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花蓮な女神の夢想反響(トラウムローゼ)  作者: 志倉加賀
一章 ≪魔物の世界≫
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第四話

 駅から出て徒歩15分。小規模な町を抜けると大きな門があり、そこをくぐると現れる大きな大きなお城のような学校。これが強院である。正式名称は『軍事強攻女子学院』。ホリックに対抗するため、新人類を育成する国の施設の一つ。基本的には寮で生活し、週五日で授業を受ける。



「ここら辺かな」

 門を潜り、大きな噴水のある広場。手に持っている紙には小さな地図があり、ここを左に曲がれば体育館らしい。

 それにしても驚いた。椿さんが急いでさきに行ってしまったのだ。それも今日が入学式という流石の私でも驚く事実に気付いたからだ。何で今日なんだろう。私は意外と余裕あるように家を出たはずなのに。まあ、寄り道し過ぎた結果なんだけども。だって途中通る町とかに珍しいものとかあったし、私の興味を引く奴らが悪い。

 しかし、ずっと思っていても仕方ない。私は少し速足で入学式会場へ向かう。

 体育館に入ると色々な装飾がされており、ステージには入学式と大きく書かれた紙が飾ってある。すると後ろからとんとんと肩を叩かれ、振り向く。

「そろそろ始まるから前の方から詰めてね」

 どうやら在校生の方らしく、新入生の誘導をしていたらしい。私はその指示に従い、パイプ椅子に座る。さて、お隣拝見。

 隣の人は普通の女子だった。そしてこちらの視線に気付いたのか、「よろしく」と言う。うん普通だ。その普通を大切にしてほしい。

 そんな事を思いながら待っているとステージの端から一人の女性が現れる。

「ん、んん!」

 咳払いをし、女性は話を始める。

「ようこそ、ここが今日から皆さんに通ってもらう我が校『軍事強攻女子学院』。皆さんにはここで三年間を過ごしていただきます。この学校のしせちゅ」

 …噛んだ。思わず笑ってしまいそうになったが、目の前で真剣な顔で話している女性に失礼なので自粛する。女性は「すみません」と一言言い、なかったことのように続ける。

「この学校の施設は国からの支援もあり、様々な物が備わっています。例えばプール、大きなグラウンド。ほかにも塾など。これらの施設を有効利用し、皆さんが優秀な逸材として世界に出て頂きます。どうぞ、頑張ってください」

 女性は一礼するとステージの幕に隠れる。それと入れ替わるように白色の軍服(せいふく)を羽織った一人の女性——椿さんが現れる。

「はい、在校生代表の近衛椿です。皆さん、まずは皆さんの門出を祝います。私がこの学校に入学した時の事を思い出します。きっと皆さんも昔の私達のような気持ちを抱いているのでしょう。中には友達と仲良くできるか不安な人もいるでしょう。でも不安は今は不安でもいつか自分自身の自信に繋がります」

 そんな例のような挨拶を延々とやると一礼をして「次は校長の言葉です」とアナウンスがかかる。

 するとステージの真ん中に三十代くらいの女性が立つ。足が不自由なのか杖を突いている。

「えーっと、かたっ苦しい挨拶はやめてっと。ようこそ、私はこの学校の校長、鹿苑寺(ろくおんじ)(かなめ)だ。で、椿くんの前にお堅い挨拶をしていたのが私の補佐を担当する匂宮(におうのみや) (そう)。まあ、気軽に私の事は要先生、彼女の事は双先生と呼んでくれたまえ」

 ここで一度深呼吸する。どうやら疲れたらしい。その様子を見ると校長、要校長は大勢の前で話すのは得意ではないらしい。

「さて…言う事は大体双くんが言ってくれたから、どうしようかね。昨日食べたランチがおいしかったって話でもしようかな?」

 なんか、とてつもなくどうでもいい話をしようとしてる。そんな彼女の背中をトントンと叩き双先生は要校長の耳元でこしょこしょと何かを言っている。

「そうだそうだ、思い出したよ双くん。えーこの後、向こうの掲示板にクラス分けが表示されます。そしてさっき渡した校内の地図に従って自身の教室へ向かってください。以上解散」

 


「二組…か」

 みんなの浮かれた姿に中てられたのか、呟いてしまった。しかしながらこの「二組」というのに疑問を抱く。パンフレットにはこの学校は「クラスは実力で分けられる」らしい。今年の新入生は200人弱。全クラス合わせて四組まであるので計算すると学年で200人中40~80位くらいの実力となる。正直、私はそこまで頭がいいわけではない。自慢ではないが入試じゃあ後ろから数えた方が早いくらいだ。

「………」

 ま、いっか。クラスが二組なら待遇もいいだろう。もし間違いだったとしても知らなかった事にしよう。

 とりあえず強院一年二組出席番号一番の暁夜空として二組の教室にに向かった。

 靴を履き替え、一階の廊下を歩く。その廊下はとても解放感があり、隣には水路もある。夏には涼しそうだ。長い廊下の末、行き着くのは二組の教室。ドアの向こう側から騒がしい声が聞こえる。

 嫌だなぁ、こういう空気。そう思いながらも一回深呼吸し、ドアを開ける。すると、まだ五人ほどしかいなかった。

 あれ? 声からしてもうちょっといると思ったんだけど意外と少ない。まあいいか、気にしないようにして教室に入る。

 これで教室の中にいるのは六人。

 一人は私が入った瞬間、とてつもない不機嫌な顔(被害妄想)になった長髪の少女。二人目はその取り巻き臭ぷんぷんの短髪。三人目は…というか四人目も五人目も二人目と同じようなものなので省くか。

 五人の視線を華麗に無視し、自分の机に座る。出席番号一番のため、一番端っこだ。人付き合いが苦手な私にとって両端でなく片方にしか人がいないというのは結構うれしい所だ。

 バックから少ない荷物を机の上に出し、机の横に置く。

 さて、寝ようかな、暇だし。

 こんな事ばっかやってるから友達いないんだよなあ。

「起きろ」

 ポンと本の角で叩かれた。いてぇ。垂れていたよだれを拭き、目の前に立つ女性を前にする。

「いい夢見たか?私はお前らの担当、渋沢(しぶざわ)だ。よろしくな」

 じゃあ、渋せんと呼ぼう。この人はさっきの長髪並みに不機嫌そうな顔だ。と思っているとさっきとは比べ物にならないくらいの視線も感じた。周りを見渡すとほぼ全員が教室に居た。

 なるほど、ホームルームを始めるのか。ならたたき起こされるのも納得だ。

「ああ、すみません~」

 はあ と大きなため息をつき、名簿を教卓の上に置き、話し始める。

「…じゃあ、ホームルームを始める。この学校の事は入学式の時も事前説明会でもやったからいいとして、何か説明は必要か?」

 シーンとなる。

「無いらしいな。ならこの後のことについて説明する。今の日付は四月の6、金曜日だ。そして土日と休日、そして月曜日が貴様らの『戦士』としての試験だ。この試験は絶対ではないがこれで優秀な成績を収めればいいことがあるかもな」

 いい事、というのは称号のことだろうか。

「月曜の予定はこんなものかな。それではこれから委員長と副委員長を決めてもらおうかな」

 来た、クラスをまとめるめんどくさい役。クラスがいいクラスなら少しは楽だが、うるさいクラスだった時のヤバさと言ったら。ちなみに私は中学生の時、前期後期合わせて三回やった事がある。

「誰かいないか」

 渋せんはそんな事を言うがシーンと静かになる。と思ったら一人、大きく手を上に伸ばす者がいた。さっきの長髪だ。

「おお、そうか、助かるぞ。じゃあ、えっと」

 渋せんは慌てて名簿を確認する。

「すまん、鏡谷(かがみや)。あとの副委員長決めは頼んだ」

 そういうと鏡谷は「はい」と立ち上がり、渋せんは教室の後ろに回る。

「誰か、やりませんか?」

 鏡谷の問いにクラスは沈黙に包まれる。あれ、意外だ。寝る前に見た四人の内一人くらいは手を上げるものだと思っていた。まあ、上辺だけの関係ってことか。

「貴方はどうですか?」

 ああ、こうやって人を攻撃する戦法か、怖い怖い。もし私にやってきても絶対にやらないぞ!

「聞いていますか、貴方ですよ」

 自分に呼ばれて気付かないなんて馬鹿な人もいるなあ。

「貴方ですよ!」

 痛い!!アチョーとまたもや頭を叩かれる。

「え…私?」

「はい、やりませんか?」

 なんで私なの。さっきので悪目立ちしちゃった?いや、悪目立ちしたら誘われないだろう。じゃあなんで私なの?

「え、あ、えっと」

 やばい、どうしよう。嫌とも言いにくいし、やりたくもない!私は苦労してる人を見るのが好きなんだ。中学生の時だって散々おだてられて引き受けたけど、後悔しかしてない。やってよかったなんて思う事は一つもない!

「やるの?やらないの?」

「え、えーっと……………………………………………………やります」

 凄まじい寒気が体を襲う。

 言ってしまった。やってしまった。人生四度目の後悔だ。いや、そこまでではないにしてもこれは嫌だ。小後悔だ。

「じゃ、決まりだな」

 後ろから教卓の元へ戻ってくる渋せん。先生、お願いします。今すぐ私をやめさせてください。お願いします。

 そんなもう心の中の絶叫も虚しく渋せんは続ける。

「いやぁ、早く決めてくれて私もうれしいよ。じゃあ金が鳴るまで自由時間な」

 静かにな と渋せんは教室から出る。しかし、クラスは普通にざわざわとしだす。

 さてと、また寝ようかな。そんな事を思い、うつ伏せになろうとした時、

「ちょっとみんな、気付いたんだけど自己紹介してなくない?」

 ああ、そういえば。鏡谷の言葉にみんな当然、異論は無く、全員賛成で自己紹介が始まってしまった。そして最初は当然のように出席番号一番、つまり私だ。

 トップバッターかよ。みんなの視線がまた私に集まる。しかたない、やってしまおう。私はその場で立ち上がる。

「どうも、暁夜空です。この度は副委員長をやらせていただきます。よろしく」

 素っ気ない感じで終わらせ、すぐに席に戻る。すると二番三番と自己紹介を始める。全然覚えられない。

「どうも」

 どうも

「よろしくね」

 よろしく

「仲よくしよう!」

 仲良くねぇ~



 やばい、これじゃあ私の心がひん曲がった駄目人間みたいではないか。まあ今更だが。

 今日の学校の色々は終わり、時刻はお昼過ぎ。私がいるのは学校に隣接されている食堂だ。セットはいろんな種類があり飽きないらしい。入ってすぐにわかる真実はこれだった。大きく貼られている紙には「今月のメニュー」と書かれており、その言葉から分かるように毎回変わるらしい。そりゃ飽きないよね。

 さて、人生初の学食、何にしよう。人生初といい意味で捉えて高いのを選ぶか、悪く捉えて安いのを選ぶか、迷うな。そんな事に悩んで紙とにらめっこしていると後ろから「あ、夜空ちゃん」と声がかかる。後ろを向くとそこには朝、在校生代表として話をしていた椿さんだった、あともう二人。

 一人目は茜色の短髪。制服は椿さんと同じ白の軍服。可愛らしい笑顔でこちらをじろじろと見る。興味津々らしく、すぐに「この子は?」と聞いて、もう一人は青い前髪で目元が隠れていて、口元しか分からない。だが、一人目と同じように首を傾げている。

「うん、この子はこの前話した夜空ちゃん」

 茜色の女性は「ああ」と、目の隠れている女性は無反応でこちらを見ている。

「このチャラチャラとした子は三崎(みさき)(なずな)。銃使いで戦場戦姫(フリューゲル)の二人目」

 戦場戦姫(フリューゲル)。確か、椿さんは一人目、第一之翼…だっけ。ならこの薺さんは第二之翼といったものだろうか。

「で、こっちの目が隠れてる子は蛇喰(じゃばみ)。この子も戦場戦姫(フリューゲル)で三人目。スタイルは魔法なの、珍しいでしょ」

 あれ、薺さんは名前言ったのにこの蛇喰さんは名前を言わないのかな。と、それよりも魔法?魔法って、

「そうそう、あの魔法」

 あの魔法とは、ただ単純に魔法なのである。童話やファンタジーに出てくる謎の力。

 具体的に言えば使う者の魔力を使い、色々な用途でその魔力を開放する技術である。ではなぜ、私がこんなに驚いたのかと言えば、使える者が全くいないからだ。簡単に言えば千人に一人、いやもっとやばい確率だ。ファンタジー小説のようにみんながみんな使うことが出来ないのだ。

 というのがつい数年前からだ。と言っても全員が何でも使う事が出来るわけではない。少なくとも昔よりは使える人が増えた、でも使えるのは今分かっている魔法のごくごく一部という現実。もちろん私は使えない。中学の時、先生に「お前、使えるんじゃね」とか変なテンションで言われて「は、はぁ」と言う感じで一週間受けて「ごめん…駄目だわ」と言われた。この時の私の「え?」っていう虚無の顔は自分で思い出しても爆笑してしまう。

 まあ、最近の都会では少しでも素質があれば使える「基礎魔法」があるって話だし、それなら使えるのかな?

「凄いですね。蛇喰先輩」

「………」

 蛇喰先輩は椿さんの後ろに隠れる。

「ごめんね、蛇喰って凄い人見知りで。親しい人には結構喋るお喋りさんなんだけどね」

人見知りか、私も昔はそうだった。治し方をアドバイスするとすれば相手の目を見るのではなく、相手の顔の毛穴を見よう。今は流石にやってないが、あの頃は人の顔は全く覚えられなかった。

「まあ、立ち話も何だから、とりあえずお昼にしましょう」

 わかりました と私と椿さん、蛇喰先輩と薺先輩は定食をそれぞれ頼み、席に着いた。

「「頂きます」」

 流石にこういう時は蛇喰先輩は喋るらしい。まあ、当たり前だが。いや、でもたまに言わない人がいるんだよなぁ。

 私は通常定食というバランスの取れている?定食で、椿さんはヘルシー定食。いつものように野菜が多いい。やっぱりこの人、野菜好きだな。と椿さんのある物に目が行く。

「牛乳、好きなんですか?」

 そう、牛乳だ。別に珍しい物でもないがそれは量だった。普通ならコップ一杯くらいだと思うのだが、彼女の手には紙パックで牛乳が入っていた。

「まあ、好きだね」

「で、その栄養はぜーんぶ胸に行くんだよね!」

 椿さんの言葉にかぶせるように薺先輩は割り込む。そっか……。

「…………」

 にしても蛇喰先輩は静かだなー。本当に静かに黙々と食べてる。そういえば一時期全く人と話さない時期あったなぁ、って言っても私が招いたクラス全員の疑心暗鬼ゲームの時だったんだけど。あの時の私はクズだった。いや、今もか。

 みんなは食べ終わり、空の食器をトレイに乗せ、返却する。

「じゃあね、夜空ちゃん」

「またね」

「………」



 ああ、おいしかった。今度からは毎日食べに行こう。

 そんな事を思いながら、角を曲がると、

「こんにちわ」

「へ?あ、こんにちわ」

 いかにも悪そうなお嬢さまの顔をした鏡谷がそこにはいた。



続く

ブックマークしてくれている方、ありがとうございます。

正直ビビりました。

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