15 魔法令嬢、平行世界に侵入しました。②
あまり顔色の良く無い2名が誕生したところで、いざ門の向こう側へと向かうことになった。
《これで恐らく改めて申し上げますが、向こう側は未知数の世界です。まして生身の人間が本来向かう場所ではありません。どうぞ、十分に注意をしてください》
「うん、分かっているわ」
「覚悟の上です」
門の向こう側への行き方はステッキが主導した。とは言え門の封印と反対のことを一瞬するだけだ。人一人が超えられるだけの穴を開け、そこから奥へとよいしょと潜り込む。足音を立てないようにつつつ、とつま先立ちして門へと向かうルリエルの姿はベテランのこそ泥の様であった。
ルリエルの側からは絶対に離れないと覚悟を決めて同行しているエリオットであったが、魔族側の領域に入り込むことには流石に恐怖や抵抗を感じる。門を越えようとするその瞬間は特にその思いは濃かったが、先を行くルリエルがあまりにも躊躇いなく勇ましく進んでいくため、決してそれからは離れないと思いを固めた。
門の向こう側は直接平行世界に繋がっている訳ではなかった。前も後ろもわからないほどの黒い空間が広がっていた。熱くて重くてねっとりとした空気が篭っている。ステッキが「こちらです」という声がなければ進む方向は分からない。
暗闇は人の精神力も体力も奪う。特に終わりが見えない場所ではなおさらだ。普段は感じないような種類の疲れを爪先から順に感じ始めたその時、「着きました」という声が聞こえた。
「ここが……平行世界なの?」
もともといた、王宮近くの森の中のような場所だった。地形はとても似ているように感じた。ただ、その土の様子、生えている木、そして空の様子全てをとっても知っている世界とは違うものだった。とにかく全てが黒い。世界中に黒のインクを被せたように黒い。空には月も星も見えない。
《この平行世界はある程度、あちらの世界を反転している部分があるようなので、お嬢様の知っているような場所があるかもしれません。しかし、あくまでもここは魔族の世界。油断はされませんように》
ステッキの声色もいつもよりも真剣味が増している。
「ルリエル嬢、少しあの木に隠れましょう。足音がします」
急いで姿を隠すと、しばらくして魔族が2人やってきた。一人は身体の全てのパーツが細く、そして恐ろしく長い。 対してもう一人は子供のように小さな身体をしていた。先ほどルリエルたちが超えた門があった辺りを眺めて何かを話しているように見える。
《恐らく一度門が開いたことに気がついたようですね。ですが、こちらの存在には気がついていません。認識阻害の魔法薬は成功ですね》
2人の魔族はしばらくして森の奥へと消えていった。押さえていた息を吐き出して、一同が倒れ込む。
「……なかなか初手から緊張感がありますね」
「これ、門を超えてきたところに魔族がいたら一発アウトなんじゃ無いのかしら……」
門を開けたら魔族とこんにちは、はとても嫌だ。
《繋ぐポイントはある程度選定しておりますのでそれはご安心を。それより、あまりここに止まっているのは危険なようですね。今日は森を抜ける程度までの探索をしましょう》
木も土も、空も真っ黒なので、進行方向はわかりづらい。白と赤の派手な色味のルリエルだけが、モノクロの世界でそこだけ色を取り戻したように鮮やかであった。
ちなみに飛行魔法は最低限に止めた方が良いということで温存している。
「どうやら、この森は円形になっているようですね」
《おかしいですね、推察ではこのような地形ではなかったはずなのですが……》
森の端には少なくとも100m以上の壁が立っており、それが円形にぐるりと続いている。しかも真っ黒なので気がつかなかったがよくよく見ると、その100mの上空には一面に細かな格子がはめられている。これでは仮に飛行魔法を使ったとしてもあの格子があり、外には出られないだろう。
「なんだかまるで、檻のようですわねぇ」
ふと思ったことを口にすると、ステッキとエリオットが「あ」という声を出した。それを世の人はフラグ、というのかもしれない。
ずしん、という音が遠くに聞こえた。




