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魔法令嬢、辞めたはずですが?  作者: 里見春子


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閑話・ステッキの呟き


 皆様初めまして。

 私はステッキ。名前はありません。

 正式には、対魔族特化型魔力稼働器具……という名前もあるようですが、まあ、ステッキという仮称で特段問題はないでしょう。


 長たらしい方の名前から少しばかりお解り頂けるかもしれませんが、私はとある目的のために作られました。その目的は、魔族が平行世界間に無理やり開けた(ゲート)を塞ぐこと。それと付随して、その門から侵入してしまった魔族を討伐すること。

 門と魔族は……芸術作品に落とされたインクの染みのようなものです。その染みは、放っておけばじわりじわりと作品全体に広がり、作品すべてを覆い尽くしてしまう。その染みはこちらの世界にはあってはならないものです。

 だからこそ私の主は私を作られ、そしてエルフの国同様に門が開かれる、人間の国に派遣されました。我が主は大変に素晴らしい方です。



 人間の国で魔族の討伐と門の閉鎖を協力者を探すに当たって、条件はいくつかありました。

 まず、思慮深い人間ではないこと。程よく世間を知らないこと。運動能力が高いこと。正義感が人並みよりも強いこと。そして、少女であること。これが最低条件でした。


 エルフの国と人間の国は、国交を絶っている状態。その中で、エルフからの要望に応えてほいほいと身を差し出す頭の軽さがなければ、まず物事は始まりません。「誰かに叱られたらどうしよう」、「バレて今後の立身に差し障りがあったら……」と考えられてはたまりませんから。

 そして万が一我々に協力したとしても、裏で計算を働き、逆に我々を騙すような性格の者でも満足に共闘することは出来ません。

 よって、程よい馬……思慮が深くない方を望んだというわけです。 

 いえ、別に我々も詐欺を働きたかったわけではありませんが、やむ無く、という訳です。


 運動能力と正義感については言うまでもありませんが、少女であることというのは我が主の趣味100%です。

 何でも、可愛らしい少女が闘う姿を見守りたいか何とかと言うことでしたが。既に「可愛らしいこと」という新たな条件が追加されているじゃないか、ということに関しては私は特に追求しませんでした。

 我が主は大変素晴らしい方ですが、同時に欲望にも真っ直ぐな方なのです。いいえ決して変態ということではありません。



 そうして、我々が選んだ御方はルリエル・ディフロンションという14歳のご令嬢でした。

 

 国と大陸を守るため、と私を手にし、魔法令嬢──これは我が主の命名ですので、悪しからず──となったお嬢様を見て、我が主は大変に感銘を受けておりました。あの瞬間、「尊い……尊い……」という声が私の頭を満たしておりました。

 魔力の馴染みも何ら問題なく、初めての飛行もあっさりとこなし、今自分が国の外交法令を完全に違反していることを気付いているのかいないのか、という様子のお嬢様は、まさに我々の理想の方()()()


 そう。

 我が主が思い浮かべていた魔法令嬢像は、"麗しきご令嬢が初めて身体を酷使しながら恐ろしい強敵とやっとの思いで対峙し、慣れない魔術(例とするならウォーターボールやファイヤーウォールあたり)を何とか扱い、恐怖と戦いながらも正義のため立ち上がる。決め言葉は『(わたくし)がこの国を護ってみせますわ!』"。そんな魔法令嬢()()()


 が、お嬢様は斜め上を行かれました。

 恐怖していたことと、麗しい令嬢であるところまでは一致していました。

 しかしお嬢様はあっさり恐怖を克服し、そしてあろうことか私を使って、魔族の攻撃を打ち返したのです。

 参考にしたのは貴族の中で流行っている球技の一技であるようなので、まあお嬢様ならではと言えばそうなのかもしれませんが、「なんか違う」感が否めませんでした。

 焦って自己強化の魔法と結界を張ることが出来ましたが、ダメージは大変なものでした。精神的な意味で。いえ、私に精神というものは本来ないのですが、あの時目覚めました。自我の確立です。

 魔族の溢れんばかりの魔力を以ってして作られた槍なですから、破壊力は約束されているようなもの。それにゼロ距離でぶつかっていくのですから、それはそれは、大変に恐ろしかったです。

 槍を打ち返す際には結界を張り、それ相応の魔法を行使しましたが、私に槍を当てるという行為まではお嬢様自身の力。超高速で細身の槍を同様に細い私に正確に当てた訳ですから、その反射神経恐るべし、と言うべきでしょう。が、やはり思わず叫びそうになりました。怖くって。


 

 結果として見れば、お嬢様をパートナーとして選んだのは正解でした。人間の国側に開けられた門を無事、塞ぐことが出来たわけですから。

 が、やっぱりお嬢様は「なんか違う」感に溢れる方でした。時折、貴族のご息女とは思えないトボけた発言をしたと覚えば、次の瞬間にはまた私を使い、聖魔弾(セイクリッド・ボール)を打ちまくる。華麗なステップで相手を翻弄させ、蹴りをお見舞いする。

 『なんか違う!!!』そう悲痛に叫ぶ我が主の声が、とても心に染みました。


 しかし、『次こそは愛と正義と恐怖の狭間で揺れる魔法令嬢を見たいよ…………』とぶつぶつと呟く我が主は、まるで悪役かのようでした。いいえ、私の主は決して悪い方ではないのです。ただ、欲望が口に出やすい方なのです。

 我々も悪かったのでしょう。そもそもの前提として、お嬢様は魔法をほとんど見たことも無く、平和の中で生きてきたご令嬢。そんな彼女に強い攻撃をイメージしろ、というのが無茶なことだったのです。予め、我が主が目指す魔法令嬢の使うような攻撃のデモンストレーションを見せておくべきだったのです。

 そうして私は、一旦(・・)エルフの国に呼び戻されました。二つの事態について作戦会議をするためです。ひとつは、お嬢様がどうしたら我が主の目指す魔法令嬢像通りになってくれるか、もうひとつはーーこちらが重要なのですがーー再び動き出した魔族にどう対応するか。

 

 はてさて、次にまた人間の国に戻った時、お嬢様がどのように戦うのか。それは私の精神衛生上において、何よりも大切なことです。

 とりあえずは一度、私の体をメンテナンスするために、もう一度人間の国に向かいましょうか。大分歪んでしまっていますからね。



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