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練習用の作品  作者: シャバゲナイト老婆
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新しい出会い、そして転職


おい渋谷!休まず働け!


上司が昼休み中の僕に罵声を浴びせる。この会社は社員にまともな休みも与えず、サービス残業あたりまえ、休日出勤あたりまえ、しかも薄給という良いところゼロの会社である。唯一のメリットとするならば、


「わかりましたよ。働きますよ」


 業務内容が様々なゲームの攻略サイトをつくること、という点だ。この会社は群雄割拠のゲーム攻略サイト界隈では新参である。サイトの閲覧数がまだまだ少ないため、経営はかなり苦しいらしい。こうして僕も休み返上でゲームをしている。


のだが、


「マインスイーパーなんて攻略もへったくれもないだろ……」


 必ずしも自分が好きなゲームの担当になるわけではなく、今の僕のように攻略サイトの閲覧数が絶対に伸びないようなゲームもやらなければいけない。かれこれ2日くらいは出社してから退社するまでずっとマインスイーパーをやっているが、全然サイトに書けそうなことが見つかれない。


「係長!マインスイーパーで攻略記事を書くの難しいです」


「やっぱりそうか!ガハハハハ!」


 部下に2日間もマインスイーパーやらせといてガハハハって……。まあ、昨日は定時で帰れたからいいけど。


 今日も定時で帰ろう。


 無断で。


 そうして僕は退社までの数時間、マインスイーパーの記事を適当に書いて女性用トイレの窓から退社した。

 

 会社からの帰り道、大学時代の同級生に遭遇した。そのまま流れで居酒屋へ。出会った場所が飲み屋街だったので必然だった。


「渋谷も生でいいよな?」


 真向かいに座った恵比寿はスムーズに注文を済ませる。


「生2つと、鶏のからあげとフライドポテトに揚げ餃子!」


 え!


 28の胃袋に揚げ物3連続はキツイ。


 まあ、最近はカップ麺ばかりだったから、たまには揚げ物もいいだろう。胃もたれもまた、考えようによっては素晴らしい。


「それぞれ3人前で!」


「待って待って待って!!!!」


 食べ物のオーダーは僕が適当に注文して、乾杯。最近はアルコールを摂取する暇もなかったため、久しぶりのビールが五臓六腑に染みわたる。お店は8割ほどの席が埋まっていて、普通のサラリーマンはこんな生活を毎日続けられるのだと思うと惨めな気持ちになってくる。当然愚痴も出てしまう。


「いやあ、うちの会社はもう本当に酷くてさ。長時間勤務だし薄給だしサービス残業あたりまえ。今日なんて女子トイレの窓からコッソリ退社したんだよ」


 恵比寿はハハハと笑いながら僕の話を聞いてくれているもんだから、ついつい喋りすぎてしまう。もっとも、業務秘密なんて我が社には無いから何を言っても問題ない。


 恵比寿は僕の愚痴を長々と聞いてから、じゃあさ、と口を開いた。


「転職すればいいじゃん。よかったら俺の知り合いが勤めている会社、紹介しようか?」


「それはうれしいけど、会社の業務と並行しながら転職活動する余裕ないしなあ」


「じゃあ、渋谷がオッケーなら小さいけど俺の会社に来なよ。それなら転職活動も要らないでしょ。今ここで採用面接すればいいし。では、これから面接を始めます。えっと、渋谷君ですね。28歳。なるほど。はい、採用」


「あ、じゃあ来月からよろしくお願いします」


 こうして僕はゲーム攻略サイト運営会社から華麗なる転職を果たした。

 元の会社で退職に伴う引き継ぎをしている時に聞いた話だが、この会社は親会社のお偉いさんの息子が遊びで作った会社らしく、会社の運営としては設立当初から破綻していたらしい。


 入社する前によく調べておけばよかった。ゲームして給料ゲットなんて天職じゃん!と思った大学4年生の僕を怒りたい。


 新しい職場は出版社という未知の領域だった。大学を卒業してから6年間ゲームをして攻略法を書くことしかしてこなかった僕でもできるの?と恵比寿にきいたら、


「作家から原稿を貰うだけだから誰でもできるよ」


 と言われた。なんだそれ。


 入社初日、「この人に仕事のこと色々教えてもらってね」と恵比寿から言われ、僕に3歳年下の女上司ができた。元の会社では新入社員なんて数年に1人来るか来ないかだったため、部下を持つという感覚が身についていない僕にとっては、年下が上司になる抵抗はあまりなかった。


「前職はなにしてたんですか?」


 と直属の上司である目黒さんは僕に聞いてきた。どうやら恵比寿は僕が転職してきた人間であること以外のことは話していないようだったので、僕も円滑なコミュニケーションを心がけることにした。こういう質問への返答としては、あまり専門的な用語を排除して会話するのがグットコミュニケーションである。そう、例えばこのようにね。


「前の会社では、ずっとゲームとパソコンしてました」


「……は?」


 目黒さんは、あなたの言っていることが1パーセントも理解できません、という顔を僕に向けてきた。これは俗に言うバットコミュニケーションである。

 このままでは目黒さんは僕のことを大学卒業してからずっとゲームだけをしていたクズ人間だと勘違いしたままになりそうなので、すかさず補足説明をして事なきを得た。

 


そうしてこうして、僕の新しい会社での新しい生活が始まった。



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