第十二話
目が覚めればそこは教室だった。
私は机にうつぶせになって寝ていたらしい。首がいてぇ。
マジか。つまりは今までのはすべて夢だと……。私が二人を庇ってあの大きな怪物を謎の力で倒したっていうのも夢なのかな、それは嫌だな。
ってか、私は後半の記憶がないんだがどうすればいいのだろうか。
周りを見渡してみると私のほかにもクラスメイトはほぼ全員が寝ていた。起きていたのは頭を抱えている茉莉と鏡屋のみだった。
「いたたたた…、だ、大丈夫?」
「なんか頭痛い~」
二人は大丈夫そうだ、うん!
気分の悪そうな二人を置いておいて私は机を立つ。それとほぼ同時に教室のドアが開く。渋せんだった。渋せんは険しい顔をしながら教卓に数枚のプリント類が入ったファイルを置いた。渋せんは言う。
「えっと、まずはそこの三人、暁くん、獅子理気くん、そして鏡谷くん。君たちは合格だ、おめでとう」
そっけなく渋せんは言う。
そっかぁ、やっぱり私生き残っちゃったかー。
ということは椿さんみたいに変な称号貰っちゃうのかな? いや、あれは生き残った中でのMVPって意味なのかな。そこら辺の説明が欲しいなー。
そんなことを思っていると同じようなことを考えていたらしい、鏡谷が手を上げた。渋せんはそれを見て指名した。
「よく意味が分かりません。まず一つ、今まで私たちがいた世界は何なんですか? そしてもう一つ、今寝ている生徒たちはちゃんと生きてるんですか?」
全然違った。
おいおい、鏡谷は称号が欲しんじゃないのか? なぜ聞かない? いや、そんなことを思ったが鏡谷の方が何倍も正論なんだろう。そうしておこう。
黙る三人に渋せんは答えた。
「まずあの世界か。あの世界はこの学校に勤めているシリウスという人物の大規模魔法だ。ここにいる全員の意識を作り出した世界に飛ばすというな。そしてもう一つはこいつらが無事がかか? 簡単、無事だ。こんな序盤の試験で死なれてはたまらん」
ん?
「序盤のって、もしかしてまだあるんですか?」
「いや、序盤というのは学校生活の意味で別にこんなものが何度もあるなんて見てる私も嫌だ」
「そうですよねー」
いや、心底そう思う。もしあそこで負けて自分が死んでたらなんでここまで来たんだよと自分を叱ってやりたい。まあ、そんなことを言っても叱るも何もその頃の私は何もわかっていなかったんだけども。
「質問はないか? 特に獅子理気、さっきから何も言っていないが」
そう渋せんが聞くも茉莉は大丈夫ですと答える。あるある、授業中質問しろとか言われて「いやねえよ」とか思うやつ。
そうか、と渋せんは本題に入るらしくファイルから数枚の紙を取り出した。
「まずは合格者発表」
ごくり、私は唾を飲む。
「一人目、暁夜空。おめでとう、君には称号が与えられる」
よっしゃー! ってちがーう! 私は恥ずかしい称号がいらないんだよぉ!
「それで次に鏡谷と獅子理気だ、おめでとう」
「はい、夜空がフルネームだったのに私はフルネームじゃないのは少々不満ですが」
「えっと、はい、ありがとうございます」
私に続いて鏡谷と茉莉が呼ばれる。それに不満を持つ鏡谷と今の状況をいまいち理解できていない様子の茉莉ははいと答える。
「……そうだな、精一杯の祝いはしたし、今度は何を言えばいいのか」
今の「おめでとう」は渋せんの精一杯の祝いだったらしい。もっとこう……、ほしいな。別に欲しがるわけではないけど、ほしいな。
適当にファイルの中の紙をめくる渋せん。そして「そうだったそうだった」と一枚の紙を取り出す。
「えっとだな、そうそう称号だ」
その言葉に鏡谷の耳はぴくっと動く。今、称号に反応したな!
ま、それは置いておいて私はどんな恥ずかしいものをもらってしまうのだろうか。
静まり返る教室。四人しかいないそこで教卓の前に佇む渋せんは口を開く。さあ、その称号の名とは、
「≪色彩指揮≫」
「「……」」
うわぁ。
なんだその中学生が頑張って考えたようなネーミングは。いわば若かりし頃に脳内で描いたと事をノートに綴ったような……。
ん? でも待て、椿さんの場合、これの次に続くものがあった気がする。なんだっけ? なんかこう…もう一個あったな。思い出せない。
「暁、お前にはこのチームのリーダーをしてもらう」
「…………………ふぁっ!」
完全に時間差。椿さんの称号を思い出そうとしていたらそんなものよりももっと重要な事を言われた気がするっ! いや、言われた!
何? リーダー! なんだっそら! 新しい単語か? 学校の先生が造語でしゃべってんじゃねーぞおらぁ!
「暁、返事!」
「……はい」
流石にそんなことを言う気にもなれないし大人しくしておこう。
はあとため息をつく渋せん。ため息をつきたいのはこっちもなんだよなぁ。
「…じゃ、これの個々の称号だ。これは一人につき一つ与えられる称号に連なるものだ。覚えておけ」
はいはい。それで?
「まずは暁、お前は……第一之詩 ヴァイスだ」
ヴァイス。
≪色彩指揮 第一之詩 ヴァイス≫
なんだろう。このダサいはずなのに気に入っている自分がいる気がする。ヴァイスは確か昔のどこかの国の言葉だったかな? 確か白か、つまり私か。
「そして茉莉は第二之詩 ヴィオレット。そして鏡谷が第三之詩 ローザ」
≪色彩指揮 第二之詩 ヴィオレット≫
≪色彩指揮 第三之詩 ローザ≫
渋せんは紙から目を話してもう一度、
「おめでとう」
祝った。
………まあ、何というか……何と言えばいいんだろうか?
とりあえず祝っておこう。
おめでとう鏡谷、おめでとう茉莉、おめでとう私。
ま、それはそれで置いておいて。
これっていいの?
結局鏡谷が言ってた称号も手に入ったし万々歳でいいの?
なんかこう……あっさりとし過ぎてあんまり喜びを感じられないんだよね。なんだろう。
そう思って鏡谷を見て……って泣いてるっ!
鏡谷は顔を押さえて肩を震わせている。それは状況によっては解釈は変わるがここでは完全に感動だろう。
…まあ、良かったよかった。一人でも喜んでいるのならいいだろう。
渋せんは忙しいのであろう、そそくさと教室を出た。あの先生からの圧から解放された私は机を立って鏡谷の所へ行った。
「泣くほど嬉しかったの?」
「……違う」
ん? つまりどういうこと?
「あんたにリーダーを取られたぁ」
そっちか。
そっちなのか。
てっきり感動して泣いてるのかと思ったわ。
「確かにあの怪物を倒したのは夜空だけど、私を助けてくれたのは夜空だけどぉ」
俯いてたわごとを抜かす鏡谷。
そういえば私、そんなすごいことしてたな。あの世界じゃ考えてなかったけど、実は私、本当はすごい人間なんじゃないのか?
中二病に目覚めそうになって頭を振ると鏡谷が顔を上げた。
「ま、いいわ。別にリーダーじゃなくても私の夢に近づいたことには違いないし」
意外と前向きで助かった。このままうじうじされるよりはわがままの方が扱いやすいし。
んで、茉莉はどうだろう。
最近影が薄いような気がする彼女はきっと無口で能天気だからだろう。
茉莉の机を見てみる。
茉莉は椅子に座ったまま、んー、とうなっていた。
「どうしたの?」
そう聞いてみると茉莉は私の方を見た。
「この称号ってあるじゃん」
「うん、イグナーツってやつね」
「そうそう、これってさ」
茉莉は言う。それに私は相槌を打った。
「これってかっこいいって思って考えてるのか?」
「………」
それは言わない約束でしょう。
しゃーない。
まあ、この適当で大規模な試験が終わって私たちは成長した。
それで済まそう。
かっこ悪いのかかっこいいのか分からない称号とかいろいろあったけれど。
ってか、まだまだ学生生活これからなのか。正直もう卒業するくらいの気分だったわ。まあ、別にそこまでテンション上がってなかったけど。
続く