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魔法令嬢、辞めたはずですが?  作者: 里見春子


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10 魔法令嬢、学園で突撃しました。②

 

 ルリエルはぎごごごごごと機械的に首を動かし、その青年から目を逸らした。

 その特徴は紛れもなく、この国の王太子殿下であるエリオット・ウィ・エヴィリアーテと一致していた。

 それに、よく考えればここは王族専用の寮だったかもしれないと、今日学園の案内をしてくれたマリーメイの言葉を思い出した。

 これは多分、完全に詰み、だ。


 こういう時はどうするか。答えはひとつだった。


「ずらかりますわよ!!」


 飛行魔法を展開しようとしたその瞬きひとつ分もないタイミングで、ルリエルのステッキを握る右手が掴まれていた。

 すぐ目の前で、美麗な顔が微笑みを乗せている。


「そんなに急がなくても大丈夫ですよ、ルリエル・ディフロンション嬢?」


 ルリエルはひゅっと掠れた空気を漏らした。笑っているけれど、この青年が怖い、とそう思った。


 魔法令嬢と美麗な王太子が腕を掴み、向き合っているという奇怪な状況がたっぷりと続いた。ルリエルはその間思考をめぐらせていたわけではない。完全に考えはストップしていた。あわわわわ、と今すぐ泡を吹きそうなほどだ。


 しかし、逆にそういう時こそ本能に全力で振り切った行動が出来る。

 兎にも角にもここから逃走しなくてはならないと思った。

 辛うじての力で掴まれている方の手からステッキを飛ばす。関節がごき、と鳴ったが痛みは感じない。そしてもう反対の手にステッキを移し、全力でステッキの周りにのみ物理保護を展開した。

 右手を捻りあげるようにして青年の腕を絡ませて、それから思い切り振り切る。受け身を取りに入った青年の一瞬の隙を突いて、左手のステッキに渾身の力を込めて叩きつけ、床に穴を開けた。


 破壊音が消えないうちに、ルリエルは塔の床から真っ直ぐに落ちて行った。


 *


 翌朝、ルリエルは寮のベッドで目を覚ました。

 きちんと布団を掛けて、ぬくぬくと朝を迎えていた。少ししてから目覚めの一杯をルーモスが運んできてくれ、その香りを楽しみながら、ちゅんちゅんと鳴く鳥の声を感じていた。

 しかし、その鳥を見て、連想ゲームのごとくステッキを思い出し、そして昨晩のことを稲妻のように思い出した。


「あああああああ」


「お嬢様ッ!?」


 奇声を上げたルリエルの元にルーモスが近づいた。

 昨晩のルリエルの朦朧とした様子と、埃っぽい匂いを纏わせていたことを思うと何かしらがあったことは察していたが、疲れている主人を休ませるのが執事の仕事。ルーモスは何も聞かずに清潔で暖かな部屋にルリエルを迎え入れて、休ませた。

 支離滅裂なルリエルの言葉を繋ぎ合わせ、つまるところ王太子バレしたということを理解した。


「というか何で貴方、あんな王太子の部屋に直撃するようなことをしてくれたのよう」


《申し訳ございません、そうしないと話が色々と進まなさそうでしたので》


 けろりとした口調でステッキが答えるが、実は昨晩床に打ち付けられた時の衝撃が少しトラウマとして残っていた。


「では……先日のデビュダントの際にいた青年と、エリオット殿下が同一人物だと?」


《そうですね。うまくエリオット様の気配を全て隠していたようですが、あの青年と同一人物です》


「なんてこと……」


 その後、王太子殿下を埋める埋めない、殴って記憶を奪う奪わないという話が続いたが、すぐにマリーメイが部屋まで迎えに来てくれたところで、話は中断した。

 ちなみに、昨晩外した関節は物凄く痛かった。


 事の大きさは学校に行くどころの話ではないのだが、根っこの根っこ根っこは真面目故、マリーメイが迎えに来てくれたのに断ることはできなかった。それに、3年生とルリエルたち1年生では学園内の棟も違えば共通するところはない。カフェテリアも講堂も全て区切られている。逆に寮にいる方がすぐに見つかってしまうのではないかと無理矢理に考え、初めての学園生活を開始した。


 完全お登りさん状態のルリエルは、最先端の学園のハイソな授業に目を白黒させていた。

 ランチは美味しく、学園は綺麗で、授業の質も高い。マリーメイの繋がりでご令嬢たちを紹介してもらい、新しい学友もできた。

 最初は初めてだらけの学園をエンジョイしていたルリエルだったが、夕方が近づくにつれて昨晩の出来事を思い出し始めていた。


「ねえ…マリー……私がもし、国外追放になっても、友達でいてくれるかしら……」


「もう、急にどうしたのよ。あなたが国外追放されるってどういう状況?」


「どうともこうとも言えないのだけれど……」


「王家にでも喧嘩を売ったの?間違って王族専用の寮とかに入り込んだとか?」


 あまりに的確なコメントへの衝撃にあんぐりと口を開けた。しかし、ふいっとすぐに横を向いてしまったマリーメイはそれに気が付かない。


「ま、まあパラフォン家は他国との貿易も多いし、たとえどの国に行ってもすぐに会えるわ。その、ずっと友達よ」


「ううう、マリ〜〜〜好きよ〜〜〜」


 がしりとマリーメイをハグすると、マリーメイは「やめなさい!」とじたばたとした。

 万が一国外に追放されてもやっていけるかもしれない、と一筋の希望が見えたその時。


「ルリエル・ディフロンション嬢?」


 と、背後から声がした。

 聞き覚えがあるようなという程度の声に振り返ると、騎士のような体躯で、ダークブラウンの髪を撫で上げた青年の姿があった。琥珀の瞳が夕日を浴びて宝物のように光っている。

 それは先日デビュダントで見かけたばかりの青年の姿だった。「まあ」という感嘆の声がマリーメイから上がる。


「俺は3年のリージュ・アイリス。ルリエル・ディフロンション嬢に話がある。少し時間をいただけるだろうか」


 低い声で言葉少なにそう言うとそのまま歩き出した。

 ルリエルとマリーメイは一時目を合わせると、マリーメイは黙ってルリエルの肩にぽん、と手を置いた。行ってこい、と言うように。


 背が高く、一緒に足も長いリージュはルリエルよりも一歩一歩の歩幅が大きい。ただ、常に半歩前程度を歩いているところを見るとスピードを合わせてくれているようだ。

 ただし、呼吸音が聞こえないほどの見事なサイレント状態のまま、学園の奥へ奥へと歩いていく。学園のどこに何があるか分かっていないルリエルとしては、どこへ連れて行かれているのか全く分からない。ただただ直線リレーが出来そうなほど長い廊下を歩いていくだけだ。


「あ、あの、リージュ様。どちらへ?」


 たっぷり10分ほど歩き、特に考えなしのルリエルでもさすがに気まずさを感じて声をかけると、リージュは「生徒会室だ」とだけ答えた。そして数分してからとある部屋の前でぴたりと立ち止まった。

 金と紅色の特に豪華な装飾を施されたその扉には、たしかに生徒会室と書かれていた。


「まぁ素敵な扉ですわね」


 と感想を言うと、リージュは頷き、その扉を開けた。

 高価なアンティーク家具特有の香りと、それからインクと紙の匂いに溢れたその部屋の中で、一等大きな椅子に腰掛けているのは昨晩見たばかりのエリオット王太子殿下。


「やあ、ようこそルリエル嬢。まずは紅茶でもいかがですか?」


 180度回転して部屋を出ようとしたが、既に重厚感たっぷりの扉は閉められている。しかも、リージュの姿もいつの間にかに消えている。


「リージュには貴女の案内を頼んだのですよ。私が直接出向いてもまた逃げられるだけだと思いましたから」


 慣れた手つきでエリオットは紅茶を淹れる。王宮御用達の一級茶葉だ。ふわりと良い香りが漂う。しかもサイドにはスコーンも添えられている。食にはすぐに誘惑されるルリエルだけれど、今はさっくりと美味しそうなスコーンは目に入らなかった。

 さあ、とエリオットに椅子を指し示されて、半ば強引に着席させられた。

 遠くから見た時の絵面としては優雅なお茶会に見えるかもしれないが、ルリエルとしてはほとんど取調べ場のような気持ちであった。取り調べられたことはないけれど。


「そう緊張せずに。先日も言ったではありませんか。『密告だとか、糾弾するつもりはありません。ただ貴女が何をしているのか知りたいだけ』だと」


 それはまさに先日あの癖毛の青年が言っていたことと一語一句違わなかった。


「本当にエリオット殿下が、先日の御仁なのですか……?」


「ええ、そうですよ。姿を変えている方が何かと出歩くのに便利ですから」


 しかし、骨格から声色まで変えるのは、変装のレベルを超えている。一体、どういうことかとルリエルが思っていると、


「あれは魔法器具を使っているのですよ。姿変えのね。魔法省に勤めている友人がいるものですから、少しばかり拝借しているわけです」


 考えを読まれた、とルリエルは顔を青くさせた。

 魔法省というのは、この国内で数少ない貴重な魔法使いを国中から集めている国家機関だ。王家直属の機関ではあるが、そう簡単に値段もつけられないほど高価な魔法器具を拝借できるとは思えなかった。

 やっぱりこの方なんか怖い、それがルリエルの本能からの感想だった。


「私はずっとずっと貴女を探していたのですよ、ルリエル・ディフロンション嬢。2年前の王宮の塔に居た際に空を翔ぶレディの姿を見かけてから私はずっとずっとその人を探し続けていました。こうしてまみえることをどれほど願っていたことか……」


 だんだんと言葉に熱っぽさが込められてきて、ルリエルは「ん?」と思った。

 そして2年前に目撃されたというのは、頭の中遠くに心当たりがあるような気がした。確かにあのステッキと出会った初日、王都へと飛んでいくその最中に誰かに見られた気はしていた。ただ、かなり距離は離れていた上に夜闇に包まれていたこともあり、正直何かしらの物体が飛んでるのが分かるか分からない程度だろう。

 やっぱりまだ、知らぬ存ぜぬで押し通せるのではないかと希望を見出した。


「あの、エリオット殿下……恐れながら私何のお話か分かりませんで……」


 ルリエルは目が泳いでいる上に、冷や汗をたらりと流している。とてもわかりやすく誤魔化そうとしていた。


「私は昔から視力が良くてね。あの特徴あるドレスにステッキ、髪色に背格好まで全て記憶の中の姿と貴女は一致しています。紛れもなく、昨晩私の部屋に飛び込んできたのも貴女です。あの近距離では視力云々はもう関係ないでしょうが」


 それに、と続けた。


「貴女から私の部屋にある香水の香りがします。昨日部屋に落ちてきた時に溢れたのでしょう。あれは特注で作ったものですから、貴女が持っているはずが無いのですが」


「あれ?いえ、香水など溢れていなかったと思いますが……」


 くんくんと自分の腕の中を嗅ぎ、そこまで言って、はっと思った。これは完全に罠に掛かってしまった。


「そうですね。その通りです。ですがそれはもう認めたということですね」


 美しい顔に笑顔を浮かべたエリオットが、ルリエルには大魔王に見えた。



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