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 列車に乗ったアリスは、どうして良いものか、とカグヤの後ろを付いていくのでした。

「ここが寝室。二段ベットになってるけど、一緒の部屋で寝るかしら? それと、この通路の先には広間があるわ。そこで食事もとれるし、風景を見たいならいると良いわ」

 コクっとうなづいたアリス。

「広間で、出発を待ってから最後尾のバルコニーに行きましょうか。ちょうどお昼ですし、軽く食事をとりましょう」

 まるで、乗ったことがあるような言い方、きっとこういう列車が他にも、そう、カグヤの世界にあるのだろうと自分を納得させたアリス。

 そうして、人一人分が通れる通路を歩いて、カグヤがドアを開くと広間が広がりました。

 そこには既にお菓子が積まれたティースタンドが置いてありました。

 カグヤは、平然とテーブルに付くと、ちょいちょいと手招きしました。アリスは、それに招かれるようにテーブルに付きました。

 肘をついてニッ、とカグヤが笑うとポーッと列車は汽笛を鳴らしました。

【フェリー乗り場まで発進致します。発進直後は揺れますので、席にご着席くださいますようおねがいします。】

 どこからともなく、アナウンスが流れました。

「詠行について説明しなくてはいけませんね」

「はい、お願いします。なんですかそれは。わたしが旅に出ることに関係が?」

「そうよ、アリスの血を引く血統者は皆、自分の世界を離れて、別の世界に行くのが習わしよ。本は読んでおいでで?」

「本?」

 何か思い出したように、「あー…」と言葉を漏らすアリス。

「本というのは台本ね。でも、わたし、お母様に旅に出なさいと言われたから…」

「劇の内容をしっかり詠み込んでないのね。私、しっかり覚えているから復習せずに毎日お散歩しているのだと思ってたわ」

「だって、その…演劇をするまでもなく、みんな知ってる話だし…」

「大切なことだから忘れないように、何度もいつまでもやるのよ。伝統ね。まぁ、確かに誰しもが知っている話だから、私も滅多なことではやらないけどね」

 パクっと、お菓子を頬張るカグヤ。

「カグヤも、大きな壁が出来た劇をするのね」

 真似するように、アリスもお菓子をパクっと。

「ええ、するわ。ただ、世界が違えば話の流れが変わってくるものよ。あなたの世界のお話はあなたのお母様が私の世界で披露してくれて、今でも覚えているわ」

 ふーん、とふたつめのお菓子を飲み込んだアリス。

「わたし、少し興味が湧いてきたわ。なのに台本を忘れてしまったのが本当に悲しいわ」

「そうね。でも、悔やんでも仕方がないわ。悲しいことを乗り切るのが人生よ」

 カグヤは窓を見ると立ち上がり、ドアに向けて指を指しました。

「お母様の問題、解かなくちゃね」

 アリスは、窓の外を見ると、赤い花びらが舞い飛んでいる風景に驚きました。

「バルコニーへ行きましょう。皆が待っているはずよ」

「うん」

 アリスは、走って最後尾へ急ぎました。

 窓の外には、色んな人が通り過ぎていきます。列車は、人が走るより少し早く、それでいて少しづつ速力を上げていきます。

 みんなが、わたしよりも先に行ってしまうみたい、これじゃあどっちが旅立つのかわからないわ。

 バルコニーのドアを開けた瞬間、花びらが車内へと舞い込みました。アリスはとにもかくにも、町中の人が見送って行くさまをみました。

「行ってきます!」

 街の端に、住人が集まっていくのがわかります。手を降っている姿の中に、アリスの母がいるのが見えました。それが分かったアリスの胸には、ふっと一握りの不安が期待に満ちた感情に落ちて波紋が広がるのを覚えました。

「さぞ、アリスのことが好きなのでしょうね」

 遅れてカグヤがバルコニーに出てきて、そう言いました。

「うん、わたしも好きだったって気づいたわ。だから、帰ってこなくちゃね…」


 小さくなっていく街、地平線いっぱいまで世界が見渡せるほど小さくなっていく、延々と続く田園の中にそれが埋もれていくとアリスとカグヤはやっと車内へと戻りました。

 と、その時です。

 カグヤはアリスに止めるように手をかざしました。

「二人きりの旅ではなさそうね」

 カグヤの目つきは、鋭く尖ったナイフのよう。その視線は廊下の先を見ていました。

「誰かいるの、ねぇカグヤ」

 黙って空を見つめるカグヤ。

「危害は加えないよ」と、突然どこからともなく声が聞こえてきました。

「むしろワシは、この列車を動かしてくれたことに感謝していてだね、君たちに黙っていて悪かったが、まぁ交わることが許されていないからね。黙っていたというわけだ」

 カグヤは振り返り、バルコニーを見た。

 先程までアリスとカグヤの二人しかいなかったはずのバルコニーだったが、いま、手すりに寄りかかりこちらを見る若者がいた。

「ワシの名は、マーリン。魔法使いだ」

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