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第一話 セクシャライザー、大地に勃つ! 2

「は、なあああああぁっ!!?!?」



 たぶんそれは自らの上げた叫び声だろうが、そんなことすら頭が認識できないほどに俺は混乱していた。


「ぐっ……」


 だが、そんな声に気がついたのか、赤いスーツに身を包んだガタイのいい男は、ピクリと反応を示した。


「だ、大丈夫ですかっ!!!」


 俺は、ヒーローの様な勇気や正義感など1つも持ってはいないし、持ってたまるかとも思っている。だが、一般人レベルの救護精神なら持ち合わせてはいるのだ。


「とりあえず止血?いや、肩を貸して病院に、その前に人を呼んで…その前に通報か!?あああああわかんねぇ!!!」


 だが、救護精神があるからといって、救護知識があるわけではない。

 アタフタして頭ががフットーしそう、いやフットーしちゃったのも無理がないという話である。


「だ…大丈夫…さ…そんなことより、早く、逃げるんだ…」


 だが情けない俺と違いさすがヒーロー、タフガイであった。

 彼はよろよろと立ち上がり、自らの敵への一歩を踏み出し、数歩でべしゃりと崩れ落ちた。

 ボロボロの自分より俺を優先するのはいいが、ぶっちゃけもう死にかけのセミぐらいやばそうである。


「大丈夫ですかっ!」


 語彙力がなくなっているが、実際死にかけのセミみたいなヒーローを見ればこれぐらいしか言葉は出てこない。

 それよりも、もうマヂ無理。。。な彼をどうにかせねばならない。

 だがそんな俺を気にすることなく、彼はのろのろと、だが確実に前に進もうとする。


「行かないと…奴らが…」

「いや、ヤバイのはわかりますけど、流石にその状態じゃ無理でしょアンタ!」

「大丈夫…ヒーローは無敵だ…!」


 聞きやしねぇ。

 なんだコイツ。


 大丈夫だ…って言った時に

『そっすか!じゃあさいなら!』

 って帰ればよかった。


 だが、乗りかかった舟である。

 流石にこんな状態のヤツを放っておくわけにもいかんだろう。

 たとえ、ヒーローであっても、だ。




 だったら、実力行使だ。




「おいアンタ」

「何故まだ居る…早く逃げ」うるせぇ、死にかけの奴に心配される筋合いなんかないんだよ!いいか、今からあんたを病院に連れて行く!従わないなら殴って連れて行く!どっちがいいか選べ!」


 大声、というよりもはや叫ぶが、まったくもって聞きやしない。


「ふざけるな!私は!ヒーロ」だからうるせぇ!アンタがヒーローだろうが何だろうが知ったこっちゃないが、アンタみたいなの見捨てて帰ったりしたらエロ本が不味くなる!以上!」


 きっぱりと言い切ってやったが理解も納得もしていないらしい。

 無駄に喚いているが、それくらいの元気があるならまあ死にはしないだろう。

 むしろうるさすぎてトドメをさしてやりたいくらいだ。


 未だやかましい死にかけヒーローを持ち上げようとしたのだが、


「おっも!なんだコイツ!」

「し、失礼な!重くなんてない!」


 乙女か。


「いや重いわ、筋肉ダルマか!」


 重いだけじゃない。こいつの体が血に塗れているため、ヌルンヌルン滑るのだ。

 持ち上げにくいにも程がある。

 それに女の子のぬるぬるなら大好物だが、野郎のヌルヌルなんてどこに需要があるのか。この世界のどこかにはあるのかもしれないが、俺は必要としていない。

 ちなみに、「女の子」なら『ぬるぬる』で、「野郎」は『ヌルヌル』だ。

 どう違うかといわれても説明はできないし、するつもりも無い。

 分かる奴だけ分かればいい。


 なんか持ち手みたいなのついてないかなーと赤スーツを眺めると、なぜかこいつのベルトだけは全く血に濡れていなかった。それはもうピッカピカである。


 丁度いい、とりあえず体勢を直せば後はおんぶするなり肩を貸すなりできるのだ。


「ベルト持って持ち上げるからなー」


「ちょっ!ベルトはっ、やめっ…」



 問答無用。



 俺はベルトを引っ掴んだ。














 そして、眩い光に包まれた。














 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇












 ………








 お…て…










 おきて…













 起きて…



「起きてるわ!」




 目の前のヤツに思いきりチョップをブチかました。




「いたっ!なにするっショ!」



 …は?







 ◇






 腹が立つ。

 ここまで腹が立ったのも久し振りだ。


 俺は、バカみたいにふよふよ浮いているバカみたいな生物の前で、自分でもびっくりするほど深い深い、それは深いため息をついた。


 いきなりバカみたいな光量の光に包まれて、気がついたらよくわからないところに連れてこられて、そのうえ目覚めのシーンみたいな声をかけられた。



 起きてるのに、である。

 しかも、ちょっとずつ声を大きくして、エコーをかけようとしていた。

 馬鹿にしているのか。


 それだけではない。


 語尾付きだ。


 このよくわからん生物、『〜ショ!』とかいう。


 今までアニメとかでは語尾がついたキャラクターなどは全く気にもならなかったものだが、現実にいるとこうもイラつくものなのか。

 ボクっ娘も現実ではかなりアレだと聞くし、やはりこういうものはフィクションだから、ということが大事なのだと痛感した。


「んで、お前なんなの?」

「お前、なんて言わないで欲しいっショ!ボクの名前はライズ、簡単に言えば正義の神っショ!それで、キミにお願いがあるっショ!」



 色々と情報が多い。


 まず、俺は無神論者という程ではないが、「神」というものはあまり理解できない。

 別にいてもいなくてもいいんじゃないかな、ってスタンスだ。

 だが、「正義の神」ってのはなんというかこう、ちょっとアレな気がする。

 あまり信じられるようなものでもないし。


 それとこいつの見た目は、小学生が想像する「天使」と「犬」と「猫」を混ぜ合わせたような感じである。

 素材は良いように思うのだが、絶妙に可愛くない。ガチで売れてないゆるキャラ感がすごい。しかも浮いている。サイズは小型犬くらい。

 まだ小型犬の方がマシである。


 あと、お願いってのが嫌な予感がする。

 ビンビンする。

 バリ3で。



「そういやお前、性別は?」

「性別?ボクは神だから、雌雄なんてないにきまってるっショ!あと、ボクはライズ!ちゃんと名前覚えてっショ!」



 うむ。


 とりあえず、ボクっ娘ではない…のか?

 まあ良しとしよう。



「それで、お願いなんだけどっショ…」





 その前に、言いたい事がある。





「謝れ」


「ヒー…え?」


「謝れと言ったんだ」


「え?え?な、なんでっショ?」


 何故かわからないというような顔をするライズ。絶妙に可愛くない表情にも少し腹が立つ。


「まず一つ、いきなりこんなよくわからないところに連れてきた事。二つ目は連れてくる時の光が強すぎてまだ目がチカチカする事。三つ目は全体的に俺を馬鹿にしている事だ」

「ちょ、ちょっと待ってほしいっショ!一つ目は緊急時だから仕方ないっショ!二つ目は、その、光量はデフォルトにしてたから、その、ボクのせいじゃないっショ!あとでサポセンに電話しとくっショ!あと、三つ目はホントにわかんないっショ!」


「あとその『〜ショ』ってやつもだ」

「ショ!?」


 サポートセンターがどうとかも気になるが、まあ、それはどうでもいい。


「とりあえず、お前の態度はお願いをする奴の態度じゃない。お願いってのは自分に落ち度がない状態でするもんだ」

「そ、それはそうっショね…ご、ごめんなさいっショ」

 けっこう素直であった。


 そして、もう少しだ。


「口で言うだけなら誰でもできる、謝罪の意思を伝えたいのなら、どうすればいいかわかるかね?ん?」


 できる限り、『俺から』ではなく『相手から』言い出すのが大事なのだ。


「…と言われても、どうすれば何をすれば良いっショ?土下座でもすれば良いっショか?」

「いや、そんな事をする必要はないさ、ただ…」

「ただ?」


「お前が神だっていうならこの空間に女の子の一人や二人や三人、呼んでもいいんじゃないかね?それでこういい感じの水着とか、バニーさんとか、あ、例のセーターもいいな!特大からまな板まで、お姉さんから合法ロリまで、こう、いっぱい呼んでだなぁ…そんで、『お兄ちゃん…私、一人じゃ眠れないの…』とか、『私とのヒ・ミ・ツだからね?』とか、『もう…しかたないにゃあ…』とかね!とかね!ぐへ、ぐへへへへへ」


 我慢できませんでした。まあ仕方あるまい。

 だがしかし、奴に落ち度があるのには間違いはないし、俺だって別に無理を言っているつもりも毛頭無い。


「その…トリップしてるとこ悪いけど、それは無理っショ…」

「は!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?お前神様やろ!?!?!?!?!?ちゃうのんか?なぁ!!!!!!!!」

「ヒ、ヒィィィ!!!こ、怖いっショ!マジで怖いっショ!だだ、だって仕方ないっショ!ボクは正義の神ってだけで女の子呼ぶ力とかあるわけないっショ!」


「そ、それでも他の神様にお願いしたり、なんだったら美人の神様とか呼んでくれるとかでもいいのよ?」

「それも無理っショ…この空間はボクと波長の合う人間しか入らないけど、かな〜りそれを探すのは難しいっショからねぇ…それにボクの知り合いゴリラみたいなオッサンの神とオッサンみたいなゴリラの神しかいないっショ」







 神は、いなかった。




 いや、目の前にいることはいるんだが。

 あと、なんか汚い神もいるらしいが。

 いないほうがマシだ。





 神は、いなかった。



 消えていく…俺の夢が…


 酒池肉林が…


 妹が、姉が、幼馴染が…


 先輩が、後輩が、先生が、教え子が、義母が、近所のお姉さんが、ケモミミ少女が、合法ロリが、俺のすべての理想が…







 消えて、しまった。








「燃え尽きたよ、真っ黒にな…」















 fin.




「ちょ、ちょっと待つっショ!お願い!ボクのお願いはどうなるっショ!!!」

「あー、もう、どうでもいい」

「どうでもよくないっショ!」

「うるさいな…さっさと黙れよ…」


 もういい。全部どうでもいい。


「ひどいっショ…もう!ちゃんと聞いてくれっショ!!!」

「あーはいはい、聞いてる聞いてる」

「もうそれでいいっショ…」


 ため息をつきながらも、ライズが姿勢?を正すと、なんか雰囲気が変わった。


「汝、下根佑に、お願いがあります…これは、正義の神ライズからの神託です…心してお聞きなさい…」


 周囲は暗くなり、空から光の柱が注ぐ。

 いつの間にか荘厳な音楽が流れ始め…



「なにしてんだよ」

「ちょ、邪魔しないで欲しいっショ!」


 やっぱり腹が立つので邪魔してやった。


「いやいや、なんだよこの演出」

「別にいいっショ!備え付けだし!フリー音源だし!誰にも迷惑かけてないっショ!」

「そりゃまあ、そうだけどさ…なんかこう、サムいぞ?これ」

「え、マジで?」



 神の真顔を見たのは、人類の中でも俺くらいのもんじゃないだろうか。



「大マジ」

「これ人間界で大ブームじゃないっけ?」



 たぶんそれは千年やら二千年やら前だろう。



「うわマジで…恥っず…もういいや、もういいいっショ!」

 素にもどっていたらしい。

 キャラ付けなのかアレ。







「下根佑!キミにお願いがあるっショ!」








 うさんくさい自称正義の神の口が開く。


 ぶっちゃけもう言うことはわかっているし、皆もわかっているだろう。

















「キミに、ヒーローになって欲しいっショ!」

「嫌です」

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