスとカグヤに向けて、深々と会釈をしました。

 アリスは、それに応えました。そして、その可愛らしいおじさんの近くへ寄ってまじまじと眺めもしたのです。

「ようこそティルナノーグへ。当方、妖精の王オベロンと申す。この度…」

 マーリンは、剣の握りを握りました。オベロンの頭の上を手が掠めていき、オベロンは態勢を崩して下に落ちました。

「ワシが君たちの世界から出てきてしまったせいで、少しばかり厄介なことになっているらしいのだ。まず、この剣」

 ぐっと、マーリンは剣を引き抜こうとしました。しかし、びくともしません。

「持ち主を選ぶ剣でな、この剣が抜けなければ旅の終わり、動くことのない列車と共に永遠に君たちの世界に戻ることは出来ない」

 アリスは、もごもごと地面から起き上がるのを見ていて、そのことを聞いていませんでした。だけど、それを聞いたカグヤは、「まさか奇跡とはこのこと?呪いじゃない!」と怒りました。

 カグヤは、剣の柄を握り、思いっきり力を込めて引き抜こうとしました。

「くっ…!」

 うんともすんともいいません。何度も何度も力を込めて抜こうとするのですが、やはり動じません。

 オベロンが、飛びたち、カグヤの肩に乗りました。それを目で追っていたアリス、そしてカグヤの乱れっぷりに少し驚いて聞きました。

「どうしたのカグヤ、この剣が抜けないの?」

 肩で息をするカグヤは、剣の柄から手を離し、アリスに任せるところとしました。

「よっ、しょ」

 その時です。まるで、軽い物を持ち上げるようにして、アリスは枕木から剣を抜いてしまったのです。

「おお」と、オベロンが拍手を交えて感嘆の言葉を漏らしました。マーリンも、腕を組んでそれを見守りました。

 しかし、オベロンは一変して、「覚悟も理解もないまま、この娘は大きなうねりの中を進む舟となった」と憤りを見せながら言いました。

「私が櫂ある腕、そして網を持つ漁師になろう」

 と、マーリン。

「自ずから捕らえられるわけではなく、捕らえて離さぬならば、私の居るべき場所ではない」

 不機嫌そうにオベロンは、妖精たちを引き連れて飛び立っていってしまいました。

「ああ、行っちゃった…」

 アリスは残念そうに見届けました。マーリンもまた、オベロンの後ろ姿を見ていました。

 そんな二人のあいだにカグヤは進み立ち、マーリンを睨みつけました。

「確かに奇跡ね、でもそれとあなたを同行させるのとでは話が違ってきませんこと?」

 マーリンは、ぽりぽりと癖の強い髪の毛をかいています。

「運命を紡ぐ運命になったアリス、しかしその命運はまだ定まらず。暗い海を進む舟には光が必要だ」

「その光があなたってこと?ふん、ペテン師。勝手にしなさい」

 汽笛を上げる列車。

 カグヤはアリスを連れて列車に乗り込みました。

「さて、鞘のない剣を手に入れた。むき出しの刃は何を断ち切るか、ワシにも見当がつかん」


【作業が終わりました。ご乗車の皆様にはご迷惑をおかけして申し訳ありません。間もなく運行を再開致します】

「カグヤー、この剣離れてくれないの」

 アリスの後をついていく剣。まるで、アヒルの子のようです。どうやら、アリスの手の届く範囲まで近づくようで、アリスはツーっと近寄ってきた剣を手に取りました。

「剣を入れるものがないと危ないの、どうしようカグヤ…」

「せめて、肩にかけておきたいわね。待っててね」

 カグヤは、何か紐はないかと思いを巡らしましたが、どうも見当たりません。ふと、マーリンなら…と思いもあったのですが、そのことがよぎった時、振り払うように、「それはない…」と呟きました。

「マーリンなら何かいい案があると思うの!」

 アリスは、ぴょんとはねて、両手で部屋の扉を開けると広間の方へ駆け出しました。

 丁度その時です、マーリンが広間から出てきました。

「あっ」っと、走りながらマーリンを指差したアリス。剣は、それに習うようにマーリンに飛んでいきました。

「うおl;つあ!!」

 間一髪のところで、マーリンが避けたおかげで髪の毛の数本が切れただけに済みました。

「ごめんマーリン!大丈夫?!」

「あ、ああ。何とかね」

 あはは、と、苦笑いするマーリン。その手には布がありました。

「丁度、その剣を大人しくする物を用意したところだ」

「何この布?」

 アリスは、マーリンからそれを受け取りました。

 赤い布です。

 両手でそれをひらひらとさせて、裏地を見ました。

「あれ?」アリスの腕がありません。

 表地にすると腕は出てきました。

「すごい!魔法だわ!」

 裏地が表になるよう、花瓶にそれを被せました。するとどうでしょうか、花瓶はその形を残さず、すっぽりと布の中に消えてしまいました。それと同時に、どこからどこが布か分からなくなってしまいました。

「はいはい、これは遊ぶものじゃないの」

 と、マーリンは花瓶が置いてあったテーブルの、ある一点を摘んで持ち上げる仕草をしました。花瓶がそこにありました。

「嘘つきなんて言ってごめんね、本当に魔法使いなんだ!」

 ふぉふぉふぉ、と似合わない笑い声を出すマーリン。

「さぁ、剣をそこに置きなさい」

 マーリンは、床に指を指しました。うん、とアリスは、ぱっと手を差し伸べると、剣はアリスの手に収まりました。そして、マーリンの言うとおりに剣を床に置きました。

「これをこうして、こう」

 さきほどの布を裏地にして、剣に被せました。

「さぁ、剣を動かしてみなさい」マーリンは言います。

 アリスは、廊下を走り回りました。しかし、アリスが走るだけで何も起きません。廊下をバタバタと走る音に、カグヤが気になって、顔を覗かせに来ました。

「次は、剣を呼んでみなさい」

「呼ぶって、どうやって?」

 マーリンは、腕を突き出しました。

 アリスもそれを真似ます。

 すると、剣があらわになりアリスの手に収まりました。それを見て、カグヤは口を曲げます。

「これならば、必要な時に取り出せば良い」

 マーリンは、屈んでひょいと物を取る仕草をしました。もうお分かりですね、魔法の布を拾い上げたのです。布を被せると、アリスの腕から先がなくなりました。アリスはぎょっとして手を引っ込めると、何もないところからまるで腕が出来たようにして出てきました。

「うん、本当だね。ねぇ、マーリン。カグヤはね、マーリンが嘘ついてると思ってるの。本当は魔法使いなのに、だから、違うよってことを教えてあげたい!」

 カグヤは、それを聞いたとたん部屋に切り返しました。


「“案内人の水先案内人を認めることだ”…認めるもんですか…」

 そう、うつむきながら呟くカグヤでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ