第十一話
今回で≪雪下の試練≫編は終わりという感じです。
私は階段を下っていった。
それは螺旋階段上になって、ぐるぐると回って行った。そしてどんどんと暗くなっていくのが分かる。
ポタンポタンと垂れる水滴。
カタンカタンと鳴る足音。
今にも崩れてしまいそうな階段を私たち三人は行った。
「すごい、雰囲気出てるね」
「そうね」
「今にもなんか出てきそう」
そんな会話をしながら私たちは下って行った。そう、下って行ったのだ。一分経っても二分経っても三分経っても、ずっと続いている。段々自分が何しているのか分からなくなってくる。
「これがゲシュタルト崩壊ってやつか…」
「多分意味違う…」
「なんもないよー」
「正直足疲れた~」
「もうちょっと頑張りなさい」
「「ええ~」」
この三人で入ればこんなところにいても大丈夫。そんな風に思い始めた。きっと二人も思ってくれているだろう。
壁はタイル…いや、レンガだろうか、所々かけているところが気になる。こういうのを見ると向こうを覗きたくなるのだ。
知っている。
こういうのがホラーによくありがちな展開であることに。しかし、好奇心とは恐ろしいものだ。私は足を止めて目の前にあった穴に目をやった。すると、
「っ!!!!!!!!」
言葉が出ない。
驚いたから? いいや、違う。あれは驚くという次元を軽く超えている。恐怖に打ちひしがれている何も知らない鏡谷や茉莉が不思議に思ってこちらに戻ってきた。
「どうしたのよ」
「いきなり立ち止まって? どうした?」
「いや」
言葉が出ても表現する語彙が見当たらない。いや、一つある。
「ねえ、鏡谷。これ、知ってる?」
「何よ」
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている……ね?」
「し、知ってるって言うか聞いたことあるっていうか………ってあなた!」
気付いたらしい。
そう、今、暁夜空は謎の巨大な目に見つめられているのだ。
目が合ってる。きっと目線を外したら殺される奴だ。
嫌だぁ。死にたくなぁい。そう思う反面、とある行為をしろと自分が言う。きっとこれが良心、親切心というものなのだろう。
「ねえ、二人とも」
「な、何よ。急に改まって……。まさか、自分を置いて逃げろなんて言わないわよね?」
「………」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「大丈夫。ちゃんと策はあるから」
「でも」
「お願い、私を信じて」
迷いのない視線……ではなく、壁から目を離せないため傍から見たら変な感じに見えるだろう。だがこれでも私の思いは鏡谷と茉莉には伝わっているらしい。
「策、あるんだよね」
「あるよ」
「あとで、絶対に会おうよ」
「分かった」
「ほんとのほんとだからね!」
「分かったって。生理?」
「違うし! ……行こ、茉莉」
「え、いや、でも」
「早く」
茉莉の手を引っ張って階段を上がっていく鏡谷。私とすれ違う直前、彼女は呟くように言った。それはまた会おうという念押しではなかった。それは、
「実は、生理」
…………。
マジかよ。
彼女との最後かもしれない会話は生理トークだった。
ニ十分ほど経った。
鏡谷の生理が判明……じゃなくて鏡谷たちと分かれた私は向こうの怪物とずっと見つめ合っていた。
さて、どうするか。
策? そんなんあるかっ! あるわけないだろぉぉぉがよぉぉ!
どうしよう。これから。
とりあえずこの状況をどうにかしないと。
そんな風に考えるが実際何も思いつかない。
今ある策は一つ。
目を離した瞬間に階段を駆け上がって逃げる。これだけだ。
「さて、やるか」
やるか? やらないか? 今、私の決心がすべてを決める。もしかしたらさっきの手帳の人みたいになるかもしれないけれど、それはそれでかっこいい。いや、負けてる時点でダサいな。やめようやめよう。
「……よし」
やるか。
私は決意を固めると、体を構える。
3
2
1
GOOOOOOOOO!!!!
「行っけぇぇぇぇぇl!!!」
走り出した。
螺旋階段をただひたすら。途中地ならしがした。そして奴のであろううめき声。きっとそのせいだろう。やばい。正直やばい。最初は何分も使って歩いていた階段だったが、死に物狂いで走ればそれは二分もしない内に階段を上がった。
よし、行ける!行ける行ける行ける!!!!
遺跡から抜け出し、日の光を浴びる私。遺跡はそのまま崩れていく。目の前には心配していたであろう鏡谷と茉莉の姿が。
よっしゃぁぁぁ!
そんな風に笑顔を見せた瞬間だった。
一気に何かが私から日の光を奪った。
そう、奴だった。
全貌を表した奴は大きな翼を広げて顔の先っぽで私をつまむ。そして、
はぁ?
奴は私を天高く吹っ飛ばしたのだった。
「あれぇ? これは何ぃ?」
空中に吹っ飛ばされながら私は叫ぶ。
なんでやねぇぇぇん! いや、マジで。
さっきからなんで私はこんな目に合ってしまうんだろう。日頃の行いか⁉ 日頃の行いが悪いのか⁉ マジかぁ。
さて、どうしよう。
この状況からどうにか出来るとしたらそれは魔法くらいだろう。
…………、
あ! 忘れてた! そうだ基礎魔法だ!
ほんっとすっかり忘れてた!
思い出した私。咄嗟に私はその基礎魔法、固有魔法がどういうものかを思い出そうとした。
……確か、小さな奇跡的なやつが基礎魔法なんだっけ?
別に基礎は何かの基礎ってわけじゃなくて今の魔法になるまでの基礎となった技って感じだった気がするぅぅ。
強く思えば小さな奇跡が起きる。小さな! 奇跡!
えっと、小さな奇跡。小さな奇跡……って!
考えていて気付かなかったが今、落ちてるんだ! 秒速五センチメートル……じゃねえよ! もっとはえーわ!
えっとえっと、翼をくださいぃぃ! ってそれは小さくねぇぇぇぇ!
どうしようどうしよう!
何かやらなきゃ。そうしなきゃ死んじゃう!
落ちて落ちて奴が見えてきてしまった。やばい! 茉莉も鏡谷もごみのようだ! ってギャグを言ってる場合じゃねえんだよぉ! 何自分に切れてるんだよ!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
なんか変な力が覚醒しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
「いいよ」
へ?
さっきまで激情でぐちゃぐちゃとなっていた心の中に誰かの声が響いた。そして身体を気味の悪い何かが包み込む。それは言ってしまえば憂鬱。そんな気分になるほど。それはどことなく私自身の声にも似ていて。
そして私はその瞬間から意識が来ていた。
「≪化物喰≫」
それが最後に聞こえた声だった。
意識が戻ると私は地面にいた。横には文字通り横たわるバケモノの姿。そして、
「よ、夜空……なの?」
「うん、そうだよ」
鏡谷、そして茉莉。
その表情は畏怖というものを抱いているのが良く分かった。
ああ、もしかして何かやらかしてしまったのだろうか。
ってか、何してしまったのだろうか?
やっぱり何かしてしまったのだろう。
そうして私、暁夜空はこの試験を終わらせた。
あーあ、最悪だ。不幸だ。
続く
なんか手抜きすぎてすみません。次の章からちゃんと修正できるようにします。
元々感情をあんまり表に出さないようなキャラの予定だったのですがすごい出てますね(笑)
それと章のタイトルとかこんなのどう? みたいなのがあったら是非感想とかに! 出来るだけやってみたいので