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第一話 セクシャライザー、大地に勃つ! 3

 

「えっ?」




「ん?」




 俺が返した答えは、相当に予想の外にあったらしい。ポカンとしている謎生物、自称正義の神ことライズは、俺の返答が理解できなかったようで、律儀に頭の上にクエスチェンマークを浮かべやがっている。

 むしろなぜそんなに自信があったのか。




「も、もっかい言うっショ?キミに、ヒーローになってほ」嫌です」





 ………






「キミに、ヒ」お断りします」




「キ」勘弁して下さい」






 ………完封勝利。





「ということでこれで、じゃ」


 俺は、出口と思わしき扉に手をかけ…

「ま、ままま、まってくれっショ!!!なんでそんなすぐ帰ろうとするっショ!あと、なんで出口見つけられたっショ!?」



 慌てるライズだが、そんなことはわかりきっている。

「そりゃこんななんも無い部屋にポツンと『非常口』って書かれた扉があれば気づくに決まってんだろうが!しかもご丁寧に誘導灯まで設置しやがって!馬鹿にするのも程々にしろ!」

「仕方ないっショ!!!非常口ちゃんとつけとかないといろんな所がうるさいっショ!建築基準法とか色々あるんっショ!!!」


 いわゆる、『オトナの事情』とかいうやつであろう。

 ちなみに事と情を逆にすると、『オトナの情事』になって、エッチだ。


 もう一度言う。エッチだ。






 もう一度言っておこう。エッチだ。


 だがまぁ、知ったこっちゃないので、

「さいなら」

 帰ることにする。


「ちょちょ、ちょーっと!!!マジで!?マジで帰っちゃう系っショ?」

「だから帰るって言ってんじゃねーか」

「いや、ね!それはまあ、ね!さすが冗談とかだと、ね!」

「帰るよ」

「いやマジで、ちょっとだけ待って!ちょっとだけだから!損はさせないから!マジで!!!っショ!!!!!」


 必死である。

 もう語尾いらんだろ。


「じゃあ何してくれるっていうんだ」

「そ、そりゃあ、その、あ!洗剤!洗剤とか!あと、来週の巨人戦のチケットとかもあるっショ!」


 新聞の勧誘レベルじゃねーか。


「俺を動かしたいならせめてかわいい子連れて来い」

「はぁ…わかった!わかったっショ!とりあえず呼べばいいんっショ!なら、ワイルド系か、ケモ系かどっちがいいっショ?」

 お、おお、いるんじゃないか、ジャンルが狭いけど。


 まあ、そうだな、まずワイルド系といえば『ギャップ』であろう。

 こう、男勝りで強気な感じだけど、実は攻められちゃうと弱かったり、普段着はかっこいい系やボーイッシュな感じだけど、実はぬいぐるみだったりフリフリだったりのかわいいものが大好きだったり、人前ではあんまりいちゃつかないどころかアネキ肌っぽい感じだけど、人目が無いところではあまえてきちゃったり、などのギャップ。良いよね。



 だが、これらの『ギャップ』だけで満足するのは二流、いや三流もいい所だ。

 ワイルド系を語るなら、『ギャップ』を指摘したときの『羞恥』であると俺は述べたい。

 女の子の恥ずかしがる表情。あれはいいものだ。とてもいいものなのだ。

 普段『ワイルド』な女の子が、『羞恥』する。



 それはなんと美しく愛らしい『ギャップ』であろうか。



 そして、実はそんなかわいらしい女の子が、自分のピンチには『ワイルド』に助けてくれる。

 いつもはなんだかんだかわいい女の子だと思っていたが、落ち込んだときはめちゃくちゃ頼れる『ワイルド』な一面を再確認する。



 なんと激しく力強い『ギャップ』であろうか。



 つまり、ワイルド系とは、様々なギャップが楽しめて、守る喜びと守られる喜び、友情と愛情、強さと弱さ、相反するものを兼ねそなえた、一粒で二度どころか十度も二十度もおいしいジャンルであるといえよう。




 あと、エッチな事に積極的そうで、いいよね。




 次に、ケモ系といえば、『ピュア』である。

 この『ピュア』というのは、いやらしい事や悪い事を知らない、いわゆる「清純系」のことではない。

 ここでいう『ピュア』というのは、自然の中で生まれ育つ、つまり「野生」のものであるためそういった行為などに対してまったく忌避感をもっておらず、むしろ当たり前のこととして受け止めたり、信頼する人間が言ったことは無条件で信じたりする、有り体に言えば『アホ』のことである。



 この『アホ』の威力は単純だが、それゆえに高威力である。

 想像してみてほしい。

 自分とのそういった行為にまったくもって忌避感が無く、むしろ自らの遺伝子を残すための行為として嬉々として励むその姿を。

 自分に対して絶対の信頼を置き、自分が言ったことは盲目的に信じてくれるそのひたむきさを。

 そして、真の「無邪気」、純度百パーセントのその笑顔を。



 また、獣というものは、「群れ」を作る。

 群れのボスの言うことは絶対で、ボスが自分以外に何人でも囲おうがその中に自分がいれば何も問題は無い。そして、積極的に群れを大きくしようとする。

 と、いうことはだ。


 どんなにたくさんだろうが同時に女の子を愛することができ、どんなことでも女の子は自分のお願いを聞いてくれて、なおかつそのことに対して女の子が不満を持つことなんて無い、むしろ女の子が増えていくというぼくのかんがえたさいきょうのはーれむが完成するのだ。


 しかもケモミミ、ケモシッポ標準装備のおまけつきだ。


 野生最高、野生最強。




 あと、エッチな事に積極的そうで、いいよね。





 長くなった。後悔はしていないし反省もしていない。

 だがこれほどの二大ジャンルだ。

 こうやって語るのも、そしてどちらかで悩むのも、仕方ない。仕方ないのである。


「あの、どうしたっショ?」


 謎生物こと正義の神様が不審げに覗き込んでくる。



「決められねぇ、決められねぇよぉ…」



 返事の代わりに涙があふれた。

 止まらない。

 だっておとこのこだもん!


「なら二人とも呼んだらいいんじゃないかっショ?」

「え、そういうの、アリなん?」

 クソ無駄話であった。

 ごめんなさい。

「別にナシとは言ってないっショ」

 この偽ゆるキャラ、はっ倒してやる。



「二人ともでお願いします!!!」

 代わりに人生最高にキレのいい土下座をぶちかましてやった。

「お、おぉ…わかったけど、態度変わりすぎっショ…まあいいや、じゃあ、二人とも、出番っショ!」



 すると、どこからかカーテンが降りてきた。

 カーテンにはスポットライトの光がいくつも交差し、俺の心を囃す。



 期待感を煽るドラムロール。




 粋な奴め。




 スポットライトの焦点が徐々に集いはじめ、ドラムロールも最高潮。




 俺の期待感がマックスになったとき、カーテンが勢いよく持ち上げられた。























 ゴリラみたいなオッサンと、オッサンみたいなゴリラがいた。







 俺は勢いよくドアから飛び出した。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 気がつくと、そこは路地裏だった。


 よくわからん空間も不細工なゆるキャラも、そしてあのおぞましい、口にするのも憚られる化け物共も、どこにも存在しなかった。


「離せっ!ベルトにっ!触るんじゃ!ないっ!」


 そして俺はといえば、死にかけヒーローのベルトを引っ掴んでいた。

 そのヒーローはといえば、陸に打ち上げられた魚のように跳ねている。

 なんだかんだまだ元気なようで安心である。


「とりあえず、夢でよかった」

「む…夢、だと?」

 そんな心からの呟きに、血まみれマント野郎が反応した。


「少年、それはどんな夢だった?」

「どうでもいいし、思い出したくも無い」

 嫌な事を思い出す前に、さっさとこいつを病院に連れて行こう。ついでに俺も脳外科かなんかに相談しに行こう、と思っていたのだが、



「もしかして、夢に、『ライズ』と名乗る神が出てこなかったか?」



 その言葉に、足を止めざるを得なかった。

「デ、デマセンデシタヨー」

「やはり出てきたのか、ということは…」


 やっぱりアレは現実だったらしい。

 せめて夢であって欲しかったんだが。



 というか、またまた嫌な予感がする。

 もういいや、ヒーローとか勝手にのたれ死んどけばいいし、帰ろう。帰るんだ。俺は帰るぞォーッ

 !


「ということでこれで、じゃ」

「待ってくれ!」



 待たない。



「キミに、ヒーローになって欲しい!」


「だから嫌って言ってんだろうが!」



 立ち去ろうとするが、右足が動かない。

 この死に損ない、俺の足首を掴んでやがるのだ。


「嫌っつってんじゃん!?嫌っつってんじゃん!?」

「頼む!一生あのお願いだ!」

「知らん!赤の他人に一生のお願いをするな!いでででで!足が千切れる!千切れちゃう!」

 これでもかと足を握り潰しにかかってきやがった。

 なんだったら今ここで一生を潰えさせてやろうか。



「わ、わかった!なら、私がなんでもひとつ言うことを聞いてやろう!」

 刺し違えてでも帰ろうとする俺に、ヒーローが苦し紛れに叫ぶ。




 馬鹿なのかこいつは?

 かわいい女の子の「なんでも」にはおっくせんまんの価値があるが、野郎の「なんでも」に価値は無い。

 プライスレスの逆、あふぉーだぶるとかいうやつである。

 なんかゆるふわ感がすごい。


 と、ここで俺の脳に閃光走る。


「なら、お前の女友達を、紹介してくれ!」


 そうである。

 相手はヒーローなのである。

 中身はイケメンムキムキ高身長、さわやかスマイルで女子にも大人気、クラスの中心人物でスーパーリア充パーリーピーポーまっしぐらみたいなやつに決まっている。

 そんな奴には女の子なんてよりどりみどり、ビュッフェスタイルなのだから、おこぼれにあずかるくらいはかまわないだろう。


「な、いいだろ?」

「いや、それは、その…」

 赤いマスクは口ごもる。


「なんだよ、もったいぶるなよ!どうせお前みたいな奴はリア充のハーレム野郎のクラスの中心人物で『それじゃあグループ作って〜』って時に女子多めなグループに取り合いになってたり、女子の誕生日会に毎回呼ばれたり、はないちもんめで一番最初に選ばれたりしてたんだろうが!たまには余りもんくらい分けてくれたっていいだろうが!!!」


おっと、本音とか涙とか色々出そうだったけど、これでも堪えたほうだろう。


「それが…いや…でも…しかし…」

赤マスクはうんうんと唸っているが、遂に観念した。

「…わかった。君がヒーローになってくれた暁には、私の友人を紹介しよう」

「ただの友人じゃなくて『女友達』だからな!それもなるべくかわいくて美人で優しくてフレンドリーで俺みたいな奴でも…「わかった!わかったから早く!時間がないんだ!」


そう急かすない。


「早く変身しないと、奴らが!」

「わーったよ、で、どーすんの?」

「このベルトを強く握ってくれ!」

ベルトをガチャガチャやって取り外し、手渡してきた。

「え?そんだけ?」

「ああ!それだけでいい!」

「あ、そういや、さっきの女友達!絶対に彼氏持ちとかやめてくれよ!ぬか喜びとかシャレに「サッサと!握れ!!!!!!!!」


ブチギレですやん。

しゃーない。



俺はほんのりあったかいベルトをギュッと握り締めた。








そして、眩い光に包まれた。



本日二回目である。


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